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2007年12月27日

[デイビッド・リースマンの『孤独な群衆(Lonely Crowd)』]

デイビッド・リースマンの『孤独な群衆(Lonely Crowd)』

アメリカの社会学者デイビッド・リースマン(1909-2002)は、著書『孤独な群衆(Lonely Crowd)』の中で人間の性格類型を『伝統指向型(tradition-directed)・内部指向型(inner-directed)・他人指向型(other-directed)』の三つに分類して、中間大衆層の基本的性格傾向(他人指向型)を『孤独な群衆』という概念でまとめた。伝統指向型(tradition-directed)の性格類型は『過去の伝統と同じように行動する』という行為規範に支えられており、伝統指向型の個人で構成される社会は殆ど大きな変化をしない。昨日と同じような明日が来るという確信に支えられた社会が伝統指向型の社会であり、こういった全体の秩序を優先する社会では幼少期から徹底的に『伝統的価値観(全体の秩序)への服従』が教育されることになる。

内部指向型の性格類型(inner-directed)は『社会的・権威的な価値観を内面化して行動する』という行為規範に支えられており、内部指向型の個人で構成される社会は決められた枠組み(価値体系)の中で変化をする。伝統指向型の行為規範は『外部からの強制』という側面を強く持つが、内部指向型の行為規範は『内面的な倫理(良心)』という側面が強い。内部指向型の性格類型は、両親や社会的な権威者(教師など)の教育行為によって形成されるもので、社会の中心的価値観(支配的な道徳)を尊重するという特徴を持つ。

社会構成員の大多数が共有する『生きる目的(大きな物語)』を認めており、富・名誉・地位・学術・結婚・育児・仕事などの要素に価値を見出して前向きに努力する従順な適応性が見られる。内部指向型では、社会的役割・義務を引き受けることと内面的な倫理観が一致していることが多いのだが、それは、内部指向型が基本的に権威主義的(保守主義的)であることを意味している。内部指向型の性格は『社会で認められている行為や権威』の価値を認めて内面化していることに特徴があり、簡単に言うと非常識さ(逸脱行為)を嫌う『常識人としてのエートス(行動様式)』を身につけた人ということが出来る。

他人指向型(other-directed)とは、『社会の中心的価値観(支配的な道徳)』よりも『他者の期待(欲求)』に従って行動を選択する同調性の高い性格類型である。デイビッド・リースマンは、この多数派の意見や他人の価値観に同調しようとする『他人指向型(あるいは外部指向型)』の性格類型を近代工業社会の中間大衆層に典型的な性格であるとしている。他人指向型の人は『他人と同じようにしていないと恥ずかしい』という体裁や世間体に強く配慮し、絶えず『自分が他人にどう思われているのか?』ということを心配しているが、自分自身の信念や判断というものが殆どない。近代工業社会の中産階級の大多数はこの他人指向型の性格類型を持つことになり、『他人と同じように生活すること・人間関係に無難に適応すること』が人生の目的になってしまう。他人指向型では『自分がこのように生きていきたい』という内面的な判断基準(行為規範)が形成されないので、自己アイデンティティが拡散して自分がどういった存在であるのかを確証することが出来なくなる。

孤独な群衆とは『他人に良く思われたい・他人に悪く思われたくない』という虚栄心(世間体)が人生の目的になってしまったために、他者と一時的・表層的な関係しか結べなくなりお互いの価値観や解釈をぶつけ合うような『主体的なコミュニケーション』が出来なくなった人たちのことである。伝統指向型の人は『過去の伝統の保存』を目的にして人生を生き、内部指向型の人は『内面化された価値基準(権威性)』を目的にして人生を生きていくので、揺らぎの少ない自己アイデンティティを形成しやすい。

しかし、他人指向型(外部志向型)の人は『他人の感情・判断との同調』を目的にして防衛的に生きることになるので、『他人と違う唯一の自分』という意味での自己アイデンティティが揺らぎやすくなるのである。孤独な群衆とは、他人に否定されたり軽蔑されることを過度に恐れて、『他人とは違う自分の価値観や感受性』をアサーティブ(自己開示的)に表現できなくなった人のことを指している。孤独な群衆である近代社会の中間大衆層は、社交的に振る舞い表層的な関係を他人と結んでおり、一見すると充実した人生を歩んでいるように見える。しかし、自分の信念や嗜好を抑圧した結果として、『他人と理解し合えない孤独感・自分をオープンに出来ない不安感』を抱えることになる。

ポストモダンの現代社会では、他人指向型(外部指向型)とアノミー型(無規範的な個人主義)とが混在しており、社会成員全体に共通する価値観(物語)が既に消失しかかっている。アノミーな現代社会において、個人の行為を具体的に規制するのは、伝統(共同体)でも権威(良心)でもなく『身近な他者の承認(忠告)』や『強制力のある法律』になっており、『何をすべきで何をすべきでないか』という個人の行為規範(善悪観)も多様化している。



posted by ESDV Words Labo at 06:41 | TrackBack(0) | こ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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