統合失調症の疫学研究と経過・予後2:入院治療の減少と地域精神医療
抗精神病薬(メジャートランキライザー)を用いた薬物療法の進歩・普及によって、現在の統合失調症の治療は『入院療法(入院治療)』よりも『通院療法(通院治療)』がメインになっている。
やむを得ずに入院療法が選択されるというケースは、重症の陽性症状(興奮・錯乱・幻覚・妄想)などが見られて、自殺したり他人を傷つけたりする『自傷他害の危険性』が有意に高まっているケースで、この場合には法的根拠のある強制的な『措置入院』になることも多い。
統合失調症の疫学研究と経過・予後1:精神疾患の症例の軽症化と減少
激しい陽性症状だけではなく、『感情の平板化・無為・ひきこもり・全般的な無関心』などの非社会的な陰性症状が重症化したり、自我機能のレベルが著しく低下したりしている社会生活が極めて困難な患者に対しても『入院療法(入院治療)』が勧められることがある。
重症の精神病の症状が慢性的に経過するような患者は、入院生活が数年〜10年以上にわたって長期化するケースもあり、そういった患者は入院生活そのものが人生になってしまうため、入院時の生活環境・人間関係・食事と運動をはじめとする『QOL(生活の質)』の向上にも十分な配慮をしなければならない。
病院での入院生活を絶望ではなく希望を与えるもの、無気力ではなく気力を与えるものにしていかなければならず、そのために作業療法・芸術療法・レクリエーションなどを組み合わせた目標水準を設定したリハビリテーションを実施していく必要も出てくる。
入院療法(入院治療)までは必要ないが、統合失調症の軽度〜中等度の陰性症状(感情の平板化・他者への無関心・ひきこもりの無為)があって、一般的な社会生活や職業活動、人間関係に適応できない人たちには、『地域精神医療の充実』による社会復帰訓練や社会参加の場の増加が求められている。
SST(社会技能訓練)やリハビリテーションを実施する精神科(心療内科)病院付属のデイケアセンターの業務なども、地域精神医療(地域包括支援)の一環である。それ以外の地域精神医療の患者支援のための施設・制度として、『作業所・福祉工場・授産施設・患者支援センター・患者交流クラブ』などもあり、軽症の症状が慢性的に続いている精神病患者に対して、職業能力訓練の機会やコミュニケーションの機会を増やすことに貢献している。
地域精神医療の充実と発展のためには、福祉国家の財政基盤の強化や障害者権利擁護の意識向上の啓発、地域の人たちが相互扶助的に支えあっていくという意識・行動などが必要になってくるだろう。