E.H.エリクソンのアイデンティティ拡散症候群(identity diffusion syndrome)と青年期心理:1
アメリカの精神分析家エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson,1902-1994)は、社会的精神発達論(ライフサイクル論)を提唱したことで知られるが、青年期の発達課題として『自己アイデンティティーの確立』を上げた。
自己アイデンティティーの確立とは、自分が他人とは異なる唯一の存在であることを自覚して人生の生き方を定めることであり、自分が社会の中でどのような職業を選択してどんな役割を果たすかを確立していくことである。
自己アイデンティティーは“自己同一性(自我同一性)・自己確認”と訳されることもあるように、『自分が社会においてどのような人間であるかを確認すること』や『自分の現実の人生と自己イメージとを同一化していくこと(自分が自分以外の何者でもないことを自覚して自己定義すること)』を意味している。この自己アイデンティティーの確立の発達課題の達成に失敗・挫折した時に、青年期の精神的危機としての『アイデンティティ拡散症候群(identity diffusion syndrome)』が発症するのである。
E.H.エリクソンは初めアイデンティティ拡散症候群を児童期から青年期の『境界例の患者』に見られやすい独特な症候群(シンドローム)として捉えていたが、その後に境界例ではない一般の青年にも見られる青年期特有の心理(精神的危機・混乱)として定義し直した。
近代の青年期には、自己アイデンティティーは必然的に何もしなくても確立されるものではなく、『学業と進学・職業選択・キャリアアップや転職』を通して意識的あるいは選択的に確立されていくものであり、誰しもが自己アイデンティティー確立に際して迷ったり悩んだりするものである。
労働市場の流動性が高まり未婚化・晩婚化・熟年離婚の現象も起こっている現代社会では、誰もが類似の職業・人生・結婚の選択をしていくわけではなく、中年期以降に再び自己アイデンティティーの再構築や人生の方向転換を求められるケースも増えている。

