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2007年08月14日

[精神分析学のコア・アイデンティティ(core identity)と「青年期のアイデンティティ拡散・中年期の心理的危機」]

精神分析学のコア・アイデンティティ(core identity)と「青年期のアイデンティティ拡散・中年期の心理的危機」

「私は何ものであるのか?」という疑問に応える自己アイデンティティ(自己同一性)は、乳幼児期から青年期の過程で段階的に形成されるが、青年期で就職や結婚を経験したからといって自己アイデンティティが最終的な完成(固定化)に至るというわけではない。分析心理学の創始者C.G.ユング(1875-1961)「人生の正午」と呼んだ「中年期(壮年期)」にも、それまでに築いてきた自己アイデンティティの拡散が見られ「人生の方向転換」に基づく「自己アイデンティティの再構築」が必要になってくる。何故、人生の最盛期であり最も安定した社会的地位に就きやすい中年期(壮年期)において、「自己アイデンティティの危機(人生の意味に対する危機)」が生じやすいのだろうか。

それは、自己アイデンティティには「社会的アイデンティティ(自分の社会的役割や職務についての自己同一性)」「実存的アイデンティティ(自分は自分以外の何ものにもなれない唯一無二の有限な存在であるという自己同一性)」の二つがあり、実存的アイデンティティは「自分の体力・余命・家族関係・人間関係」などに大きく影響されるからである。40代以上の中年期(壮年期)の発達段階では、「体力・知力・精神力の絶頂期(正午)」を過ぎてしまったという自己認識が強くなり、「人生の下り坂(衰退過程)」を強くイメージしてしまう人ほど自己アイデンティティの拡散(危機)を感じやすくなってしまう。また、子どもが大きく成長して親との会話が少なくなったり、夫婦間の強い情愛関係に変化が生じたりしやすい時期でもあり、「情緒的関係(親密な家族愛)からの孤立感・疎外感」を感じてしまうと、「自分を本当に必要としてくれる人などいるのだろうか?」という実存的な不安感や寂しさに襲われるのである。

幼児期から青年期の過程では自分の社会的な自己認識(位置づけ)にまつわる「社会的アイデンティティの確立」が非常に重要な発達課題となるが、社会的アイデンティティがある程度確立した青年期以降の中年期(壮年期)・初老期・老年期などの発達過程では、「実存的アイデンティティの再構築(再調整)」を必要に応じて実行していかなければならない。社会的アイデンティティと実存的アイデンティティの根本的基礎にある自我同一性(自己同一性)のことを「コア・アイデンティティ(core identity, 中核的同一性)」と呼び、精神分析学(自我心理学・対象関係論)ではコア・アイデンティティはエディプス期(4〜5歳ころ)以前の乳幼児期(0〜3歳ころ)の発達段階で形成されると考えている。

コア・アイデンティティは、マーガレット・S・マーラー乳幼児発達理論(分離‐個体化理論)で言う「分離‐個体化期(separation-individuation phase:5〜36ヶ月)」の過程で獲得されるものと考えられており、「母親から一定時間以上離れていられる心的能力=個体化の機能」を身に付けることで初期の自我意識(自我同一性)が芽生えてくる。分離‐個体化期より前の「未分化期(nondifferentiation:1〜4ヶ月)」は、「正常な自閉期(1〜2ヶ月)」と「正常な共生期(3〜4ヶ月)」の二つの段階から成り立っているが、この段階の赤ちゃん(乳児)は「母親と自分との区別(個体化)」が出来ていない。

母親と自分とが別の独立した人間であることが分かっていない自他未分離な乳児は、「自分は他の何ものでもない独自の存在である」というコア・アイデンティティ(自己アイデンティティの原点となる中核的な自己認識)が確立していないので、母親から「すべての本能的欲求(食欲・排泄・安全・不快の除去)」を満たして貰わなければ生存できない。コア・アイデンティティとは、青年期の社会的アイデンティティの確立の基盤(原点)となるものであり、自分が母親とも父親とも他の誰とも違う「独自の人間存在」であることを自覚し始める精神機能(同一性の自己概念)のことである。

自分が他の誰とも異なる独自の存在であることを自己認識して、自律的な行動と自立的な方向性を持つことを「自己の個体化」と呼び、自己の個体化が母親や父親に対する「見捨てられ不安(感情的な依存性)」を克服した時にコア・アイデンティティの確立が進んでくるのである。コア・アイデンティティは、見捨てられ不安に影響される度合いを減らす「対象恒常性の確立」と深く関係しているので、コア・アイデンティティの形成段階(乳幼児期)で「両親との情緒的コミュニケーション」がうまく出来ていないと、情緒不安定で依存性や衝動性の強い人格構造(境界性人格障害)が出来やすくなってくる。

安定した自立的なコア・アイデンティティを強化することは、「青年期の自己アイデンティティ拡散」の予防につながり、「中年期の危機」に対処する肯定的な自己概念(楽観的な人生認識)の形成にも役立つことになる。コア・アイデンティティの強化とは、「私は私自身の唯一の人生を自信をもって楽しく生きていくのだ」と自己決断できることであり、「他者の批判・攻撃・離別(見捨てられ)」によって自分の人生が振り回されすぎないように精神的自立性を高める事である。



posted by ESDV Words Labo at 17:33 | TrackBack(0) | こ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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