自我の持つ欲動のコントロール機能と思春期・青年期における精神疾患の発症
自我の重要な機能の一つに『欲動のコントロール機能』があり、自分の欲動を適応的にコントロールできないことが、思春期・青年期の精神疾患やパーソナリティー障害の原因になってしまうことがある。
特に思春期の女性が自分の欲動のコントロールができなくなってしまった時には、食欲に異常がでる『摂食障害(神経性無食欲症・神経性大食症)』や見捨てられ不安を伴う自己否定・情緒不安定が目立つ『境界性パーソナリティー障害(BPD)』を発症しやすくなるとされる。
生理的な欲動が強くなりすぎて衝動をコントロールできなくなる人もいれば、精神分析でいう超自我(スーパーエゴ)が強くなりすぎて欲動を過剰に抑制してヒステリー症状(神経症の身体化症状)が出てしまうような人もいる。幼少期の親子関係によって形成されるエディプス・コンプレックスを克服できなかったり(母親にリビドーを向けて固着する依存的な心理が長く残ったり)、父権的な超自我による過剰な抑圧があったりすると、精神発達が未熟な段階に留まって、自発的に何かをしようとする欲動そのものが未発達になってしまうこともある。
自我の持つ欲動のコントロール機能を、診断的面接で評価する時には以下のような項目をチェックすることになる。
○クライエント(患者)の欲動のコントロールのレベルはどのくらいであるか?
○自我が生理的な欲望の満足をどのくらい延期させられるか、どのくらいフラストレーション(欲求不満)に耐えることができるか?
○外的な環境・状況や現実的な条件に合わせてどのくらい欲動を調整できるか?
○自律的あるいは随意的にどのくらい欲動をコントロールすることができるか?
自我の欲動のコントロール障害の状態像としては、双極性障害の躁状態(manic disorder)や酒・薬による酩酊による衝動性の解放(自己制御困難)を想定することができるし、性嗜好障害・性倒錯による性的欲動の過剰を抑えられない状態などもある。激しい欲動のコントロール障害としては、『激怒発作・興奮・錯乱・癇癪』などを考えることができ、反対に超自我・道徳的な自己規制が強くなりすぎた時には欲動・感情の過剰な抑圧によって神経症やヒステリーを発症しやすくなる。