対人魅力(interpersonal attraction)の心理学:『好意・愛情』の心理測定尺度の研究の歴史
『対人魅力(interpersonal attraction)』とは、個人が他者に対して抱く肯定的あるいは否定的な評価(認知・感情)のことである。他者に対して抱く肯定的な感情の代表として『好意・愛情・安心・友好・美感』などがあり、否定的な感情の代表として『嫌悪・侮蔑・不安・不快・憎悪』などがある。
他者を見る時や他者と接したり対話する時には、対人魅力とも関係した好悪の感情を感じやすい。近年の研究では『対人魅力の認知的側面』よりも『対人魅力の感情的側面』に焦点を当てたものが多く、『親密な人間関係(close relationships)』にまつわるシンプルな意識調査形式の研究が増えている傾向がある。
個人が他者に対して抱く肯定的な感情の代表である『好意・愛情』については、『人が好意・愛情をどのように捉えているかの態度』と『個人が特定の他者に向けて抱いている実際的な態度』を区別して考えることになり、『好意と愛情の質的差異』に着目した心理測定尺度の研究も多い。
グロス(1944)は恋愛における『ロマンティックな態度』と『現実的な態度』を区別した古典的な『ロマンティシズム尺度』の80項目を作成したが、ホバートはこれを12項目の尺度に短縮し、ノックスとスポラコフスキー(1968)は85項目からなるロマンティシズム尺度を新たに作って、恋愛には『ロマンティックな態度』と『現実的な態度』の区別があることを再び確認している。
ヒンクルとスポラコフスキー(1975)は因子分析を行って、恋愛には『伝統的な愛・すべてに勝る愛・不合理さ』の3因子があることを確認し、ムンロとアダムス(1978)も『ロマンティックな理想・ロマンティックなパワー・結婚(合理的な愛)』の恋愛の3因子の存在を確認している。
好意と愛情を区別したルビン(1970)の研究では、愛情の持つ『親和と依存・援助の気持ち・独占と熱中』の3つの要素が抽出され、好意の持つ愛情との違いとして『称賛・尊敬』が挙げられている。日本の和田(1994)も、恋愛の態度尺度の研究において『恋愛至上主義・恋愛のパワー・結婚への恋愛・理想の恋愛』の恋愛の4因子を確認している。
日本でも良く知られている『恋愛の6類型論』はリー(1976)やヘンドリックとヘンドリック(1986)などに依拠するものであるが、恋愛の類型(タイプ)は『エロス(情熱的な愛)・ルーダス(遊びの愛)・ストロゲー(兄弟愛・友愛)・プラグマ(実利的な愛)・マニア(熱狂的な愛)・アガペー(無償・献身の愛)』の6つに分けることができるとされている。
スタンバーグ(1986)のトライアングル理論では『親密さ・情熱・コミットメント(決心)』の3要素を結んだ三角形で愛情を表現して、3要素が単独で存在する場合(3つ)、3要素の2つを斜線で結んだ場合(3つ)、3要素が同時に組み合わさった場合(1つ)の『7種類の愛』を想定している。
スタンバーグのいう7種類の愛とは『好意(親密さ)・浮かれた愛(情熱)・うつろな愛(コミットメント)』と『ロマンティックな愛(親密さ+情熱)・友愛(親密さ+コミットメント)・馬鹿げた愛(情熱+コミットメント)』と『完全な愛(3要素が全て組み合わさったもの)』である。
愛とは強いパワーを持つものであるが、これらの心理測定尺度の歴史から分かるのは愛には『理想の愛(理想のロマンティシズム)』だけではなく『結婚はじめ現実的な要素(合理主義・生活面のリアリズム)』もあるということである。また恋愛には不安や嫉妬といったネガティブに解釈されやすい感情も関係してくるが、ギュレロとアンダーセン(1999)は嫉妬感情の構成要素として『怒り・不安・悲しみ・痛み・ねたみ・性的喚起・プライド(称賛欲求)』の7つの要素を抽出している。