うつ病(気分障害)の症状の特徴と他の病気との鑑別・仮面うつ病
躁うつ病とも呼ばれる双極性障害は『躁病相』と『うつ病相』を交互に周期的に繰り返すつらい精神病であるが、躁病相の見られないうつ病そうだけのうつ病(気分障害)のほうは『単極性のうつ病・気分障害』と呼ばれることもある。
うつ病と類似した『憂鬱感・抑うつ感・気分の落ち込み』といった精神状態の不調は、ホルモン分泌障害の甲状腺機能低下症や脳の器質的疾患でも見られることがある。更に、『統合失調症・認知症(アルツハイマー病)・アルコール依存症・全般性不安障害』などのその他の精神疾患でもうつ状態は一般的な精神症状として起こりやすいので、効果的な治療法方針の見立てを得ていく上でも、うつ病なのかそれ以外の身体疾患・精神疾患なのかの鑑別診断が必要になってくる。
抑うつ感や無気力、絶望感、希死念慮などの精神症状が前面に出て来ることがなく、心身症的な体調の悪さとしての『身体疾患』だけが見られるようなタイプのうつ病のことを『仮面うつ病』と呼んでいる。仮面うつ病の人は表面的に見られる表情・動作・態度などからは精神の不調を窺い知ることが難しく、いつもニコニコと笑顔を浮かべて精神的なつらさを抑圧している状態像から“smiling depression”と言われることもある。
元気と意欲、興味関心、思考力が低下しているように見えるうつ病の人の心身症状の特徴は、以下のようなものである。
1.気分が塞ぎ込んで胸が痛くなったり意識がぼんやりしたりする『憂鬱感・抑うつ感・気分の落ち込み』が強い。
2.何にもやる気や気力が起きない、何もしたいと思えないという『無気力・意欲減退』が強い。
3.今まで楽しめていた趣味・娯楽も楽しめなくなり、何にも興味や楽しみを感じられなくなるという『興味と喜びの喪失』がある。
4.喜怒哀楽の表情が乏しくなり顔色が悪くなるといった『感情の鈍麻・喜びや興奮の消失・体調の悪さの感じ』がある。
5.それまでよりも話すスピードがゆっくりとなり、身体の動作ものろく感じられるようになる『精神運動制止』の状態になっている。
6.自分・他者・将来・世界(環境)について現状よりもどんどん悪い方向に変わって言って救いがないという『悲観的な認知(ネガティブな将来予測・思い込み)』に覆われた状態になっている。
7.何かしなければならないけれど何もできなくて悶々としたり、これから先のことが不安になって焦ったりする『不安感・焦燥感』が見られる。
8.物事を冷静に考える力がなくなり知的な作業に集中できなくなったり、すぐに覚えていたことを忘れてしまったり(物事を新たに覚える気力がなくなったり)する『思考力・集中力・記憶力の低下』がある。
9.死んでしまいたい、自分などいないほうがいい(周囲に迷惑や負担ばかり掛けて申し訳ない)、消えてしまいたいという『希死念慮・自殺企図』などが起こってしまうことがある。
10.睡眠障害・摂食障害(食欲減退)・性欲低下などの生理学的症状が慢性的に続いていて、特に『中途覚醒(早朝覚醒)・拒食症(神経性無食欲症,アノレクシア・ネルヴォーザ)』などの症状が見られやすい。
S.フロイトが創始した精神分析が隆盛していた19〜20世紀初頭までの時期には、うつ病は『抑うつ神経症』と呼ばれていて、抑うつ神経症の原因として性格的なヒステリーや心理的なトラウマなどが想定されていたが、現在では『精神分析的な心理的要因』よりも、抗うつ薬の処方と根拠にもなる『生物学的・遺伝的な要因』のほうが重視されるようになってきている。
しかし、抗うつ薬の薬物療法だけでうつ病を軽減・寛解させることは難しく、患者の精神症状の経過を観察しながら、精神医療と臨床心理学的な心理療法・カウンセリングを組み合わせた治療方針が有効とされている。
うつ病に有効性の高い心理療法とされているものには、アーロン・ベックやD.D.バーンズが開発したうつ病治療に特化した『認知療法(認知行動療法)』や、精神的な支持・ケアを与えながら他者とのコミュニケーションにおけるストレスを軽減させるための方法論を教育していく要素がある『対人関係療法』である。