双極性障害(躁鬱病)の遺伝要因の疫学・双生児研究
感情障害・気分障害である双極性障害(躁鬱病)は、『躁病相』と『うつ病相』を交互あるいは周期的に繰り返す精神病水準の精神疾患である。躁病相とうつ病相の間の『中間期』には、躁病とうつ病のどちらの精神症状も見られない正常な状態になることもある。
双極性障害の疫学的研究では、双極性障害の初発年齢は20代が最も多いとされ、年齢が高まるにつれて発病率は低下する傾向が見られる。重症度の高い激しい躁病相を伴う『双極性障害T型(双極T型障害)』の生涯有病率は“約0.5%”であるが、程度の軽い軽躁状態を伴う『双極性障害U型(双極U型障害)』までを含めると、その生涯有病率は“約1.0〜5.0%”くらいまで高まると推算されている。
古典的精神医学で躁鬱病と呼ばれていた双極性障害の原因は、大きく『遺伝要因(家系的要因)』と『環境要因(心理的要因)』とに分けられる。双極性障害の人と血縁関係のある者は、有意に双極性障害の発症リスクが上がるというのが『遺伝要因』であるが、この相関関係は特に『双極性障害の双生児研究』によって確認されている。
双生児における双極性障害発症の一致率は、遺伝子の異なる二卵性双生児でも普通の兄弟姉妹より有意に一致率は高いのだが、特に同じ受精卵から分裂して生まれた遺伝子が同じ『一卵性双生児』では双極性障害の一致率は約70%以上と非常に高くなっている。
双生児であれば同じ両親から養育を受けて、類似した生育環境の中で育っていくので、『環境要因(親の育て方・生活習慣・虐待など)の悪影響』によって双極性障害になりやすいとも考えられる。
だが、二卵性双生児よりも一卵性双生児の双極性障害発症の一致率が顕著に高くなっているので、遺伝要因の関与が大きいと推測される。最新の精神病理学では、双極性障害やうつ病(単極性うつ病)、統合失調症に対する『遺伝子研究=遺伝子の塩基配列の連鎖解析』も積極的に行われており、それぞれの精神病に固有の発症遺伝子がないかの探求が進められている。
年代的には古典的な精神病理学の研究ではあるが、集合法の統計研究に基づく双極性障害(躁鬱病)の『親族関係による経験的遺伝予後(Luxendurger, 1932)』は、以下のようになっている。
子 24.4%
兄弟姉妹 12.7%
いとこ 2.5%
甥・姪 2.4%
一般人の発症率 0.44%