R.エムディ(R.Emde)の『情緒応答性(emotional availability)』と発達早期の母子関係
乳幼児と親(養育者)は強い愛着で結び付けられており、『幻想的な母子一体感・母親の原初的没頭』の中にあるが、乳幼児は微笑・泣き・不機嫌(ぐずつき)・緊張・落ち込みなどの非言語的コミュニケーションによって、さまざまなメッセージや情緒的信号を発信している。
アメリカの精神科医R.エムディ(R.Emde,1935-)は、乳幼児が非言語的コミュニケーションによって伝えてくる情緒的信号を的確に読み取って適切に応答する母親の心的態勢を『情緒応答性(emotional availability)』として定義した。
D.W.ウィニコットの『ほぼ良い母親(good enough mother)』と母親のホールディングの役割
R.エムディはアメリカのデンバーにあるコロラド大学教授であり、母親と乳児の相互的な情緒応答性、情緒応答性を介した自己の一貫した情緒の発達の研究などで知られる精神科医であり、世界乳幼児精神保健学会の指導者的人物としても評価された。母親と乳幼児の間には、パターン化された情緒の認識と反応の信号システムが確立しており、この情緒に関する信号システムが乱れて情緒応答性が障害された時に、発達早期の母子関係や乳幼児の心理状態にさまざまな問題が起こってくるのである。
母親(乳児)が乳児(母親)の情緒的信号に対して適切な認識・解釈・反応を行うという『情緒応答性』が維持されていることによって、乳児の健全な心的組織化のプロセスが促進されて、乳児は双方向的な人間関係の基礎を感覚的に学び取っていくことができるのである。
母親の肯定的な情緒応答性によって乳児の『探索行動・学習行動・社交性・コミュニケーション』が促進され、更に『喜び・感心・驚き・賞賛・興味関心』などの肯定的な感情での応答を母親がすればするほど、乳児は一貫性のある自我の情緒発達(成長後の対人コミュニケーションにおいて役立つ相手や状況に合わせた情緒機能の獲得)を進めていくことになる。
特に、子供が生後1〜2年の時期には、母親が自分の行動に対して肯定的な情緒応答を示すかどうかによって、乳児の行動選択の可能性はかなり大きく左右されることになる。乳児がどのように行動すべきか自分の行動選択に迷った時には、乳児は母親のほうを見るのだが、この時に母親が乳児に対して『肯定的・共感的な反応』を示してあげると、乳児は迷っていたその行動・活動を順調に進めていくことになる。