アスペルガー障害の根本症状を説明する『共感―システム化理論(empathizing-systemizing theory)』
特定の行動パターンの固執性(こだわり行動)は、『臨機応変な対応ができない・相手や状況に合わせて協調できない・他人にまでマイルールを押し付けてトラブルになる・奇異さや違和感などを持たれやすい・地位や影響力を持つと他人に自分のやり方を強制したり監視したりしやすい』などのデメリットが当然ある。だが、それだけではなく『単調なルーチンワークに適応しやすい・決まった規則や秩序に従った定型業務が得意である・飽きずに一つの事柄を突き詰めて究められる』などのメリットになることも少なからずある。
アスペルガー障害の『こだわり行動』と『興味関心の狭さ』2:強迫性障害との違い
特定の分野・対象だけに非常に強くて深い興味関心を持つという『興味関心の狭さ』にもメリットとデメリットがある。デメリットは『他者とのコミュニケーションに興味を持てない・社会性や協調性が低下する・生活や社会適応のために必要なバランス感覚がなくなる』などである。メリットとしては『他人や周囲に惑わされずに特定分野に熱中して没頭できる・専門家に相当するような特定分野の知識情報を得られることがある・物事や概念の分類整理が的確である』などが上げられる。
アスペルガー障害の人は、特に複雑な物事を一定のルールや秩序に従って整理し理解するという『システム化の能力』に優れていることが多く、社会的な活動や対人的な意思疎通(コミュニケーション)が苦手な代わりに、『コンピューター・エンジニアリング・法律・数学・科学(広義のサイエンス)・会計・建築・音楽・空間デザイン』などの分野で活躍できる適性・資質・集中力に恵まれていることも少なくないのである。
他人とのコミュニケーションが苦手ということの背景には、アスペルガー障害の人は元々『人よりも物に対する興味関心が強い』ということがあり、自然に感じる共感・感動・興味によって他者とのコミュニケーションを自発的に展開していくことができないのである。
そのため、アスペルガー障害の人は『ヒューマニスティックな感情・共感』よりも『他者との利害・力関係・影響力』に関心を寄せたコミュニケーションスキルを用いることが多く、ある程度人間関係に適応している人でも『合理的だが冷たい印象(論理の筋は通っているが利己的な印象)』を与えやすいのである。
自閉症スペクトラムの根本症状を説明する仮説として『共感―システム化理論(empathizing-systemizing theory)』があるが、これはシステム化する能力が優れている代わりに共感してコミュニケーションする能力が劣っているという仮説である。『共感―システム化理論(empathizing-systemizing theory)』は、他者の感情・意図を推測する『心の理論』が障害されていることと合わせて、『反復行動・こだわり行動(反復の欲求)』という自閉症スペクトラムの根本的な症状も一緒に説明するものになっている。
アスペルガー障害の人は時に『反社会的・反道徳的なジャンルや事象への興味関心』が強くなりすぎてしまい、その知的好奇心を抑えられずに迷惑行為や犯罪類似行為に駆り立てられてしまうことも希にあるとされる。例えば、『犯罪(暴力)や刑罰・人の死(殺人)・毒物や劇薬・戦争や兵器(爆弾・銃器)・生命の喪失や動物の解剖・』などの分野だけに異常に熱狂的な興味(犯罪類似行為に相当する実験をしたい興味)を持っているような場合には注意が必要である。