ウェブとブログの検索

カスタム検索





2015年10月29日

[ADHD(注意欠如多動性障害)・ADD(注意欠如障害):児童期の行動面の障害]

ADHD(注意欠如多動性障害)・ADD(注意欠如障害):児童期の行動面の障害

ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorders)『注意欠如・多動性障害』と翻訳されるが、『注意散漫・集中力の低さ・多動性(落ち着きのなさ)・衝動性(行動抑制のなさ)』を特徴とする幼児期・児童期に発症しやすい発達障害の一種である。

ADHDのうちで『多動性・衝動性』を伴わない『注意散漫・集中力困難』の問題だけが生じているものを『ADD(注意欠如障害:Attention Deficit Disorder)』と呼んでいて、成人にも見られやすい発達障害である。

ADHDは『親の育て方・養育環境(児童虐待)・本人の努力不足』などによって発症するものではなく(一部の仮説では養育環境の悪さや親の過度の放任がADHDの発症リスクを上げるともされるが)、『生得的な高次脳機能(前頭前葉)の実行機能・衝動制御の障害』『神経伝達物質(脳内ホルモン)の分泌障害による精神活動の活性低下』などが原因になっていると推測されている。

前頭前葉の『実行機能(計画・注意・集中による課題遂行機能)』『衝動制御(反射的に起こる衝動や欲求の適切な制御機能)』が低下しているというADHDの原因仮説に基づき、精神科・心療内科の薬物療法では中枢神経刺激薬である『塩酸メチルフェニデート(商品名リタリン,コンサータ)』が処方されることがある。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 14:36 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月26日

[R.エムディの『母親参照機能(maternal referencing)』とD.スターン(D.Stern)の『情動調律(affect attunement)』]

R.エムディの『母親参照機能(maternal referencing)』とD.スターン(D.Stern)の『情動調律(affect attunement)』

R.エムディは、乳児が自分の行動の迷い・不確実性を解消するために、母親のほうを見てその反応を確認してからどうするか決めるという発達上の心的傾向性を『母親参照機能(maternal referencing)』と呼んだ。

R.エムディ(R.Emde)の『情緒応答性(emotional availability)』と発達早期の母子関係

社会化や協調性を高める精神発達過程が進んでいくと、この母親参照機能は社会の平均的な価値観や常識的な行動規範に自分を合わせて適応しようとする『社会参照機能(social referencing)』へと変わっていく。そして、この客観性の高い社会参照機能によって、子供時代にあった母親参照機能(母親の反応の正当化)の歪み・偏りも修正されやすくなる。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 04:58 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[R.エムディ(R.Emde)の『情緒応答性(emotional availability)』と発達早期の母子関係]

R.エムディ(R.Emde)の『情緒応答性(emotional availability)』と発達早期の母子関係

乳幼児と親(養育者)は強い愛着で結び付けられており、『幻想的な母子一体感・母親の原初的没頭』の中にあるが、乳幼児は微笑・泣き・不機嫌(ぐずつき)・緊張・落ち込みなどの非言語的コミュニケーションによって、さまざまなメッセージや情緒的信号を発信している。

アメリカの精神科医R.エムディ(R.Emde,1935-)は、乳幼児が非言語的コミュニケーションによって伝えてくる情緒的信号を的確に読み取って適切に応答する母親の心的態勢を『情緒応答性(emotional availability)』として定義した。

D.W.ウィニコットの『ほぼ良い母親(good enough mother)』と母親のホールディングの役割

R.エムディはアメリカのデンバーにあるコロラド大学教授であり、母親と乳児の相互的な情緒応答性、情緒応答性を介した自己の一貫した情緒の発達の研究などで知られる精神科医であり、世界乳幼児精神保健学会の指導者的人物としても評価された。母親と乳幼児の間には、パターン化された情緒の認識と反応の信号システムが確立しており、この情緒に関する信号システムが乱れて情緒応答性が障害された時に、発達早期の母子関係や乳幼児の心理状態にさまざまな問題が起こってくるのである。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 04:57 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月23日

[ジークムント・フロイトの“エルンスト坊やの観察研究”と“不在‐再会”の図式]

ジークムント・フロイトの“エルンスト坊やの観察研究”と“不在‐再会”の図式

イギリスの精神分析家のジョン・ボウルビィ(John Bowlby,1907-1990)は、対象喪失の後に起こるモーニング(喪)の心的プロセスについて4段階論を用いて説明した。

しかし、精神分析・心理学の分野に『モーニング(喪)』という概念そのものを持ち込んだのは、精神分析の創始者のジークムント・フロイトである。

S.フロイトは対象喪失によるモーニング(mourning)の図式として『不在と再会の図式』を考えていたが、この発想はジョン・ボウルビィの四段階説にも引き継がれている。S.フロイトは生後18ヶ月(1歳6ヶ月)のエルンスト坊やがしていた『フォルト・ダー(fort da)』という遊び(日本のいないいないばぁに似たような遊び)を見ていて、『不在と再会の図式(あるいは消滅と再現の図式)』の着想を得ることができたのだという。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 08:38 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月11日

[E.H.エリクソンのライフサイクル論とアイデンティティ論に基づくカウンセリング(精神分析)のポイント]

E.H.エリクソンのライフサイクル論とアイデンティティ論に基づくカウンセリング(精神分析)のポイント

エリク・エリクソンは人間の適応過程に『発達的な時間軸・人間関係(親子関係含む)』を持ち込んだが、乳幼児期の母子関係における基本的信頼感から始まり、児童期の学校の友達関係・先生との関係の適応を経由して、思春期・青年期の社会的活動や職業選択、異性関係を通したアイデンティティ確立へつながる『生涯発達論のライフサイクル論・自己実現のアイデンティティ論』を提唱した。

ハインツ・ハルトマンの自我心理学と『自我(エゴ)の適応』

発達心理学の基本的かつ典型的な発達理論として知られているE.H.エリクソンの『社会的精神発達論』の最大の特徴は、個人の内的な葛藤や表象との関係、自我の成長(性的側面の成熟)だけを対象にしたS.フロイトの『リビドー発達論』などと比べて、『社会環境や人間関係への適応+社会的役割を担う自己アイデンティティの確立』が重視されているということである。

エリク・エリクソン(E.H.Erikson, 1902-1994)は、ライフサイクル論の生涯発達図式において特定の発達年齢で達成しておくべき課題を発見・定義しているが、この各年齢段階における心理的・社会的・対人的な課題のことを『発達課題(developmental tasks)』と呼んでいる。エリク・エリクソンの『発達段階と発達課題(発達課題の達成・未達成=課題達成で獲得する資質や能力)』は以下のように定義されている。

乳児期(0歳〜1歳半)……基本的信頼感・基本的不信感→この世界を基本的に良いものとして捉える希望(自己受容感)

幼児期前期(1歳半〜3,4歳頃)……自律性と恥・疑惑→自分で自分のことをしようとする意思の力(自律的な行動)

幼児期後期(4歳〜6歳頃)……積極性と罪悪感→何か目標を決めて物事を積極的にやろうとする目的志向性(目的的な簡単な行動)

児童期・学齢期(6歳〜15歳頃)……勤勉性と劣等感→自分は真面目に頑張ればできるという自己効力感(何かをやれるという自信)

青年期前期・思春期(15歳〜22歳頃)……自己アイデンティティ(自我同一性)の確立と自己アイデンティティの拡散→帰属集団への忠誠や社会への帰属感による社会的な自己確認(社会的アイデンティティの模索と確立)

青年期後期(20代半ば〜30代前半)……親密性と孤立→幸福感・安心感につながる異性との結びつきや愛の実感(恋愛・結婚・出産などを通した他者との固有の関係性)

中年期・壮年期(30〜50代)……生殖性と自己停滞→新たに産まれてくる後続世代の養育をしたり面倒を見たりする先達者としての役割・責任感(自分の世代から若い次世代への橋渡し・教育)

老年期(60・70代以降〜)……人生・自我の統合性と絶望→自分の人生全体や人間関係を振り返ってみての叡智の獲得ややり終えたという満足感(人生・人間・社会にまつわる知性や感受性の決算と人生の晩年の受容)

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 17:14 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月01日

[エピクテトス(Epiktetos):3]

エピクテトス(Epiktetos):3

ストア派では人間の意志を自然・世界と一致させる言動が『徳(アレテー)』であるとされるが、この『徳』や前述した『理性』があるかないかによって、人間が幸福(理性的・道徳的な存在)になるか不幸(欲望的・反道徳的な存在)になるかが決まってしまうのである。

ストア派では、正しい普遍的理性こそが、人間と世界(自然)とを誤謬なく統合する基礎になるので、人間の人生の目的とはその理性(自然)に従って生きることであり、理性によって破壊的な情動を抑制して『アパテイア(心の平静)』に到達することである。ストア哲学はプラトン哲学の影響を受けて、『知恵(ソフィア)・勇気(アンドレイア)・正義(ディカイオシネ)・節制(ソフロシネ)』という4つの枢要な徳を上げている。

エピクテトスらのストア主義者は、敵と勇猛に戦うことを徳とするが、一般的な殺人(他殺)については明確に否定する。自殺についても社会的責務の放棄として否定するが、悪政や弾圧によって高潔な徳(理性)に従った生活を送ることが不可能な場合、病気や怪我によって耐え難いほどの苦痛・絶望がある場合には、自殺は道徳的に正当化できると考えており、この大義ある自殺の正当化は後世のキリスト教の道徳(自殺禁忌・罪悪視)とは異なっている。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 05:16 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[エピクテトス(Epiktetos):2]

エピクテトス(Epiktetos):2

ストア派の歴史区分は以下の3つに分類することができるが、前期・中期のストア派の哲学者らが書いたとされる著作は断片・引用以外には現存しておらず、後期ストア派の著作・思想からの推測に頼る部分が大きくなっている。

前期ストア派……ゼノンによる学派創設からアンティパトロスまでの時期。

中期ストア派……パナイティオスやポセイドニオスなどが活躍した時期。

後期ストア派……ムソニウス・ルフス、キケロ、小セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウスなどが活躍した時期で、一般的にストア派の哲学者というとこの時期の哲学者を指すことが多い。

エピクテトスのストア主義は『非二元論の自然観』『自然主義的な倫理観』に裏打ちされたものであり、自然と一致した意志にこそ人間が到達すべき『徳』が宿っていると考えていた。

ストア主義者は感情や衝動によって心が揺り動かされている状態を不幸だと感じるため、幸福で平静な状態に至るには、明朗であり先入観(ドクサ)のない思考を用いて普遍的理性(ロゴス)を理解することが必要だとした。その意味では、エピクテトスは禁欲主義者であると同時に理性主義者でもあり、自然から生み出された人間は貴族も奴隷もみんな平等であるとする理性的な平等主義を唱えたりもしていた。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 05:14 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[エピクテトス(Epiktetos):1]

エピクテトス(Epiktetos):1

古代ギリシアのエピクテトス(Epiktetos,55-135)は、古代ローマ帝国の時代に生きた『ストア派』の哲学者である。ストア派は“ストイック(禁欲的)の語源”となっていて、エピクロス派の“快楽主義”と対置されることもあるが、ストア派の禁欲主義は『感情的・破壊的な衝動(心の大きな乱れ)』を抑制するということに主眼が置かれていた。

ストア派はキティオンのゼノンによって紀元前3世紀に創始されたが、ストアという名前はゼノンが演説・講義をしていたというアテナイの『彩色柱廊(ストア・ポイキレ)』にちなんだものだという。ヘレニズム時代から始まる古代ギリシア・ローマ時代の『四大学派』は、アカデメイア学派(プラトン学派)、逍遥学派(アリストテレス学派)、エピクロス派、ストア派であり、ストア派はローマ帝国皇帝のマルクス・アウレリウスも信奉していた『精神の静寂(衝動・不幸に惑わない境地)・道徳的な完成』を目指す学問である。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 05:12 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月13日

[アルバート・エリス(Albert Ellis):4]

アルバート・エリス(Albert Ellis):4

論理情動行動療法(論理療法)を学ぶために適した邦訳書としては以下のようなものがあるが、A.エリスは生涯において600〜700にも上る学術論文を書いており、著作数も50冊を超えるという多作の臨床心理学者だった。

1. アルバート・エリス(著),国分康孝 (訳), 国分久子 (訳), 石隈利紀 (訳), 『どんなことがあっても自分をみじめにしないためには―論理療法のすすめ』,川島書店

2.アルバート・エリス(著),斎藤勇(訳)『性格は変えられない、それでも人生は変えられる―エリス博士のセルフ・セラピー』,ダイヤモンド社

3.アルバート・エリス(著),本明寛・野口京子(訳),『ブリーフ・セラピー 理性感情行動療法のアプローチ』, 金子書房

4.アルバート・エリス(著),野口京子(訳)『理性感情行動療法』,金子書房

1982年にアメリカ心理学会(APA)が実施した『20世紀に最も大きな影響を与えた心理療法家』で“カウンセリングの神様”であるカール・ロジャーズに続いて、アルバート・エリスは2位に選出されている。エリスは非常に膨大な論文を書き残したため、1957年以降の数十年にわたって臨床心理学・カウンセリング心理学の分野で、論文に引用される頻度が最も大きかったとされる。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 08:09 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[アルバート・エリス(Albert Ellis):3]

アルバート・エリス(Albert Ellis):3

A.エリスが“Irrational Belief(非合理的な信念)”と呼んでいるのは、『現実に即していない・考えても利益がなく不利益が多い・不可能な理想に対して固執している・自分や未来、他人を過度に否定している・物事を義務や束縛を中心にして考える』といった傾向性を持つ自分の気分や感情を悪化させる非生産的(非現実的)かつネガティブな信念のことである。

A.エリスが語る『イラショナル・ビリーフ(非合理的な信念)』には、以下のような特徴があるとされる。

1.中立的な現実(事実)に基づいておらず偏っている。

2.論理的な必然性がなく結論が飛躍している。

3.その信念は惨めな気持ちを引き起こし、憂鬱(絶望的)な気分にさせる。

4.自己否定的で悲観的な結論を引き寄せるものである。

イラショナル・ビリーフとは、想像・妄想に基づく『願望(〜ねばならない,〜であるべきだ)』『事実(〜である,〜はできる)』を混同してしまうことで、理想的な願望を満たせない現実や自己を過小評価して未来を悲観してしまう信念のことなのである。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 08:07 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[アルバート・エリス(Albert Ellis):2]

アルバート・エリス(Albert Ellis):2

論理療法の基本前提である『ABC理論(ABCDE理論)』では、就職(進路)がなかなか決まらないという“客観的な出来事”があるから、“抑うつ感・絶望感の心理状態”が生まれるとは考えない。就職(進路)がなかなか決まらないという“客観的な出来事”を、悲観的に解釈して自分の価値や可能性を低く評価するから“抑うつ感・絶望感の心理状態”に陥ってしまうのであって、そのネガティブな心理状態を改善するためには『客観的な出来事の受け止め方(解釈)』のほうを、まずは肯定的・適応的に変化させていく必要があるのである。

『就職・進路が決まらないという客観的現実』に対して、『自分には能力や魅力がないからダメなのだ,これから先も良い就職にはありつけない,努力や工夫をしても結果がついてくるはずがない』という風に悲観的に受け止めれば、気分は落ち込み憂鬱感に陥ってしまう。逆に、『今まではダメだったが二次選考まで残った所も多かった,これから頑張り続ければ自分に合った企業が見つかるはず,不採用になった要因を分析してできるところから改善していく』という風に自己肯定的あるいは生産的な受け止め方をすれば、気分が上向きやすくなり意欲も高まりやすくなるのである。

アルバート・エリスの『論理療法(RT)』は、後年になると論理的な信念と感情・行動の相関関係をより重要視するようになり、『論理情動行動療法(REBT)』として再編されることになった。A.エリスの論理情動行動療法(REBT)とは、“Rational Emotive Behavioral Therapy”の略称である。アルバート・エリスの『ABCモデル(ABCDEモデル)』は以下のようなものであるが、アーロン・ベックがうつ病の心理療法に当てはめた『認知理論(抑うつスキーマ)』と類似した構成を取っている。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 08:05 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[アルバート・エリス(Albert Ellis):1]

アルバート・エリス(Albert Ellis):1

アメリカの臨床心理学者・心理療法家であるアルバート・エリス(Albert Ellis, 1913-2007)は、認知療法(cognitive therapy)の認知理論を先取りするかのような論理療法を創始した人物である。A.エリスは『アドラー心理学』からも大きな影響を受けており、25年以上も北米のアドラー心理学会に会員として参加していた。

論理療法(Rational Therapy:RT)とは、『論理的(合理的)な信念』によって『非論理的(非合理的)な信念』を反駁する精神療法であり、『物事・状況を解釈する信念』を合理的かつ改善的に変容させることで苦痛な精神症状が改善していく。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 08:02 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):5]

ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):5

エリクソンは上述した『ダブルテイク(トリプルテイク)の言語の多義性・複層性』『説明的言語の持つ間接的な命令・指示の効果』『人間観察に基づく呼吸・抑揚・体型が意味するものの理解』を実践的に催眠の臨床場面に取り入れていったことでも知られる。M.エリクソンの催眠的コミュニケーションにまつわる驚くべき事例研究やクライアントの反応には多くのエピソードが残されており、そういった一般のセラピストでは再現困難な事例によってエリクソンは『催眠の魔術師』と呼ばれるようになったのである。

日本の有名な催眠療法家といえば九州大学教育学部教授を勤めていた成瀬悟策(なるせごさく,1924-)がいるが、成瀬は『催眠では他人を操作できない、本人が望むことを手助けするだけ』と催眠の本質を語っている。この発言からも示唆されるように、催眠(催眠療法)はクライアントの無意識的願望の言語化・行動化といった精神分析の機序とも無関係ではないのである。

『無意識の作用』を効果的に利用しながら、一般的な普通の会話と催眠誘導の境界を曖昧にしたのがミルトン・エリクソンの達人的な催眠療法の特徴である。クライアントと何気ない普通の会話をしながら、そのプロセスを通して自由に催眠的な誘導と会話を行き来することができたと言われるが、このエリクソンの催眠療法の技法・理論の継承者を『エリクソニアン』と呼ぶことがある。エリクソンの催眠は、カタレプシー(筋肉硬直)の言語的暗示などを用いる古典的催眠とは異なる仕組みを持つものであり、『エリクソン催眠(現代催眠)』として区別されている。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 01:16 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):4]

ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):4

M.エリクソンは、クライアント(他者)の首筋の動きだけを見ることでその人の脈拍数を数える事ができたり、骨格・鼻の高さの変化を見るだけで女性が妊娠しているか否かを的確に言い当てられるという経験に裏付けられた特殊技能とも言える『驚異的な人間観察力』も持っていた。先天的障害である『失音楽症』についても、エリクソンは音楽的な旋律(メロディ)を無視して純粋に音を聞くことができたので、『クライアントの呼吸・音声の抑揚』にだけ意識的な注意を強く向ける事ができるようになった。

先天性の身体障害やポリオの後遺症といったハンディキャップを、ミルトン・エリクソンは逆に『驚異的かつ超人的な人間観察力』に転換させることに成功したのであり、こういった並外れた他者の観察力と心理・動機の理解力によってエリクソンの『催眠』は独創的な名人芸(彼一代限りの秘技)と呼ばれる域にまで高められたのである。

M.エリクソンは独学で習得した催眠(催眠療法)を、大学時代に延べ2000人以上に実験的に試行することでその有効性を高めたが、エリクソンの開発した催眠は『コミュニケーションの一種』であり、特別な『催眠誘導(意識水準の低下)の手順』を踏んだ技法とは異なるオリジナルなものである。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 01:14 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):3]

ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):3

G.ベイトソンのダブルバインド理論は一つのメッセージが矛盾する二つの意味を持つことで、相手を選択不可能な緊張状態(どちらも選ぶことができないという苦しみ)に追い込み、その苦痛な緊張と拘束が長く続くことで精神病理(統合失調症)が形成されやすくなるという仮説であった。

現在の科学的精神医学では、幼少期の子どもを選択困難にするダブルバインド状態(二重拘束状況)が長く続くだけで、統合失調症が発症しやすくなるという仮説は否定されている。ダブルバインドは精神疾患を直接に引き起こすものではないが、精神的苦痛や自己評価の低下(自尊心の否定)などの副作用を伴う“好ましくない体験”には成り得る。

しかし、親が建前と本音が食い違ったメッセージを与える(それをしてもいいよと口では言いつつ、実際にやると激しく怒ったり叩いたりするという矛盾した姿勢)という問題は、現在では親が子どもの自尊心を不当に傷つけて支配する『精神的虐待』として注目されやすくなっている。ダブルバインド状態とは、『ベタ(直接)のメッセージ』『メタ(上位)のメッセージ』が食い違っている状態を意味している。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 01:11 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):2]

ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):2

M.エリクソンはアメリカ精神療法協会やアメリカ心理学会、アメリカ精神病理学会などに所属したが、催眠療法の臨床的な実践・教育を目的とする『アメリカ臨床催眠学会』を自分で創設してその初代会長に就任している。20世紀前半の大学での精神医学講義は体系化されておらず未完成であったため、M.エリクソンは精神医学や催眠(催眠療法)の多くを独学と試行錯誤の中で学び取ったとされ、その理論と技法は“アカデミック(学術的)”なものではなく“プラクティカル(実用的)”なものであった。

催眠療法の臨床的な有効性や実践的なアプローチを向上させるために、M.エリクソンは世界中を駆け回るワークショップを何度も開催する『心理療法教育の世界行脚』を行ったが、持病のポリオの再発によって遂に日本に来日することは叶わなかった。日本人で催眠療法を中心とするエリクソンの心理療法の教えを受けたのは、高石昇や柴田出などに限られ、直接的にM.エリクソンと会話したり指導を受けたりした日本人は極めて少ない。その影響もあって、日本の心理臨床学会や精神医学会では、ミルトン・エリクソン直伝の職人技(アート)的な催眠療法は殆ど広まることが無かった。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 01:09 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):1]

ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson):1

アメリカの精神科医ミルトン・エリクソン(Milton H. Erickson,1901-1980)は、社会的精神発達理論(ライフサイクル論)で有名なエリク・エリクソンとは異なるエリクソンである。ミルトン・エリクソンはクライエントの問題行動を言語的な暗示で短期間で解決してしまう催眠療法の『天才肌の権威』として知られ、数々の超人的な暗示や心理解釈のエピソードを持っている。

現在のNLP(神経言語プログラミング)や短期療法(ブリーフセラピー)の基礎となる理論・技法のアイデアを考案した人物でもある。問題や心理を分析する精神分析とは異なる『解決志向(解決構築)のブリーフセラピー』の実質的な始祖としての役割も果たしたが、M.エリクソンの独創的な精神療法は『オーダーメイドの可変性・斬新さ』を特徴としていた。クライアントの問題や心理状態に合わせて、オーターメイドの解釈や指示、気づきを与えるという可変性に富んでいたため、M.エリクソンの精神療法はマニュアル的な体系化が難しいという問題もあった。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 01:07 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月28日

[エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson):2]

エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson):2

カールスルーエにあるギムナジウムのビスマルク校を卒業してから、画家を目指して芸術学院に進学したが卒業はせずに、その後、世界各地を転々と気ままに移動するヒッピーのような放浪生活へと入っていった。エリク・エリクソンは世界的にその名前と発達理論を知られるアンナ・フロイトの弟子筋に当たる精神分析家であるが、精神科医の医師免許や心理学の学位を取得するような正規の大学教育課程とは無縁のキャリア(自分探しのような放浪生活の果ての精神分析との出会い)を歩んだという特異な人物でもある。

エリク・エリクソンは既存の大学機関で精神医学・心理学・カウンセリングを学ばずに、ジークムント・フロイトが開設したウィーン精神分析研究所において国際資格となる精神分析家資格を取得した。エリク・エリクソンの『教育分析(スーパービジョン)』を担当したのは、S.フロイトの末娘であるアンナ・フロイトであり、この教育分析のセッションの中でエリクソンは複雑な生育家庭の事情やユダヤ人としての苦悩についても語ったとされる。ウィーンでは、1930年に結婚することになるカナダ人舞踏家のジョアン・セルソン(ジョーン・サーソン)との出会いもあった。

1933年にドイツでアドルフ・ヒトラーが率いる反ユダヤ人のナチスが政権を掌握すると、エリク・エリクソンはナチスの迫害を逃れてオーストリアのウィーンからデンマークのコペンハーゲンへと移住した。その後、当時ユダヤ人の保護に積極的だったアメリカへと渡っていった。1939年にはアメリカ国籍(市民権)を取得して、青少年の問題行動(非行・不登校・家庭内暴力など)を改善するための心理療法で大きな成果を上げ、成年期における自己アイデンティティ確立の道筋を示すことの大切さを実践的に示した。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 06:08 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson):1]

エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson):1

エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson,1902-1994)は、発達心理学分野における『心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)』でよく知られたアメリカの精神分析家である。心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)は、人間の生涯のプロセスを『発達段階(developmental period)』に分類して、正常な心身の発達と社会適応のために各発達段階で達成することが望まれる『発達課題(developmental task)』を示したものである。

心理社会的発達理論の『発達段階』『発達課題の成功‐失敗』『獲得すべき心理特性』の組み合わせは以下のようになっている。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 06:06 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[C.F.エルトン(C.F.Elton)]

C.F.エルトン(C.F.Elton)

C.F.エルトン(C.F.Elton,1920-)は、コロンビア大学を卒業してカウンセリング心理学を研究した心理学者である。C.F.エルトンは、特定の学派の理論だけに依拠しない『折衷主義のカウンセリング』を理論化して実践したF.P.ロビンソン(F.P.Robinson)の技法について研究した。

C.F.エルトンによるF.P.ロビンソンの折衷主義のカウンセリングの研究は、カール・ロジャーズのテープ分析(録音分析)と同じく、実際のカウンセリングのセッション(心理面接)を録音してからその内容をつぶさに分析していくというものだった。エルトンはテープ分析(録音分析)の手法を用いたカウンセリング研究によって、カウンセラーとクライアントの責任分担の割合を評価しており、カウンセラーの技術と会話のリードの実際の効果などについても調べている。

続きを読む
posted by ESDV Words Labo at 06:05 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする