精神分析における性的欲動の『症状・夢・空想(白昼夢)』への転換:境界性パーソナリティー障害(BPD)の自己制御の障害
超自我(内的な善悪の判断基準)によって欲動・感情が過剰に抑圧されてしまうと、その内容が変形されて『症状・夢・空想(白昼夢)』などに投影的に転換されることになるというのが、S.フロイトが創始した精神分析における精神病理学的な考え方である。
自我の持つ欲動のコントロール機能と思春期・青年期における精神疾患の発症
神経症のクライエント(患者)は、本来の生理的な欲動(特に性的欲動)をそのまま空想することはなく、空想の内容を道徳的・社会的に批判されない無難な内容・対象に置き換えてしまうことが多く、複数の表象へと移り変わることによって『象徴化』されていく。そういった置き換え(置換)や象徴化は無意識のプロセスによって行われている。
精神分析の治療的アプローチでは、『症状・夢・空想』の背後にある『無意識の心理内容とその意味』を読み取って分析するが、それはクライエント(患者)の持つ『本来の性的欲動・願望・葛藤』を明らかにして言語化・意識化させていく心的作業である。自我の欲動のコントロール機能が大幅に障害されてしまうものとして、感情・気分・対人関係が不安定になり自傷行為が増える『境界性パーソナリティー障害(BPD)』がある。
境界性パーソナリティー障害(BPD)では特に、『激しい怒り・見捨てられ不安・自傷行為(自己破壊的な衝動)』をコントロールすることができなくなり、自分ひとりだけでは自分の激しい感情を制御することができないために、『近い親密な他者』に過剰に依存したり支配しようとしたりしてしまうのである。
自分ひとりで激しい怒りや不安、寂しさに耐えることができないBPDのクライエント(患者)は、相手の関心や気持ちを惹きつけるために『自傷行為(リストカットなど)・自殺企図』を繰り返す傾向があり、配偶者や恋人、親友は『生死のかかった問題』だと思ってBPDの自傷行為・自己否定に振り回されてしまうことになる。
境界性パーソナリティー障害(BPD)の主観的苦悩の源泉になっているのは『自分の激しい感情(怒り・不安)を自分ひとりでコントロールできないこと』であり、親しい他者をネガティブな自己否定の話題や自傷行為などで強引に巻き込んで、『相手とのトラブル(喧嘩)』を介して自分の激しい感情を処理する非適応的な人間関係のパターンになりやすい。
そういった相手を困らせたり苦しめたりする人間関係のパターンによって、最終的には相手から愛想を尽かされて別れてしまうことも多く、そうなるとBPDの見捨てられ不安や虚無感、自己否定が更に強くなってパーソナリティー障害が悪化してしまうのである。