統合失調症の疫学研究と経過・予後1:精神疾患の症例の軽症化と減少
統合失調症はかつては中長期的には殆どの患者が『人格荒廃・精神崩壊(精神機能の全的喪失)』の予後に行き着く恐ろしい不治の病と考えられていた。だが、近年の統計的・疫学的な研究では、『統合失調症の軽症例(特に2000年代以降は軽症例が多数を占めるようになり統合失調症の軽症化が指摘される)』ではかなりの確率で症状が軽快して寛解に至ることが分かっている。
統合失調症の歴史と症状2:E.ブロイラー“4つのA”とK.シュナイダーの“一級症状”
統合失調症の生涯有病率は、約0.7%〜1.0%であり、概ね100人に1人が発症するリスクのある精神疾患である。統合失調症の症状・経過はその重症度によって相当に大きな個人差があるが、全体の約30%は一回〜数回の急性発症を繰り返した後に、治癒にかなり近いレベルの寛解にまで至るとされている。予後が悪い統合失調症の重症例は全体の約20〜30%であり、そのうちの一部が不可逆的あるいは致命的な人格荒廃・精神崩壊にまで至る。
統合失調症(旧精神分裂病)は20世紀の精神医学の臨床と研究において中心的な位置づけにあった精神疾患で、その臨床実践と事例研究の歴史は長く論文数も多いが、近年は『統合失調症の軽症化・減少』と同時進行の形で『うつ病(気分障害)・双極性障害の軽症化・慢性化・増加』も起こっている。
統合失調症の軽症例の増加は『1950〜1960年代以降の抗精神病薬(クロルプロマジンから始まる)を用いた薬物療法』の普及・進歩の恩恵も大きいが、軽症例に限定すれば約50%が薬物療法によって最低限度の社会生活・人間関係に最適応することが可能とされる。一方で、軽症例であっても残りの約50%は慢性化の経過を辿って、長期にわたって精神科・心療内科への通院の継続が必要となったり、デイケアを活用した社会適応訓練を行ったりしなければならない。
また、うつ病の中でも“几帳面・生真面目・責任感の強さ・他者に配慮しすぎる”などの『古典的うつ病』とは異なる『気分反応性・ストレス反応性・自己中心性・責任回避・自己愛の強さ』などの特徴を持つ『新型うつ病(非定型うつ病)』が増えていると指摘する精神科医も増えている。