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2008年05月06日

[老年期の気分障害(うつ病)と妄想症状を伴う精神病]

老年期の気分障害と妄想症状を伴う精神病

身体の体力と精神の耐性(集中力・持久力)が低下して『悲観的な認知』をしやすくなる老年期(65〜75歳以上)の高齢者は、認知症(アルツハイマー型・脳血管障害性)だけではなく精神疾患全般の発症に注意する必要がある。老年期に発症する認知症の症状・経過・治療については上記のリンクと『アルツハイマー型認知症とその対処方略』の記事を参照して頂きたい。

アルツハイマー病にせよ脳血管障害にせよ認知症の原因となるのは『脳(神経細胞・血管)の器質的障害』であり、現代医療の水準では認知症の記憶障害(見当識障害)や意識障害(知的能力の低下)の進行を抑制することはできても、一定以上の状態に進行した認知症そのものを完全に治癒することは出来ないとされている。しかし、最先端医療の分野において、アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβ(タンパク質の一種)の凝集を防いで除去する新薬の開発と臨床試験が進められており、近未来的にはDNAワクチンを用いた遺伝子治療によって『脳の萎縮・神経細胞の脱落・アミロイドβの蓄積』を一定程度改善できるのではないかとも言われている。

最近の日本では国民の平均余命の延長により、かつて壮年期から高齢者(老年期)への境界線とされた60歳程度では、『高齢者(老人)』と呼べないほどに元気な人が多くなっている。その為、個人差はあるが一般に外見的・体力的・精神的(自己認知的)に『高齢者(老人)』と呼ばれるのは、70〜75歳以上程度の年代層に上昇していると考えられる。老年期の高齢者が発症しやすい精神症状は『抑うつ感・絶望感・不安感・妄想観念・怒りを伴う衝動性(攻撃性)・認知障害・意識障害』などであり、この項目では老年期の気分障害(うつ病・躁病)と妄想観念を抱く精神病についての概略を説明する。

うつ病の疫学的調査では、65歳以上のうつ病発症率は中年期(30代〜50代)の発症率とほぼ同じであり、老年期における有病率は約10〜15%あるとされている。男女比は他の年代と同じく、女性のほうが男性よりも1.5〜2倍ほど発症率が高いが、希死念慮が明確ではない自殺既遂・自殺企図のリスクに関しては男性のほうが女性よりも有意にハイリスクである。老年期のうつ病は『配偶者との死別による適応障害・人間関係の乏しい社会的な孤立による不安感・健康や生きがいなどの喪失感』などをきっかけにして発症しやすいが、一部の老年期うつ病には遺伝素因が見られる。認知症の発症によって強度の抑うつ感や心気症状(自分が重大な病気ではないかという妄想的な不安)が見られることもあるので、認知症とうつ病との鑑別診断は大切である。

老年期うつ病は、高齢者の『内省能力(自己洞察能力)・言語表現能力』の低下によって『精神的な自覚症状(憂鬱感・希死念慮・気分の落ち込み・絶望感)』に乏しいという特徴があり、一般的な気分障害(うつ病)の心理測定尺度の診断基準を満たさないこともある。その為、『なんとなく元気ややる気がでなくて食欲も落ちている』という主訴であっても、実際のうつ病の重症度がかなり高いことがあるのでうつ病が疑われる高齢者には特別な配慮・精神的支持が必要となる。老年期うつ病を引き起こしやすいライフイベントは『人間関係・経済力・健康状態・生きる意味に対する喪失感を感じさせる出来事全般』であり、『自分はこれからますます衰えて無力になっているばかりだ』という悲観的認知が強く見られる場合には要注意である。

老年期うつ病の症状は仮面うつ病のように『身体症状』を中心にして表現されやすく、『睡眠障害・食欲低下(食欲不振)・心気症(ヒポコンドリー)・頭痛や気分の悪さ』などの主訴があるときには一応うつ病の可能性を考えるべきである。また、うつ病相が見られる高齢者は『老年期躁病』の発症率が有意に高くなり、急性意識障害(錯乱・興奮)に類似した『情緒不安定・イライラ感(落ち着かないそわそわ感)・気分の急速な高揚・困惑感』などの症状が見られるようになる。老年期のうつ病も躁病も一般的な薬物療法(抗うつ薬・抗躁薬)が実施されるが、老年期における躁病相(双極性気分障害)の治療では神経毒性の強い炭酸リチウム(リーマス)の投与は、普段以上(青年期〜中年期の患者以上)に慎重に行わなければならない。難治性の老年期うつ病で精神運動抑制が強く妄想症状や自殺企図のリスクが高い場合には、ECT(電気けいれん療法)が必要に応じて実施されることもあるが、ECTを施術する場合には青年でも高齢者でも『患者へのインフォームド・コンセント』を丁寧に行う必要がある。

老年期には社会的孤立や知覚障害などの要因によって、現実認識能力(現実世界との接触範囲)が低下しやすくなり、その結果として統合失調症に近似した妄想性精神病(妄想症状を伴う精神病)を発症するリスクが高くなる。高齢者の妄想性精神病は自覚症状に乏しく病識(自分が精神の病気であるという自覚)がないので、家族や医療関係者が気づかなければそのまま発見されずに慢性に経過することが多いという問題がある。老年期精神病(妄想性精神病)は、統合失調症の下位分類として認識されることが多いが、うつ病・認知症・急性意識障害とは区別されている。治療反応性は老年期うつ病よりも若干良いことが多く、遅発性ジスキネジアや錐体外路症状の副作用の問題があるが、ドーパミン神経の情報伝達を遮断する抗精神病薬(メジャートランキライザー)で妄想症状が改善することが多い。しかし、老年期の精神疾患はうつ病にしても妄想性精神病にしても再発率が高く、高齢になればなるほど予後も余り良くないので『早期発見・早期治療』が何より重要であり、医学的治療だけではなく高齢者を孤立させないような温かい人間関係と対人的サポート(社会的サポート)によって発症リスクを低下させることができる。

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posted by ESDV Words Labo at 23:38 | TrackBack(0) | ろ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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