異性不安と異性交際不安:異性から拒絶・否定・軽蔑などをされないかという不安
異性と一緒にいる時、異性に話しかけたり共に仕事・作業をしたりする時に、『不安感・緊張感・気後れ(劣等感)』といったネガティブな感情を感じる人は少なくない。思春期・青年期の人は特に、好きな異性ができてその異性に近づきたいと思ったり恋愛(交際)をしたいと思ったりした時に、『不安感・緊張感・気後れ(劣等感)』が強まりやすい。
異性とのコミュニケーションや異性との恋愛・交際は、思春期・青年期の発達段階にある人にとって主要な関心事や悩み事になりやすいものである。結婚に結びつくほどの恋愛まではしないとしても、異性との出会い・関係性やコミュニケーション(異性にモテるかモテないか・好きな異性と付き合えるか)がどのようなものであるかは『自己アイデンティティーの確立・拡散』『自己評価・自信の高低』とも深く関わっている。
特定の異性に限定されない一般的な異性との相互作用にまつわる不安を『異性不安』といい、特定の異性と親密になっていく過程や恋愛・交際を始めてから後の関係性の展開・変化にまつわる不安を『異性交際不安』と呼んで区別している。
思春期・青年期は特に自意識過剰や異性に嫌われたくない・馬鹿にされたくないというプライドから、一般的な異性との相互作用に対する『異性不安』を抱く人は多い。思春期・青年期に限らず、個人的に親しい付き合いにまで進展していない異性とのふれあいやコミュニケーションで不安感を感じたり緊張したり気後れしてしまうという人は意外に多いものである。異性不安は『対人不安・対人緊張』とも似たところがあるが、不安や緊張、気後れを感じる対象が異性に限定されている。
異性不安の根本原因は『男性と女性の異質性・差異(分かり合えなさ)への注目』であり、異性不安が強い人ほど『男性と女性は違っているという意識(同性同士の自然な会話が成り立ちにくいだろうという推測)』を持っていることが多く、生き方・感受性・価値観(好き嫌い)などがよく分からない異性から否定されたり拒絶されたりすることを何となく恐れているのである。
日本でも富重健一が『青年期男子・女性の異性不安に関連する要因(1994)』で、異性不安尺度やデート不安尺度といった心理測定尺度(心理テスト)を作成していて、一般的な異性不安(異性に拒絶されたり不可解な対応をされたりする不安)の内容を問う質問項目を作成している。
異性不安尺度
1.異性の友人に、話しかけるときも、同性の友人と話しかける時と同じくらい気楽にやれる。
2.異性と一緒にいるとき、私は内気になることがある。
3.異性に電話をかけるとき、ドキドキしたりすることはない。
4.異性にものをたずねるのが苦手だ。
5.異性の前だと思うようにふるまえないような気がする。
6.初対面の異性と話すとき、たいていリラックスしている。
7.概して、私は異性と付き合うのが苦手である。
8.異性に接するときに緊張することはめったにない。
9.異性と話をするときは、自分のいいたいことを伝えられないような気がする。
異性交際不安のほうは、一般的な不特定の異性に対して抱くものではなく、『親しくなりたい好きな異性・興味(欲求)を抱いている異性・付き合っている異性』などに対して抱くものであり、『一般的な異性との相互作用そのもの』ではなく『特定の異性との関係性・関係の内容の変化・関係の目的の変化』などによって生じる不安である。
好きな異性と親しくなって付き合うまでのプロセスでも、『嫌われないだろうか・拒絶されないだろうか・迷惑にならないだろうか』といった異性交際不安は付きまとうものだが、異性交際不安は異性との恋愛が始まったり結婚したりしても完全になくなる性質のものではない。
恋愛中の異性に対しても『嫌われないだろうか・他の異性が好きにならないだろうか・別れることにならないだろうか・自分の気持ちが変わらないだろうか(相手を傷つけないだろうか)』といった異性交際不安を抱くことは多い。さらに結婚を意識するような関係に進展しても、『相手の親に認められるだろうか・自分の仕事と収入で結婚を維持できるのだろうか・子供を責任を持って産み育てられるのだろうか・相手の気持ちや覚悟が途中で変わらないだろうか』といった異性交際不安が生じたりもする。
思春期・青年期の女性であれば、好きな異性と親しくなったり恋愛・交際を始めたりすると『相手の性的な求めにどこまで応じても良いのだろうか・性的行為をすることが不安で怖い・自分は相手を満足させられているのだろうか・他の異性と比べられたりしないだろうか』といった形の異性交際不安を持ってしまうことも多く、性に対する価値観の違いから恋人との関係が冷え込んでしまうようなこともあるだろう。