ウェブとブログの検索

カスタム検索





2007年11月01日

[行動療法における行動分析(behavior analysis)と行動観察(behavior observation)]

行動療法における行動分析(behavior analysis)と行動観察(behavior observation)

不適応な行動の解除と適応的な行動の学習(習得)を目的にする心理療法が『行動療法(behavior therapy)』であるが、行動療法に大きな影響を与えた新行動主義のバラス・フレデリック・スキナー(B.F.Skinner, 1904-1990)は報酬と罰によるオペラント条件付けで人間の行動メカニズムを理解しようとした。行動主義心理学(行動科学)には人間の行動形成機序を説明する理論として、パヴロフの犬の実験で実証された『レスポンデント条件付け(古典的条件づけ)』と、スキナーが刺激の作用と行動頻度の関係から考案した『オペラント条件づけ(道具的条件づけ)』とがある。

レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)は、食欲・性欲・恐怖反応・不安反応(防衛反応)などの生理学的な無条件反射を『先行する条件刺激』によって生起させる条件づけで、ワトソンのS-R理論(刺激‐反応理論)によって体系化された。レスポンデント条件づけでは、『原因となる条件刺激』によって『結果としての行動』が反射的に生起するのである。一方、オペラント条件づけ(道具的条件づけ)『飴と鞭(むち)の理論』であり、報酬としての効果を持つ快の刺激によって『適応的な行動』の生起頻度を上げ、罰としての効果を持つ不快な刺激によって『不適応な行動』の生起頻度を下げようとするのである。

行動分析(behavior analysis)とは、行動療法で治療の対象となる問題行動(非適応的な行動)の形成メカニズムを分析することで、行動療法を実施する文脈では行動アセスメント(behavior assessment)と呼ばれることもある。クライアントは日常生活を困難にする主訴や心理的・社会的な不利益を生み出す問題を抱えてカウンセリングにやってくるが、行動分析では『クライアントの主訴となっている問題・悩み』を行動レベルで明確化して特定していく。行動分析では『不適応な問題行動の発生・維持・経過・修正』の具体的なプロセスを分析して、クライアントが生活環境や周囲にいる他者から受けている『正と負のフィードバック』を解明していく。

行動分析・行動アセスメントは、問題行動や不適応な症状がどんな要因によって発生してくるのか(手がかり刺激の特定)、問題行動はどのようなフィードバックを受けて維持されているのか(オペラント条件づけによる理解)、問題行動が改善あるいは悪化する時にはどのような刺激を受けているのか(正と負のフィードバックの理解)、問題行動を解決していくためにはどのような行動技法を用いるのが適切か(問題に適合した技法の選択)、その技法を適用した結果として問題状況は解決に向かっているか(行動療法の効果測定)によって成り立っている。行動分析は、『適応的な行動の学習・不適応な行動の消去』を目標として実施される行動療法に必要な心理査定の手続きであり、行動分析の構成要素は『手がかり刺激の特定・オペラント行動の実施・報酬と罰の作用を強化刺激の特定・強化刺激による行動へのフィードバック』によって成り立っている。

実際の心理療法で行動分析を行う場合には、クライアントの問題行動と生活環境、人間関係のパターンを的確に理解するための『行動観察(behavior observation)』が重要になってくる。特に、自分の問題状況や感情の変化、生活上の困難について正確に言語化して話す能力がない『乳児期・幼児期・児童期のクライアント』の場合には、適切な行動観察の実施が重要になってくる。具体的な行動観察としては、『子どもの遊んでいる状況・子どもと他の子どもとのコミュニケーション・子どもと母親との相互作用と愛着の程度・子どもの不適応な問題行動』を観察していくことになる。更に、『1人の時の行動・母親と一緒の時の行動・母親から離された時の行動・友達と一緒の時の行動・学校や幼稚園での行動』など色々とシチュエーションを変えて行動観察をすることで、クライアントの子どもの行動特徴を多面的かつ総合的に理解することができる。

行動観察による子どもの行動の多面的理解とは、『臨床心理学的(精神病理学的)・発達心理学的(発達障害的)・コミュニケーション的・母子関係的(分離不安・虐待の可能性)・身体医学的な多面的理解』のことである。行動観察は、子どものさまざまな問題行動(不安の強さ・多動性・夜尿症・攻撃性・指しゃぶりなどの嗜癖・緘黙など)が、どのような行動形成機序によって成り立っているのかを明確化していくのに役立つ。

また、行動観察には研究者自身が子どもの遊びの中に参加して子どもと主観的体験を共有する『関与観察』と、研究者が子どもと直接ふれあわずに離れて観察する『非関与的観察』とがあり、行動観察や心理学研究の目的と子どもの性格特徴に応じて使い分けていくと良い。取得できる『情報量の多さ』では関与観察と非関与的観察には大きな違いはないと言われるが、関与観察では子どもの目線・立場に立って環境や他者を経験できるので、より共感的な深い理解(間主観的な内面心理の理解)が得られやすい。

posted by ESDV Words Labo at 11:39 | TrackBack(0) | こ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック