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2007年12月18日

[心理療法における合理主義・合理的信念(ラショナル・ビリーフ)][自我防衛機制の合理化]

心理療法における合理主義・合理的信念(ラショナル・ビリーフ)

哲学史における近代的な合理主義(rationalism)は、17世紀フランスのルネ・デカルト(1596-1650)から始まり、オランダのスピノザやドイツのライプニッツへと継承されていったが、合理主義では生得的な理性に基づく仮説演繹法によって世界の事象を理解しようとする。ルネ・デカルトの最大の功績は『我思う、故に我あり(コギト・エルゴ・スム)』の第一命題によって、あらゆる明晰な知識の原点として近代的自我を仮定したことにあるが、大陸合理主義では『感覚的経験=知覚』よりも『合理的な推論=論理的整合性』を重視するところに特徴がある。17世紀〜18世紀の哲学では、大陸合理論とイギリス経験論(フランシス・ベーコン,ジョン・ロック,デイビッド・ヒューム)との対立があったが、大陸合理論では人間の知識の根拠を『論理的整合性=理性に基づく演繹法』に求め、イギリス経験論では人間の知識の根拠を『感覚的経験=証拠に基づく帰納法』に求めたという違いがある。しかし、18世紀にインマヌエル・カントの緻密で周到な哲学によって合理主義と経験主義の対立は統合されることになり、両者は近代科学の発達の二大原理として機能することになる。

イギリス経験論に分類されるジョン・ロックは生まれたばかりの赤ちゃんの心は『タブラ・ラサ(白紙)』であるとし、人間の知識や理性は後天的な経験の蓄積によって形成されると考えたが、大陸合理主義では生得的な理性と概念獲得能力によって演繹的に知識を獲得していくと考えるのである。さて、心理療法において合理主義や合理性という時には、どのような意味があるのだろうか。結論から言うと、心理療法における合理性の概念は、ルネ・デカルト以来の合理主義とは何の関係もないということになるが、心理療法では現実的に効果のある考え方(認知)や行動のことを『合理的』と表現する。この合理性の概念の起源は、論理療法を創始したアルバート・エリス『合理的信念(rational belief)』にあるが、論理療法(論理情動行動療法)では合理性(合理的)ということを実際に役に立つか否かという『プラグマティズム(実用主義)』の文脈で考えている。アルバート・エリスは合理的信念の特徴として、1.現実性・論理的整合性、2.『〜したい,〜したほうが良い』という相対的な信念、3.適応的な感情や行動と結びつく信念などを上げていて、後の認知療法における合理的で適応的な思考の獲得技法にもつながっている。

自我防衛機制の合理化

シグムンド・フロイトの末娘であるアンナ・フロイトが自我を苦痛や不安から守るための自我防衛機制をまとめたが、その一つが自分の行動や主張にもっともらしい合理的な理由をつけて欠点や問題を隠蔽しようとする『合理化(rationalization)』である。一般的には、合理化が為された言動は、強引な説得や無理のある屁理屈といった印象を受けることが多い言動であるが、本人は合理化の防衛機制の存在に気づいていないことが多い。自分の本当の欲求や不安に気づいていない人が、自己正当化や自尊心の補償のために無意識的に行うのが『合理化』である。合理化に類似した防衛機制として『知性化(intellectualization)』があるが、知性化の場合には知的情報やぺダンティック(衒学的・教養趣味的)な説明によって自分の問題を覆い隠してしまおうとする。

合理化の分かりやすい例としては、本当は恋人が欲しいが好きな相手に受け容れられる自信のない青年が『自分は将来の勉強を優先するので恋人などと遊んでいる時間はありません』というようなケースや、交通ルールを破って違反を切られた人が『ほとんど全員がスピード違反をしているのに、運が悪い人だけを恣意的に取り締まっても意味がないじゃないか』と反論するケースなどを考えることが出来る。

相手の正論に対してさらにもっともらしい理屈をつけた意見を返すようなコミュニケーションパターンで合理化は多く見られるが、論理的・倫理的な次元では合理化された言説が正しいこともある。しかし、合理化された言動は論理的に正しくても実際的な効果がなかったり、道徳的に正しくてもそれによって誰か他者を不当に傷つけていたりすることがある。合理化による弊害を緩和させるためには、『今の自分の目的や課題は何なのか?』という意識を絶えず持ち、『今の自分にできる具体的な行動』からまず始めてみるということが大切になるだろう。



posted by ESDV Words Labo at 19:19 | TrackBack(0) | こ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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