H.H.ウィエックの通過症状群と一般身体疾患の影響による譫妄・気分障害
症状精神病の意識障害の発症前あるいは回復後に見られやすい『意識障害以外の可逆的な症状(回復しやすい症状)』のことを、精神科医のH.H.ウィエック(H.H.Wieck)は『通過症状群』として定義したりもしている。
DSM-W‐TRでは症状精神病は、『病歴・身体診察・臨床検査所見』から、その障害が一般身体疾患の直接の生理学的結果による引き起こされたという証拠があるケースとしてまとめられている。
一般身体疾患の影響による譫妄(Delirium)
1.注意を集中・維持し、転導する能力の低下を伴う意識の障害。環境認識における意識の清明度の低下。
2.認知の変化(記憶欠損・失見当識・言語障害など)。または既に先行し確定され、または進行中の認知症では上手く説明できない知覚障害の出現。
3.その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間から数日)、一日のうちで変動する傾向がある。
一般身体疾患の影響による気分障害(Mood Disorder)
1.抑うつ気分、またはすべての(ほとんどすべての)活動における興味・喜びの著明な減退・喪失。
2.高揚した開放的な、または易怒的な気分。
その障害は他の精神疾患ではうまく説明できない。
『症状精神病の診断・治療』においてまず重要なのは、上記した『器質性精神病・中毒性精神病との鑑別診断』を的確に行って、身体疾患に既に罹患している症状精神病の患者ではまず基礎疾患である身体疾患の治療から始めるということである。CT検査やMRI検査、脳波検査などを行って脳内の器質的状態・変化を確実にチェックすることで、脳の器質的な異常による器質性精神病か身体疾患に付随する症状精神病かを区別しやすくなる。
症状精神病の患者は意識水準が低下していたり混乱していることが多いので、不安感・抑うつ感・不眠を患者が訴えていても、生命維持機能に関係する脳幹に直接作用する『ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬』はできるだけ使わないようにすることが望ましい。症状精神病の治療場面においても、医師・看護師・介護士・薬剤師・精神保健福祉士・社会福祉士などが相互に協力して情報交換を行いながら連携する『リエゾン精神医学的なアプローチ』が基本になっている。