ソ連はなぜ崩壊したのか?2:計画経済の失敗と飢え・自由の抑圧と密告社会
ソ連崩壊の決定的な要因は、アメリカに対抗するための終わりなき軍拡による財政赤字の累積と計画経済の需給計算の失敗(軍事に予算が取られ思っていたよりも食料が十分に生産できなくなったこと)によって、国民の生活の基盤にある『食料の配給体制』が機能不全に陥ったことである。
ソ連はなぜ崩壊したのか?1:マルクス主義の唯物論と人権抑圧の収容所国家
国民の食料の需要に対して計画経済の集団農場で生産される食料の供給が圧倒的に不足したことであり、ソ連末期には配給所で一日行列に並んで待ってもパン一つ、じゃがいも一個のような配給しか受けられなくなり、その必然の結果として、飢えと貧困による国民の反体制感情は極めて強くなっていった。配給所の行列の長さ、そこで配給される食糧の乏しさというのが、旧ソ連の管理的な計画経済体制の失敗の現れであり、マルクス主義を盾にして『無謬(間違うことなどない)』とされていたエリート官僚の計画経済運営の大きな間違いの具現化でもあった。
共産主義・社会主義はマルクス主義の唯物論(史的唯物論)の影響を受けいているため、人民を理想の共産主義社会を実現するために共産党のエリート官僚の指令・命令にただ従って働くだけの『モノ・事物(システムを構成する要素)』と見なしやすく、『人間の思想信条・表現・内面の自由』が不当に否定されてしまうのである。
共産党指導部やエリート官僚の計画した理想の政治経済体制の実現のために、人民はただ従ってノルマを達成すれば良いのであって、人民は自分の頭で考えたり感じたりして思想・行動してはいけないというのが、共産主義国家の人民の人権・自由が抑圧されていた実態であった。
共産主義国家にとって最も望ましい人民というのは、個性や自由を主張しない『画一的・一律的な人民(与えられたノルマをこなす国家の構成要素)』である。共産党指導部の方針に反対して、自分の意見・思想を述べて理想の共産主義体制を妨害するような主体的な人民は、『国家反逆者・精神異常者・反社会的パーソナリティー・資本主義の犬(スパイ)』と決めつけられて厳しい弾圧・迫害を受けやすかった。これを先鋭化したナショナリズムにおける裏切り者に対する排他性に置き換えれば、『非国民・売国奴・利敵の内偵者(スパイ)』になるのだろう。
ソ連崩壊後の共産主義国家は『収容所列島』や『密告社会』だったことが暴露されたが、共産主義国家では『共産主義体制に反対する人民(同胞)』を党員・秘密警察に密告することが理想社会を守る道徳的に正しい行為(善良な人民の義務)と考えられていた。さまざまな反体制の理由や兆候を人民同士ででっち上げることによって、ほとんど無実の人民たちが『政治犯・思想犯・精神異常者』として監獄・精神病院(閉鎖病棟)に入れられたのだが、東側の共産党独裁体制の末期には秘密警察が管理する密告社会が過激化して、人民同士が相互不信に陥り、平穏な日常生活や会話を楽しめなくなってしまった。
いかなる政治体制や国家体制も、そこで実際に働いて生活する人民(民衆・国民)の『信頼・合意・貢献』がなければ長期にわたって維持することは不可能であり、人民の言語化される以前の体制への信頼と合意の必要条件は『飢えずに日常生活を送れること』『思想信条・発言・表現の最低限の自由が認められていること』『当局や警察の許可を得ずに夜間でもどこにでも国内を移動できること(常に行動を当局に監視されていないこと)』である。
ソ連型の共産主義国家の正統性と民衆の信頼・合意・貢献は、『不十分な生活条件』のみによって崩れたのではなく、『まともに食糧が配給されず飢える・思想や表現の自由が著しく制限され密告される(人を信用できない)・当局や警察によって行動の自由が大幅に制限され見張られている(びくびくして生活しなければならない)』によって崩れたと言えるのだろう。
マルクス主義(マルクスとエンゲルスの思想・著作)を原点とする共産主義国家・社会主義国家は、人民を『資本家・身分制・独裁権力の支配や不平等』から解放して自由にするという理想を掲げていたが、その実態は共産党一党体制や秘密警察・密告社会によって『人民の自由・権利を剥奪して束縛する支配体制』になってしまったのである。