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2008年02月18日

[催眠療法(hypnotherapy)と催眠医学・催眠心理学(psychological studies on hypnosis)]

催眠療法(hypnotherapy)と催眠医学・催眠心理学(psychological studies on hypnosis)

フランツ・アントン・メスメルの動物磁気説や催眠感受性を利用した暗示療法の歴史については、既に過去の解説記事に書いているが、催眠療法(hypnotherapy)も催眠誘導暗示を用いた心理療法である。催眠療法の適応症は、心身症の身体症状や不安性障害(全般性不安障害)、対人恐怖症的な社会不安障害、強迫性障害の強迫観念、抑うつ状態や焦燥感、感覚的な障害・疼痛(痛み)・チック、爪噛み・抜毛癖の嗜癖(習癖)など様々なものがあり、治療的暗示がスムーズに効果を発揮すれば、相当に広範囲の疾患や障害を改善することが出来る。

しかし、催眠療法はすべてのクライエント(患者)に適用可能なものではなく、治療的・効果的な催眠暗示をどのくらい受け容れやすいのかという『催眠感受性(被暗示性, hypnotic sensitivity)』によって催眠療法の実際の効果は変わってくる。催眠療法は、意識水準が低下して『明晰な意識状態』がぼんやりとした『曖昧な意識状態』に変化した時に治療効果を発現するわけだが、一般的に子どものほうが大人よりも暗示にかかりやすく意識水準が低下しやすいので催眠感受性が高いと言える。催眠感受性と被暗示性は厳密には同じものではなく、認知心理学の錯覚(錯視)のような『視覚の生理学的な歪み』には催眠感受性が関係しているが被暗示性は殆ど関係していない。

一般に催眠療法(暗示療法)において、被暗示性という場合にはセラピスト(クライエント)の『言語的暗示・観念的(感覚的)暗示』にどのくらい強く反応するのかということを意味している。催眠療法の実施によって起こる暗示を受け容れやすいぼんやりとした変性意識状態のことを『トランス状態』ということもあるが、トランス状態を生み出すために確立された系統的技法を『催眠誘導法(hypnotic induction method)』と呼んでいる。

催眠誘導法には大きく分けて、『振り子法・動揺法・観念運動・筋肉のリラクセーション』などがあるが、振り子法は揺れる振り子や炎を見つめさせて意識レベルを低下させていく技法、動揺法は身体を単調なリズムで揺り動かさせていく技法である。それ以外の技法は、基本的に『言語による誘導技法(暗示技法)』であり、観念運動とは心の中に思い浮かぶイメージ(表象)を具体的な行動へと無意識的に変容させていく技法である。心の中に強くイメージした観念が、実際の運動現象へとつながることを観念運動といい、催眠療法の基本的メカニズムの一つとなっている。

一般的な催眠療法で比較的よく使われる催眠誘導法が『筋肉のリラクセーション技法』であり、筋肉の緊張と弛緩の感覚を実際に体験させながら、『セラピスト(カウンセラー)の言葉によって反応しやすい身体的・生理的状態』を作り上げることが目的となる。『手を前に出してぐっと力を入れてください。拳をぎゅっと思いっきり握ってみてください。その拳はあなたの意志では開くことができませんよ……そのままの状態で10秒間力を入れて、手を開いてみましょう』というような形で筋肉のリラクセーション技法を催眠誘導法として用いることができる。

身体の硬直や両手両足の密着などの言語的暗示によって催眠感受性を向上させることができ、その後の知覚・感覚・記憶・年齢退行(過去の体験)などの高度な催眠誘導へとつなげていくことが出来るのである。標準化された催眠誘導法として、スタンフォード標準尺度や成瀬悟策の成瀬標準尺度などがある。

催眠療法の基礎的な治療機序や臨床的な応用事例は、心理学分野だけでなく精神医学分野でも研究されており、それらの学術分野のことを催眠心理学・催眠医学と呼んでいる。日本の催眠療法・自律訓練法の確立に大きな貢献をした九州大学の臨床医として成瀬悟策が有名であるが、成瀬悟策は前田重治や竹山恒寿らと共に『催眠研究会』を結成して日本での催眠療法の普及を促進した。

posted by ESDV Words Labo at 19:08 | TrackBack(0) | さ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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