DSM-W-TRの多軸診断1:機能的障害と器質的障害の除外診断(鑑別診断)
精神疾患と身体疾患の診断には、身体疾患が基礎疾患になっているという『因果関係』が成り立つ場合もあれば成り立たない場合もある。DSMの診断基準では、精神疾患と身体疾患の両者に因果関係が成り立たない場合でも、第V軸の身体疾患として独立的に診断名が記載されることになる。
パニック発作(恐慌発作)と自律神経症状を伴うパニック障害の診断が第T軸で下された時には、第三軸においてパニック発作や自律神経系の異常を引き起こしている『身体疾患(心臓疾患・中枢神経系の神経変性疾患など)』がないかの内科的な検査・診察を追加で行うことになる。これを『純粋な精神疾患』から『身体疾患を基礎に持つ副次的な精神症状』を除外するという意味で『除外診断(negative diagnosis)』と呼んでいる。
DSM-5の『ディメンション診断(多元診断)』とDSM-W-TR以前の『多軸診断』
DSM(マニュアル診断)を前提とする精神医学における『除外診断』では、精神疾患から精神症状を引き起こす身体疾患を除外していくわけだが、例えばパニック障害によって心因性のパニック発作が起きても、それは心臓の異常を伴うような『器質的障害(organic disorder)』ではなく、心因性の自律神経系の異常という『機能的障害(functional disorder)』になるわけである。
『器質的障害』は悪化すれば生命を喪失する致命的リスクになることもあり、外科手術によって対応することが可能であるが、『機能的障害』は悪化しても生命を落とす致命的リスクにはなりにくく(自殺を含めてリスクはゼロではないが)、有効な外科手術による対応もまずできないという違いがある。
DSM-W-TRの多軸診断の特徴としてT〜X軸を独立的に同時に診断できるという特徴がある。例えば、うつ病の診断を第T軸で受けたクライエント(患者)に基礎疾患として甲状腺機能低下症の存在が明らかになった場合には、第T軸は『甲状腺機能低下によるうつ病(気分障害)』の診断となり、第V軸は『甲状腺機能低下症』の診断が独立的に記載されるということである。
第U軸はパーソナリティー障害(人格障害)の診断軸であるが、ここでも独立的に『自己愛性・境界性・回避性パーソナリティー障害』などのパーソナリティー障害(人格障害)の診断を記載しておくことができるわけである。
DSM-W-TRまでのDSMの診断学の基本思想は『総合的な網羅性+共通の診断性』にあるから、各軸で診断される疾患・障害との間の『因果関係の確認』は重視されておらず、客観的に確認できる症状・現象から、どんな疾患の診断項目に当てはまるかをまず記載していくことが優先されている。
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