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2008年04月13日

[自我心理学(ego psychology)]

自我心理学(ego psychology)

S.フロイト(S.Freud, 1856-1939)の精神分析学は人間の心的機能を『エス・自我・超自我』の自我構造論によって解説したが、フロイト以後に『自我(ego)』を精神機能・環境適応の中心に置く『自我心理学(ego psychology)』が発展した。フロイトの生物学主義的な精神分析学では、初めに生理学的基盤を持つとされる本能的・原子的欲求である『エス(es)』が重視された。

しかし、晩年のS.フロイトはエスの領域(無意識領域)に充満するリビドー(性的欲動)を現実適応的に充足させようとする『自我(ego)』の機能を重視するようになり、『自我の現実適応機能・精神力動の葛藤の調整』によって人間の精神活動を包括的に理論化しようとした。このフロイトの生物学主義(リビドー中心主義・無意識の決定論)から社会的な自我中心主義への転換が、その後の自我心理学の起点となっていくのだが、自我心理学派の中心になったのはフロイトの末娘のアンナ・フロイト(Anna Freud, 1895-1982)であった。

精神分析的自我心理学を主導したアンナ・フロイトは児童精神分析の分野で業績を上げたが、『プレ・エディパル(前エディプス期)の子どもの精神分析の可能性(有効性)』を巡って対象関係論学派(クライン学派)のメラニー・クラインと激しい論争を行ったことでも知られる。アンナ・フロイトは、意識の中心にあって現実検討能力を担う『自我(ego)』と自我の持つ苦痛や不快から自分を守る『自我防衛機制(ego defence system)』を重視した。

アンナ・フロイトは自我防衛機制の研究で多くの功績を残したが、自我防衛機制とは不快(苦痛)な刺激を受けて『不安・恐怖症状』が発生した時に、その不安・恐怖を防衛して再適応を果たそうとする仕組み(心的な再適応機能)のことである。アンナ・フロイトは『抑圧・退行・投影・否認・合理化・知性化・逃避・昇華』などの自我防衛機制の分類・定義を行い、自我の持つ具体的な再適応機能を明らかにすることで、外的現実(現実原則)や内的欲求を調整・統合する自我の役割の重要性を強調した。

フロイトの精神分析では人間は本能的欲求(リビドー)を発達・適応させる『個人的存在』という趣きが強かったが、自我心理学では人間は『自我機能』を用いて社会環境や対人関係に適応していく『社会的存在』として前提されている。自我心理学派に分類される精神分析家には、アンナ・フロイトの他に、社会的精神発達論(ライフサイクル論)で知られるエリク・エリクソン(E.H.Erikson, 1902-1994)や自我心理学の理論的な体系化に尽力したハインツ・ハルトマン(Heinz Hartmann, 1913-1981)がいる。

エリク・エリクソンは『一生涯の発達漸成図式(ライフサイクル)』を提起して、人間の社会的発達段階を『乳児期・幼児期前期・幼児期後期・児童期・青年期・成人期・壮年期・老年期』の8段階で理解しようとした。フロイトの発達論はリビドーの発達を中心にしているので『性的精神発達論』と呼ばれるが、人間を『社会的存在』として自我と他者との関わり合いの発達を考えたエリクソンの発達論は『社会的精神発達論(心理社会的発達理論)』と呼ばれる。

E.H.エリクソンの社会的精神発達論では各発達段階における『発達課題』が定義され、その発達課題を達成して『適応的な心理機能』を獲得しないと『精神的危機(社会不適応)』に陥りやすくなるとされた。エリクソンは特に青年期の発達課題である『自己アイデンティティの確立(社会的存在としての自己同一性)』を重要視し、自己アイデンティティが拡散すると、既存社会(社会活動)に帰属感を持てなくなって社会的自立が困難になると考えた。先進国においては、青年期に一定期間のモラトリアム(社会的選択の猶予期間)が与えられるが、モラトリアムが遷延して長期化すると職業選択や社会的自立に問題が発生してくる。

現代社会では、若者の失業率の高さや労働意欲の低下、職業選択における自尊心と絡んだ躊躇などが問題になっている面があり、エリクソンが生きていた時代よりも自己アイデンティティの確立という発達課題が複雑になっていると言える。ハインツ・ハルトマンは自我の現実適応機能と自我防衛機制によって詳細な研究を行ったが、1937年に発表した『自我心理学と適応問題』の論文の中で『受動的な防衛自我』以外にも『能動的な自律自我』が存在することを主張し、エス・超自我(無意識)に依存しない自我心理学の体系化に大きな貢献をした。



posted by ESDV Words Labo at 02:52 | TrackBack(0) | し:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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