ローナ・ウイングのアスペルガー障害の再発見と自閉症スペクトラムの提案
1943年に、オーストリア・ハンガリー帝国生まれのアメリカの精神科医レオ・カナー(Leo Kanner,1894-1981)が、社会性(対人関係)やコミュニケーション(言語能力)が強く障害されて社会生活が困難になる『カナー型自閉症(知的障害を伴う低機能自閉症)』について論文で発表している。
ハンス・アスペルガー(Hans Asperger)の『フリッツ・Vの症例』とアスペルガー障害:2
翌1944年、ハンス・アスペルガーは現在のアスペルガー障害に該当する発達障害の一群のことを『自閉的精神病質』という疾病概念で紹介している。自閉的精神病質の特徴は『共感能力の欠如(人の気持ちや態度が分からない)・友人関係を作る能力の欠如・一方的に話し続ける会話(心の理論の障害)・特定の興味関心への極めて強い集中(固執)・ぎこちない動作』などであった。レオ・カナーの自閉症と比較すると、自閉的精神病質(後のアスペルガー障害)には『知的障害・言語障害(言語発達の遅れ)がない』という違いが見られた。
自閉的精神病質(後のアスペルガー障害)の症例について書かれたH.アスペルガーの小児精神医学の論文(1944年)は長きにわたって多くの人々に知られることはなかったが、イギリスの女性精神科医ローナ・ウイング(Lorna Wing, 1928〜)が1981年に、H.アスペルガーのドイツ語で書かれた論文の内容を英語圏に翻訳して紹介したことから英米の研究者・人々にも広く知られるようになっていった。
アスペルガー障害が世の中に広く知られるようになった契機の一つには、イギリスの心理学者ウタ・フリスが1991年に出版したアスペルガー障害の広範な解説書である『Autism and Asperger Syndrome』『邦訳名:自閉症とアスペルガー症候群』もある。
ローナ・ウイングは『アスペルガー障害・アスペルガー症候群』という名前を命名した人物でもあり、更に自閉症の有病率は今まで考えられていたよりも高いとして、自閉症には軽症から重症までの幅広い連続体(スペクトラム)があるとして『自閉症スペクトラム』という考え方を打ち出した。
レオ・カナーが発見した知的障害のある自閉症は重症の自閉症スペクトラムであり、ハンス・アスペルガーが報告した知的能力・言語能力の高いアスペルガー障害は比較的軽度の自閉症スペクトラムであるが、その発達障害の本体には『ウイングの3つ組』などの共通の特徴が認められるのである。