『共感経験尺度・改訂版(ESSR)』と共有経験・共有不全経験で考える共感性の内容
『情動的共感性尺度』と合わせて実施されることの多い、過去の共感経験に基づく共感性のタイプを測定するための尺度に、角田豊(1991)の『共感経験尺度・改訂版(ESSR)』もある。角田は共感性の概念について、他者理解を前提として感情的・認知的なアプローチを統合したものと考え、共感性・共感経験を『能動的または想像的に他者の立場に自分を置くことで、自分とは異なる存在である他者の感情を体験すること』と定義している。
他者理解につながっていく共感が成立するためには、他者と感情を分かち合う『共有機能』と、自他の独立的な個別性の認識がなされる『分離機能』が統合されなければならないとした。
角田の『共感経験尺度・改訂版(ESSR)』は『共有経験』と『共有不全経験』の二つの下位尺度から構成されているが、共有不全経験というのは他者の感情を感じ取れなかった過去の経験のことで、人は共有不全経験によって自己と他者の独立した個別性の認識を生じることにもなる。
角田は共感性を測定する尺度の作成にあたって、以下の5つのポイントを重視したとされる。
1.感情伝染(情動伝染)など受動的で他者理解に至らない内容は含まない。
2.相手と同様の感情体験がなされていることが必要で、一般的な態度のみの感情体験は含まない。
3.相手の立場に立つという想像の視点を含む。
4.心理テストにおける社会的望ましさのバイアスを防ぐため、過去に実際した経験であるという制約を設ける。
5.感情の種類に幅を持たせる。
共有経験と共有不全経験の二つの下位尺度を持つ『共感経験尺度』においては、共感性は以下の4つに類型化されている。
1.両向型……共有経験と共有不全経験が共に高い。他者理解が最も進みやすい高い共感性である。
2.共有型……共有経験は多いが個別性の認識は低い。共有経験を自己に引きつけて捉える未熟さが残る『同情(sympathy)』に近い共感性である。
3.不全型……共有不全経験が高くて共有経験が低い。自己と他者の間に越えられないハードルがあり、そのために他者と感情を共有できずに孤独感を感じやすい。
4.両貧型……共有経験と共有不全経験が共に低い。対人関係そのものが少ないために、共感性も最も低くなる。
『共有経験尺度改訂版』は、『0(まったく当てはまらない)〜6(とても当てはまる)』までの7件法で質問に答えるが、典型的な質問項目をいくつか上げると以下のようなものがある。
共有経験尺度
○腹を立てている人の気持ちを感じ取ろうとし、自分もその人の怒りを経験したことがある。
○何かに苦しんでいる相手の気持ちを感じ取ろうとし、自分も同じような気持ちになったことがある。
○相手が何かを期待している時に、そのわくわくした気持ちを感じ取ったことがある。
○相手が喜んでいる時に、その気持ちを感じ取って一緒に嬉しい気持ちになったことがある。
共有不全経験尺度
○悲しんでいる相手といても、自分はその人のように悲しくならなかったことがある。
○相手が何かに苦しんでいても、自分はその苦しさを感じなかったことがある。
○相手が楽しい気分でいても、自分はその人のように楽しく感じなかったことがある。
○不快な気分でいる相手からその内容を聞いても、自分は同じように不快にならなかったことがある。