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2015年12月01日

[M.マーラーの『分離―個体化理論』と母性剥奪(maternal deprivation)の変数・悪影響の研究:2]

M.マーラーの『分離―個体化理論』と母性剥奪(maternal deprivation)の変数・悪影響の研究:2

精神科医のJ.ロバートソン(J.Robertson)は、母親から分離された乳児であっても、特定の養育者があてがわれない児童養護施設(乳児院)・病院ではなく、母親代わりとなる養育者があてがわれてケアする『養子縁組み(他の家庭に預けられる)のケース』であれば、急性反応障害は発症しないとしている。

M.ラター(M.Rutter)らの母性剥奪(maternal deprivation)の変数(構成要素)の研究:1

非行行為や暴力的な言動、反社会的な傾向が目立つ子供の『行為障害』の原因も、母親との分離そのものではなく、分離以前の家庭環境の悪さや家族間の葛藤にあることのほうが多いとされている。

サイコパス(精神病質)やソシオパス(社会病質)と呼ばれる良心・倫理観・情性が欠如した『反社会的パーソナリティー障害』の原因も、母親との分離そのものではなく、発達早期における『中枢神経系の発達障害・脳内ホルモン分泌障害+母親との情緒的な関係(愛着)の形成障害』が原因になっているのではないかと推測されている。

母性剥奪(maternal deprivation)の概念を構成している、複雑で多様な変数の要因には以下のようなものがある。

発達早期の感覚的・認知的な刺激

発達早期の母性的養育の最も重要な役割は、情緒的刺激(愛情・保護の供給)と相互的コミュニケーションによる『愛着の形成』であるが、それだけではなく乳児の中枢神経系(脳)の機能発達を促進する『豊かな感覚的・認知的な刺激』も母親から与えられることになる。感覚的・認知的な刺激には、母親の情緒的応答性、抱きかかえたり揺すったりのハンドリング(handling)が含まれており、乳児の深部感覚を刺激して興味・意欲・試行錯誤・言語などの発達を促しているのである。

発達段階と心的機能獲得の臨界期

マーガレット・マーラーの『分離―個体化理論』では、赤ちゃんが生まれたばかりの『正常な自閉期(normal autistic phase:1〜2ヶ月)』『正常な共生期(normal symbiotic phase:3〜4ヶ月)』と呼ばれるまだ愛着が形成されていない段階で、母親から分離されても深刻な精神的危機や発達上の問題は生じないとされる。

しかし、母親と離れて行動する練習をして分離不安に少しは耐えられるようになる『練習期(practicing subphase:9〜14ヶ月)』を終えて、『再接近期(reapproaching subphase:15〜24ヶ月)』に入ると、母親との分離不安が顕著な動揺・混乱を引き起こしやすくなってしまう。

それは、再接近期が母親と離れていることによる不安・寂しさを思い出しやすくなる不安定な時期(いったん形成された愛着が阻害される悲しみが強い時期)だからであり、再び分離不安を和らげようとして『母親への再接近』が見られる時期だからでもある。母親との分離不安を概ね克服して対象恒常性が形成される『個体化期(individuation subphase:24〜36ヶ月)』にまで成長すれば、母親との分離によるショックや悪影響も弱まってくる。

現在の研究では、早期乳幼児期の『母性剥奪による心身発達・精神疾患発症に対する悪影響』について、以前に考えられていたよりも『回復力・可逆性』が高いことが分かっている。症状の重症度、症状が存在した期間の長さ、早期発見・早期治療、適切な母子関係(養育環境)の回復の度合いによっても、『母性剥奪の問題の予後』は大きく変わってくるのである。

つまり、再び母親(適切な養育者)のいる成育環境に戻ることができて、心身の安定に必要な愛情・関心を注がれて育てられれば、『重篤な認知能力・対人関係能力(コミュニケーションスキル)の障害』があっても、それが元通りに回復する可能性も十分あるのである。

母性剥奪の耐性

乳幼児の発達環境の『ポジティブな要因』と『ネガティブな要因』について整理する中で、『母性剥奪に対する耐性』と関係する要因が浮かび上がってきた。母性剥奪に対してどのくらいの耐性があるのかは、以下のような要因によって決まってくる。

ストレッサーとなる刺激の要因の組み合わせ

時間経過と環境改善の度合い

乳児の遺伝的要因と性別・気質(男児のほうが女児よりも心理社会的ストレスに弱い傾向がある)

家族関係(親との情緒的関係)の要因

家庭外の学校・児童養護施設等の要因

母性剥奪と世代間伝達

乳幼児期の母性剥奪の体験の悪影響として、『学習的・環境的な母性的行動の不足』が自分の世代から子の世代へと『世代間伝達』されてしまう可能性が指摘されている。この問題は『ロールモデル(理想的な母親像を学ぶ機会)の欠如』であると同時に、『児童虐待の世代間連鎖と類似の構造(自分が愛された経験がないために子供の愛し方が分かりにくいという悩みを解決しづらい)』でもある。

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posted by ESDV Words Labo at 15:57 | TrackBack(0) | ほ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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