うつ病(気分障害)とうつ状態(ストレス反応)の違い
自分で気分・感情をコントロールできなくなり、深刻な抑うつ感・無気力・自己否定・罪悪感などに苦しめられる『うつ病(depression)』は、重症度の高い精神病(精神疾患)であるが、何かつらくて悲しい出来事や精神的ストレスを感じる人間関係があった時に、一時的に気分が落ち込んでやる気がでないとか不安感に襲われるとかいうだけではうつ病とは言えない。
うつ病(気分障害)の症状の特徴と他の病気との鑑別・仮面うつ病
精神病理であるうつ病とは区別して、憂鬱感・気力の低下・落ち込みを中心とする一般的な心理状態像のことを『うつ状態(抑うつ状態)』と呼んでいる。『うつ状態』はうつ病以外の精神科・心療内科の疾患や一般的な身体疾患だけではなく、一時的なストレス反応や性格傾向(パーソナリティー特性)の現れとしても見られることがある。
つまり、何かつらいことや嫌なことがあった後に、それに対する反応として『憂鬱感・不安感・自己否定(自己不信)・悲しみ・虚しさ』などを感じることそのものは精神疾患の病気ではない。うつ病とうつ状態(抑うつ状態)の違いとしては、以下のような点を上げることができる。
1.うつ病には生得的な遺伝要因(生物学的要因)が関係するので特別な精神的ストレスとなる出来事がなくても、自然にうつ病の症状が発生することがある。うつ状態(抑うつ状態)は、一時的なストレス反応であり、特定可能な精神的ストレスとなる出来事があった後に、それに対する防衛的な反応・精神的な弱まりとしてうつ状態を呈することがある。
2.うつ病の場合には、生理的欲求(本能的欲求)が障害されることが多く、『睡眠障害・摂食障害(食欲減退)・性欲低下(異性への関心消失)』などの分かりやすい身体症状が見られやすい。ストレス反応としてのうつ状態は、生理的欲求(本能的欲求)の障害が起こりにくく、『睡眠リズム・食生活と食欲・性生活(異性との関係)』に大きな変化や問題は見られにくい。
3.うつ病で見られる『憂鬱感・気分の落ち込み・意欲減退・興味の消失・絶望感・希死念慮』などの症状は、最低でもその持続期間が“2週間以上”であり、それらの精神症状が長期で続いたり慢性的に再発を繰り返したりしやすい。
うつ状態でみられるうつ病に似た各種の精神的な不調・落ち込み・活力の低下は、『一時的なストレス状況に対する反応』として解釈されるもので、精神的ストレスになっている出来事が終わったりそれに対する納得・受容(諦め)・解決の目途が立った時に自然に治ってしまう。
4.うつ病の重症化・慢性化による心理的苦痛は、時に死んでしまいたいとか自分を消してしまいたい(自分などこの世にいないほうが良い)といった『希死念慮・自殺企図』を引き起こすほどに強烈で深刻なものであり、憂鬱感・無気力があまりに強いと寝たきりのような状態になってしまうこともある。うつ状態の憂鬱感・無気力・不安感などは『正常な精神状態の不調の範囲内』で理解することが可能なものであり、死にたいとか自分がいないほうがいいとかいった深刻な水準の『希死念慮・自殺企図』はまず見られることがない。