国際疾病分類(ICD-10:International Classification of Disease)とDSM‐W
臨床心理学分野における疾病分類とアセスメントでは、アメリカ精神医学会が作成したDSM‐W‐TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)が有名でよく利用されているが、身体疾患を含む国際的な疾病分類(疾病統計)としてWHO(世界保健機関)がまとめているのが国際疾病分類(ICD:International Classification of Disease)である。現在、公表されている国際疾病分類は1990年の第43回世界保健総会で採択された第10版で『ICD−10』であるが、国際的な統計データを元にして第11版(ICD−11)の策定も鋭意進行中である。ICDは一般的に10〜15年程度のスパンで改訂が繰り返されているが、精神医学領域でスタンダードな診断基準となりつつあるDSMのほうも2011年を目途にしてDSM‐Xが発表される見通しとなっている。
ICD‐11を定める上での主要課題は『電子カルテ・電子医療への対応』であり、先進国を中心として進んでいる電子医療体制に柔軟に適応できるような疾病分類が整理される予定となっている。ICD(国際疾病分類)は、アルファベットと数字により符号化(コード化)されており、ICDに通じた医師の間では疾病を識別する共通言語としての役割も果たしている。最初のアルファベットが全21章から成る大分類(Uを除く)、続く数字が中分類を表しているが、ICDはエビデンスベースドな診断基準を確立するために『疾病・障害・死因の統計』をバランスよく参照して作成されることになっている。そのため、一般的な疾病分類表だけではなく、ICDには死因簡単分類表や乳児死因簡単分類表などの補助資料も添付されている。
精神医学を含む現代医療においてICDやDSMは、国境を越えた『医師間の共通言語(診断マニュアル)』としての役割が期待されており、国際的な事例・症例を集めて統計的処理を加えた『エビデンスベースドな疾病分類・診断基準』を目指して絶え間ない改訂のための努力が続けられている。多軸診断システムを採用したDSM‐Wも総合的な分類表を提示するICD-10も、その最大の魅力は『精神障害あるいは身体疾患の網羅性』にあり、どの医師が診断しても同じ診断名を導き出せるような『診断面接のマニュアル化(構造化)』の利便性に配慮がなされている。特に、精神医学の領域では患者を診る精神科医によって病名が異なるというケースが少なくないので、保険診療の根拠付けのためにはDSMのような診断マニュアルの必要性は高いと言えるだろう。法的に有効な診断を下せない心理臨床では必ずしも病名診断は重要ではないが、保険診療の公費負担がある精神医療では一定水準以上の客観的な病名診断が要請されることになる。