R.エムディの『母親参照機能(maternal referencing)』とD.スターン(D.Stern)の『情動調律(affect attunement)』
R.エムディは、乳児が自分の行動の迷い・不確実性を解消するために、母親のほうを見てその反応を確認してからどうするか決めるという発達上の心的傾向性を『母親参照機能(maternal referencing)』と呼んだ。
R.エムディ(R.Emde)の『情緒応答性(emotional availability)』と発達早期の母子関係
社会化や協調性を高める精神発達過程が進んでいくと、この母親参照機能は社会の平均的な価値観や常識的な行動規範に自分を合わせて適応しようとする『社会参照機能(social referencing)』へと変わっていく。そして、この客観性の高い社会参照機能によって、子供時代にあった母親参照機能(母親の反応の正当化)の歪み・偏りも修正されやすくなる。
R.エムディの情緒応答性と類似した概念として、D.スターン(D.Stern)の『情動調律(affect attunement)』という概念もあるが、生後7〜9ヶ月の乳児の『主観的自己感(sense of subjective self)』の形成と関係した母子間の情動共有の様式や方法のことである。
情動調律というのは、『観察可能な母親の行動』の背後にある『母親の感情・情緒・内的状態』を乳児が共有するという心的機能であり、乳児が嬉しそうにハイハイすると母親がガッツポーズを繰り返す、それを見た乳児は母親が『喜び・興奮・応援の内的感情』を表現していることを言葉にはできないが認識することができるのである。
D.スターンの情動調律では、時間の流れに沿って変化する『情動の強さ・調子・抑揚』などが相互にやり取りされて『目に見える行動』から『目に見えない感情』へと転換(調律)されて認識されており、こういった情動調律の対象になっている可変的な情動のことを『生気情動(vitality affect)』という概念で定義している。