交流分析と交流分析的カウンセリング(transactional analytical counseling)
アメリカの精神科医であるエリック・バーンが開発した簡易型精神分析である『交流分析(transactional analysis)』については、以下の記事で解説してきたが、ここでは交流分析(TA)の理論と技法を柔軟に応用したカウンセリング技法についても簡単に説明しておきたい。
交流分析のエゴグラム
交流分析の人生脚本に作用する禁止令
エリック・バーンが開発した交流分析のインパス
交流分析の裏面交流とゲーム分析
精神分析では人間の精神構造(精神機能)を『意識・無意識・前意識』の三層構造で理解したり、『エス・自我・超自我』の3つの精神機能で理解したりするが、交流分析では『親(P)・大人(A)・子ども(C)』の3つの自我状態(厳密には5つの自我状態)のバランスを記述したエゴグラムで理解しようとする。交流分析は1950年代にサンフランシスコ周辺でエリック・バーンが主催していた社会精神医学セミナーが母胎なって開発されることになったが、日本に交流分析の理論・技法を輸入したのは九州大学医学部の池見酉次郎である。
エリック・バーンが開発した交流分析の技法には、『構造分析(エゴグラム)・やり取り分析(交流分析)・ゲーム分析・脚本分析』の4つの分析技法が存在している。構造分析(エゴグラム)というのは前述したように、『批判的な親・擁護的な親・大人・適応的な子ども・自由な子ども』という5つの自我状態のバランスを質問紙法で測定して、その人の性格傾向や行動特徴を理解する方法である。やり取り分析(交流分析)というのは、二人の人間の自我状態の間で行われるコミュニケーション・パターンを分析する技法であり、『相補交流・交差交流・裏面交流』などの型に従ってコミュニケーションの特徴と問題に対する理解を深めていく。
ゲーム分析というのは、相手を自分の思い通りにコントロールしようとしてお互いに不快感を味わう『ゲーム』のコミュニケーションを分析して、問題のある発言や行動を修正していこうとする技法である。脚本分析というのは、幼少期に両親の教育や禁止令を伴うしつけによって植えつけられた『人生全体の大まかなプラン(筋書きとしての人生脚本)』を分析して、問題のある脚本の内容を修正していこうとする技法である。しかし、エゴグラムの体系的な技法の完成に果たした役割はエリック・バーンよりもJ.M.デュセイのほうが大きく、J.M.デュセイはドラマの三角図説を提起したS.カープマンと共にサンフランシスコ・セミナー派に分類されている。それ以外にも、交流分析の理論体系にゲシュタルト療法的な感情技法を持ち込んだ再決断療法のグールディング夫妻や、親子間の関係性をリフレーミング(再構築)していく再ペアレント法のシフなどがいる。
交流分析的カウンセリング(transactional analytical counseling)では、分かりやすく図式化したエゴグラムを用いて、自分の日常の人間関係(親子関係)やコミュニケーション・パターンに内省を加えていくことになる。トラブルや対立の多い人間関係の悪循環が見られる場合には、ゲーム分析を行って『自分のどんな言動が相手の攻撃的な反応を引き起こしているのか?』を自己認識できるように支援していくことになる。交流分析的カウンセリングの根底にある人間観は、『自己認識が深まった人間は、自律的に自分の感情と行動をコントロールできる』というものであり、アサーティブに自分と相手の感情を尊重して、お互いの目的や感情的欲求が達成できるようなコミュニケーションを実現しようとする。自分自身で自分の行動を判断できるような適切な自己理解とコミュニケーション技術を得ることが、交流分析的カウンセリングの大きな課題となるだろう。