クロード・レヴィ=ストロースの文化人類学と未開社会の秩序・規則の解明:1
人類学・文化人類学の分野では、クロード・レヴィ=ストロース(Claude Levi-Strauss,1908-2009)の著書『親族の基本構造(1949年)』『悲しき熱帯(1955年)』『野生の思考(1962年)』に代表される未開民族のフィールドワークがよく知られている。
クロード・レヴィ=ストロースの思想・研究手法は『フェルディナン・ド・ソシュールやヤコブソンの構造言語学』と『エミール・デュルケームやマルセル・モースの社会学・人類学の分析手法』の影響を受けている。それ以外にも、博物学・マルクス主義(社会変革思想)・前衛的な芸術理論(キュビズムやシュール・レアリスム)など多方面の分野の知識に刺激を与えられたという。
『親族の基本構造』では、南アメリカ大陸やオーストラリアなどの未開民族(アボリジニー)を実地調査して、『婚姻規則の体系・無文字社会の贈与の意味づけ』などを記号論的・構造主義的なスタンスから分析している。特に、南アメリカ・オーストラリア・東南アジア・古代中国・インド・北東アジアなどの婚姻規則を言語構造学のアイデアを参照しながら体系的かつ論理的にまとめ上げた仕事の社会学的・人類史学的な功績は大きい。
レヴィ=ストロースは構造主義・価値相対主義の思想家としても知られ、『野生の思考(パンセ・ソバージュ),1962年』では、『未開社会=野蛮・混沌・遅滞, 文明社会=理性・秩序・先進』とする二分法的な優劣・上下のある価値判断を批判した。先進国の人間が野蛮・混沌・不潔だとして見下している所のあった未開社会においても『一定の歴史的な秩序・規範・構造』を見いだせることを実証学的調査を通して指摘したのがレヴィ=ストロースなのである。
レヴィ=ストロースを始祖とする文化人類学は、近代的な科学技術・政治体制がほとんどない未開社会を劣った野蛮・無秩序な社会と見なしてきた『西洋中心主義のオリエンタリズム』を知的に批判することに成功した学問であり、欧米の侵略戦争・植民地経営の後の時代の趨勢を研究する『ポストコロニアリズム』にも影響を与えることになった。