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2015年11月22日

[ジョン・ボウルビィ(John Bowlby)の『母性剥奪(maternal deprivation)』の研究とV.スミルノフの『剥奪症候群』]

ジョン・ボウルビィ(John Bowlby)の『母性剥奪(maternal deprivation)』の研究とV.スミルノフの『剥奪症候群』

イギリスの児童精神科医・精神分析家のジョン・ボウルビィ(John Bowlby,1907-1990)は、母性的養育のある温かい母親の接し方・環境が剥奪された場合に、乳幼児の心身がどのような反応を示すかという『母性剥奪(maternal deprivation)』の研究を行ったことで知られる。

ジョン・ボウルビィの母性剥奪による乳幼児の心身に与える影響の研究成果は、“Maternal Care and Mental Health, 1951”というモノグラフにまとめられているが、ボウルビィは精神的健康の基盤に『親密で持続性のある相互に満足感と安心感(幸福感)の得られる母子関係』というものを想定していた。

現代では男女平等や父親の育児参加の観点から、『母性剥奪(母親の愛情・保護の剥奪)』だけではなく『父性剥奪』も問題にすべきではないかとの異論も出ている。だが現時点では(元々母親と比較して父親が育児に参加する度合いが低いこともあり)、乳幼児期の子供の心身に対して『父親の愛情・保護の喪失』が大きな影響を与えるという実証的研究は出されていない。

母性的養育の剥奪についての主な研究方法には以下の3つがある。

1.児童養護施設・病院・養子などで、母親から隔離されている乳幼児の心身発達の観察。

2.不適応あるいは反社会的な精神的問題を抱えている青少年・成人の生活歴(養育環境)を遡っていく遡行的研究

3.母性剥奪の成育歴を持つ児童の縦断的な追跡研究

母親が子供に“愛情・関心・共感”を注ぎながら温かみのある環境で育てるという『母性的養育』を構成している要素には以下のようなものがある。

情緒的な満足感と安心感

言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションによる交流

スキンシップ(皮膚的接触)

インプリンティング(刷り込み)

生理的栄養状態・環境要因

家族の構成力

安定した養育パターン

ジョン・ボウルビィが、乳幼児期の母性剥奪の影響として挙げているのは以下のようなものである。母性剥奪によって起こる特異的な発達遅滞のことを『剥奪性遅滞(deprivational retardation)』と呼ぶことがある。

精神発達・知能発達の遅滞

身体的発育の障害・遅滞(矮人症)

情緒障害・感情鈍麻

対象喪失的な悲哀反応

非行・不適応

免疫力低下・感染症のかかりやすさ

抑うつ反応(うつ病的な精神運動抑制)

精神科医のV.スミルノフ(V.Smirnof)は、母性的養育の剥奪によって起こる心身の障害の総称として『剥奪症候群(deprivation syndrome)』を定義しているが、剥奪症候群を構成する要素には以下の4つがある。

1.情緒的欠乏に対する過敏な体質、フラストレーション耐性の低さ

2.隔離・別離の前の母親との関係性が良好なほど、母性剥奪の悪影響は大きい。情緒的接触の剥奪が起こる時期が早いほどその影響は大きいが、その影響のピークは生後6ヶ月頃である。

3.母親(母親との情緒的接触)から引き離されている期間が長ければ長いほど、母性剥奪の悪影響は深刻になる。

4.いったん母性剥奪が起こっても、適切な母性的養育が母親(養育者)によって復活すれば回復する可能性がある。しかし、一定以上の長期間にわたって母性剥奪が継続した場合には、不可逆的な精神障害や永続的な発達障害の悪影響が残り続けるリスクがある。

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posted by ESDV Words Labo at 13:39 | TrackBack(0) | ほ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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