乳幼児精神医学(infant psychiatry):親子関係を踏まえた子供の問題・症状の評価
0〜3歳頃の乳幼児を研究・診療の対象とする『乳幼児精神医学(infant psychiatry)』は、1970年頃に誕生した比較的歴史の短い精神医学の分野であり、近年では乳幼児のこころの健康全般を取り扱う領域という意味合いで『乳幼児精神保健(infant mental health)』と呼ばれることもある。
乳幼児精神医学では、言語能力をまだ獲得していないか未熟である『乳幼児』が患者であるため、乳幼児の言語よりも『動作・行動(反応)・情緒の観察』から精神的な健康状態を推測することが必要になってくる。
乳幼児精神医学においては、外部から観察できる乳幼児のリアクションや情緒の表現を丁寧に見ていく非言語的コミュニケーションの重要性が極めて高いのである。乳幼児や児童は、その生活と健康状態を大きく家族(親)に依存しているために、何らかの心身の不調があることに気づいた『家族(親)』が医師・病院に診察・治療を求めて相談してくるケースが多い。
そのため、乳幼児精神医学における診療行為は『親からの依頼・相談』に基づく『代理的な診療』の側面を少なからず持ってしまうが、仮に親が『子供の問題行動・病的状態・症状』を訴えてきている場合でも、その言葉や訴えを無条件に全面的に信じてしまうことは『(子供だけに原因があるという)誤診』の原因になってしまうことがある。
乳幼児精神医学は基本的に、家族のメンバーが相互に影響を与え合っている『家族システム論』に依拠しており、家族の特定の誰かだけが悪いとか問題の原因になっているとかいう前提を取らない。
つまり、子供だけが明らかな問題行動や不適応、精神症状を示しているとしても、『子供だけに生物学的あるいは心理社会的な原因があるケース・親(養育者)や養育環境に原因があるケース・親と子供の関係性(コミュニケーション)に原因があるケース』を、それぞれ検証していくのが乳幼児精神医学の診療の原則なのである。