チック(tic disorders):運動性チック・音声チック
チック(tic)は乳幼児から児童期にかけて見られやすい『習癖・神経障害』の一種であり、軽度で一過性のチックであれば心身の成長過程で多くの子供に見られる。チックは女児よりも男児に多く見られる習癖であり、心身の発達に呼応する形で自然に軽快・消失してしまうことも多い症状である。
子供にみられるチックの多くは『一過性チック・発達性チック』であり、精神疾患(心身症・神経症)・神経障害によって起こるチックとは区別される。
チックとは、突発的で不規則な身体の一部の速い動き、無意味で無目的な発声を繰り返す不随意的な状態のことである。それが一定期間継続して慢性化・固定化し、日常生活や人間関係の上で障害を来すようになったものを『チック症(tic disorders)』と呼ぶことがある。
チック症の重症型で、『不随意的な運動チック(顔をしかめる・肩を動かす・まばたきする・突然無意味な発声をするなど)』が頻繁に見られる慢性多発性のチック症のことを『トゥレット症候群(トゥレット障害)』という。チックは主に以下の3つの類型に分けることができる。
1.一過性チック障害……運動チックおよび音声チックの両方またはいずれか一方の症状が、4週間以上12ヶ月未満にわたって持続する一過性のチック障害で軽快しやすいもの。
2.慢性チック障害……運動チックと音声チックのどちらか一方の症状が12ヶ月以上持続していてチックが消失することがない慢性的なチック障害で軽快しにくいもの。慢性運動性チック障害と慢性音声チック障害とに分けられる。
3.トゥレット障害……複数の種類の運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上にわたって持続している重症度の高い治りにくいチック障害。
チックの症状には『運動性チック』と『音声チック』とがある。
1.運動性チック……不随意的に起こる突発的(発作的)・不規則な身体の運動の症状である。
単純性運動性チックの症状として、『まばたき、首振り、顔をしかめる、肩をすくめる』などがある。複雑性運動性チックの症状として、『無意味に物や人に触る、物を殴ったり蹴ったりする、いきなり飛び上がる』などがある。
2.音声チック……不随意的に起こる突発的(発作的)・不規則な発声・汚い言葉(罵声・奇声)の症状である。
単純性音声チックの症状として『発声、咳ばらい、鼻鳴らし』などがある。複雑性音声チックの症状として『汚言(人前や社会的場面で不適切な汚い言葉をいってしまう)、反響言語(人の話したことをそのままオウム返ししてしまう)』などがある。
チック発症の生理学的機序としては、『脳の大脳基底核・視床・皮質回路の神経伝達プロセスの異常』があり、『線条体におけるドーパミン分泌の増加による興奮・ドーパミンD2受容体の感受性の過剰』が影響していると推測されている。そのため、チックの薬物療法ではドーパミン受容体遮断薬であるハロペリドール、ピモジドを用いて過剰に興奮している神経活動を鎮静させることもある。