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2007年06月27日

[家系研究法(family tree study, pedigree method)とフランシス・ゴールトンの優生学]

家系研究法(family tree study, pedigree method)とフランシス・ゴールトンの優生学

遺伝的な優劣を選別する「優生学(eugenics)」を着想したことで知られるフランシス・ゴールトン(1822-1911)は、生物学的な適応能力や知的能力、性格特性の大部分は遺伝子(遺伝要因)によって規定されると考えていた。イギリスの遺伝学者・統計学者であるフランシス・ゴールトンは、人間の知能・適性・性格といった特性がどのような要因によって規定されるのかを研究するために、家系樹(血縁・家系図)を用いた家系研究法(family tree study, pedigree method)を発明したとされる。

遺伝子決定論者であるゴールトンは祖先や両親からの遺伝素因によって『個人の能力・性格・適性』が決定されると考えており、歴史上の天才や偉人の家系樹(家系図)を調査して縦断的研究をすることで「優秀な家系には優秀な人材(天才)が生まれやすい」という一般法則性を定立しようとした。家系研究法では家系樹を描いて父系親族(父方の男系の祖先)を遡っていく方法が一般的であるが、母系親族を遡って『先祖の経歴・属性・業績』を調査することもある。しかし、家系研究法は、「一族の経済力・社会的地位・教育環境・人脈の質」など環境要因を無視して遺伝的な血縁関係のみに着目する「偏った研究法」なので、現在では反証可能性のある科学的研究法であるとは言えない。

個人の才能や資質の要因を「遺伝要因」と「環境要因」に区別する研究法は現在のところ確立しておらず、その人の発現している「知的能力・社会的スキル・性格傾向・経済的成功」などが遺伝要因によるのか環境要因によるのかを断定することはできないのである。ゴールトンの家系研究法は歴史的な天才や偉人の優秀な家系研究だけでなく、犯罪者や異常者、娼婦、成績劣等者(知的障害)などの家系研究にも応用された。

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2007年02月16日

[カウンセリング・マインド(counseling mind)とゼロ・トレランス(寛容度ゼロ)の教育態度:2]

カウンセリング・マインド(counseling mind)とゼロ・トレランス(寛容度ゼロ)の教育態度:2

前回の記事の続きで、『カウンセリングマインドに基づく生徒指導』『ゼロトレランスに基づく生徒指導』のそれぞれの特徴と異同、用い方を見ていきたいと思う。ゼロトレランス(zero tolerance)を肯定する識者の意見では、生徒を受容的に理解しようとするカウンセリングマインドのような情緒主義は、厳しい指導(叱責・処分)を受けない生徒をつけあがらせることになり学校教育の規範秩序が乱れると言われる。

ゼロトレランスを肯定する立場からすれば、生徒の事情や気持ちをカウンセリングマインドで受容したり、問題に対する処分(罰則)を曖昧化することは、生徒の問題行動を増長させることはあれ問題行動の解決にはつながらないということになる。ゼロトレランスは、『子供の内省的な良心(倫理観)』『子供の自発的な反省(やり直し)』を期待するカウンセリングマインドを綺麗事の理想論であるとして否定し、『飴と鞭による現実的な対処(オペラント条件づけ』を教育現場に持ち込もうとするものである。

ゼロトレランスの教育指導を支えている信念は、『悪いことをしても、大人(社会)は怖くないと思う子供』は平気で規則を破り非行に走るという信念であり、厳しい処罰や指導を与えることで『悪いことをすれば、大人(社会)は怖いと思う子供』に教育していかなければならないという信念である。保守的な政治思想に基づく教育制度とゼロトレランスは相性がよく、カウンセリングマインドを応用したガイダンス(生徒指導)のほうは、自由主義や平等主義のリベラルな政治思想と相性がよい。

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[カウンセリング・マインド(counseling mind)とゼロ・トレランス(寛容度ゼロ)の教育態度:1]

カウンセリング・マインド(counseling mind)とゼロ・トレランス(寛容度ゼロ)の教育態度:1

カウンセリング心理学の項目で、心理面接の実践活動を行う場合に必要不可欠なカウンセリング・マインドについて言及した。カウンセリング・マインドとは文字通り『カウンセリングを実施する際の心(心がけ)』であるが、プロフェッショナル・カウンセラーが持つべき専門的な心がけというよりも、円滑な風通しの良い人間関係を構築するマインド、相互的なコミュニケーションを実現する為の心がけと考えたほうが分かりやすい。

カウンセリング・マインドとは、簡単に言えば『相手の立場に立って、共感的に相手の気持ちや行動・価値観を理解しようとする心がけ』であり、専門的に定義された特別な学術用語ではない。カウンセリングを実施して生計を立てているプロのカウンセラー(心理臨床家)だけが持つ心というよりも、職務(役割)を遂行するに当たって、良好な対人関係や円滑なコミュニケーションが必要となる人たち全てに求められる心がカウンセリング・マインドである。カウンセリング・マインドは、多種多様なカウンセリング技法とカウンセリング理論の基盤にあるもので、コミュニケーションを取る相手に対して『安心感・信頼感・満足感・自尊心』を与える効果を持ち受容的で共感的な態度を特徴とする。

カウンセリング・マインドは、カウンセリングや心理療法を専門的に実施するプロカウンセラーよりも、教師・医師・看護師・保母(保父)・福祉士・家事調査官・ソーシャルワーカーなどのパラカウンセラーの間で獲得すべき態度になることが多い。特に、1990年代にはカウンセリングブームの余波を受けて、学校教育を担う教師たちの間に、問題行動を起こす生徒の心理や環境を受容的に理解しようとする「こころの教育ブーム」が起きた。非指示的・受容的・共感的な態度を持って生徒の生活指導に当たろうとした「こころの教育ブーム」では、教師にカウンセリング・マインドを持つことが推奨された。

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2007年02月15日

[カウンセリング心理学(counseling psychology)]

カウンセリング心理学(counseling psychology)

カウンセリングを実施するカウンセリング・サイコロジストカウンセリング心理学(counseling psychology)を履修しているが、カウンセリング心理学とは単一の専門科目ではなく、多種多様な理論と技法を習得するための複合的な学問分野である。

カウンセリング心理学とは、対人援助技術であるカウンセリングの実践技法と理論体系、研究法(リサーチ法)を修得する為の学問分野であるが、知識習得の学術的な事柄だけでなくカウンセリング特有の『ラポール(相互的な信頼関係)に基づく人間関係』を体験的に学ぶことも重視される。カウンセリング心理学とは、究極的には、『人間の行動・人格・感情』を生み出す複雑な心理メカニズムを理解することを目的とした研究実践分野である。

心理学は人間・動物の行動(認知・情動・思考)を予測できる一般法則を定立することを目的とするが、カウンセリング心理学は人間の対人関係や精神状態を規定する一般法則を応用して『問題行動・問題状況・性格の偏り・対人関係の葛藤・心理的な苦悩』を解決(緩和)することを目的としている。カウンセリングとは、クライエントを全人的に援助して効果的に変容させるための心理面接であり、クライエントの利益(目的・成長・改善)に貢献するための共感的(専門的)な人間関係である。

カウンセリング心理学は、『人間とは何か?』という壮大で深遠な哲学的な疑問に実用的に応える学問であり、『人格論(性格論)・技法論(治療論)・病理論(異常心理学)』の3大領域から成り立っている。臨床心理学の3大領域は、『心理アセスメント(心理テスト)・異常心理学(精神病理学)・心理療法(技法論)』である。カウンセリング心理学も臨床心理学も、最近ではエビデンス(科学的根拠)を重視するため、心理統計学に基づく統計リサーチの研究が多く行われている。

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[カウンセリングの歴史的源流とカウンセリング・サイコロジスト(counseling psychologist)]

カウンセリングの歴史的源流とカウンセリング・サイコロジスト(counseling psychologist)

カウンセリングとカウンセラーの項目では、クライエントの心身(認知・感情・行動・態度)を適応的な変容へと導く対人援助過程としてのカウンセリングを解説したが、カウンセリングの効果は『カタルシス効果・バディ効果・アウェアネス効果』の3つに集約することができる。カタルシス効果(catharsis effect)とは感情浄化の効果のことであり、内面に鬱積した「怒り・不満・悲哀・憎悪・苦悩」など負の感情を言語化(外部化)することによって、解放感や爽快感を得ることができる。

カタルシスの原義は古代ギリシア(ヒポクラテス時代)の医学用語にあるとされ、内面に蓄積した汚物(不純物・有害物質・病原物質)を体外に排出して身体を浄化するという意味である。カタルシス効果(感情の浄化作用)を目的として実施されるカウンセリング技法として各種の『支持療法』があるが、芸術療法や音楽療法、遊戯療法などの『作業療法』にもカタルシス効果が認められる。J.ブロイラーが治療に当たったアンナ・O嬢の症例に代表される初期の精神分析(煙突療法)でも、催眠療法を応用したカタルシス効果が重視されていた。

バディ効果(body effect)とは信頼できる仲間(バディ)と一緒にいることで得られる精神的安定の効果であり、支持的な心理面接(カウンセリング)では不安感の軽減や自己評価の向上、安心感の獲得として体験される。アウェアネス効果(awareness effect)とは、多面的に自分自身を振り返るカウンセリングの時間を通して、自分の気づかなかった側面や心情、感覚に気づくことができる『気づきの効果』のことである。精神分析療法では、感覚的な気づきを意味するアウェアネス(awareness)という用語ではなく、より内省的で思索的な精神活動を意味する洞察(insight)の用語が用いられることが多い。

今まで気づかなかった自分の性格・行動・感情・感覚にハッと思い当たる『気づきの効果』を得ることによって、クライエントは今まで用いることが出来なかった『問題対処行動』を取ったり、新たに『適応的な対人関係』を構築するためのコミュニケーションを工夫することができる。アウェアネス(気づき)やインサイト(洞察)といったカウンセリング効果は最もクリティカル(決定的)な効果であり、今まで自由に引き出して活用することが出来なかった『潜在的な内的資源』に直感的に気づくことで、現在の問題状況や対人関係を改善していこうとするものである。カウンセリングの気づきによって獲得した内的資源を状況や場面、相手に合わせて利用することが出来るようになれば、カール・ロジャーズの来談者中心療法の仮説概念である『実現傾向(成長・発展・健康・適応へと向かう本来的・自律的な傾向)』を加速度的に開発していくことにもつながる。

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2007年01月29日

[カウンセリング(counseling)とカウンセラー(counselor)]

カウンセリング(counseling)とカウンセラー(counselor)

カウンセリング(counseling)とは、言語的アプローチあるいは非言語的アプローチをクライエントに実施して、共感的なコミュニケーションを介在しながら、問題(悩み)を抱えているクライエントの行動・感情・認知を変容させようとする対人援助の過程である。カウンセリングは、言語的コミュニケーションや非言語的コミュニケーションを双方向で行いながら、カウンセラーとクライエントがラポール(相互的信頼関係)に基づく協働関係(作業同盟)を創り上げていく過程とも言える。

カウンセリングは、治療技術と言うよりも会話技術であり、専門的な構造面接というよりも『共感的な人間関係』である。カウンセリングの究極的な目的は、カウンセリングの神様と言われたカール・ロジャーズ(C.R.ロジャーズ, 1902-1987)が定義した『実現傾向(成長・発展・健康へと向かう本来的・自律的な傾向)』の開発にあると考えることができるが、個別のセッションでは、クライエントの抱えている悩みの軽減や問題状況の解決が目標とされるだろう。

カウンセリングとは全人的で問題解決的な人間関係であり、精神医学的な診断における『健常者』を対象にして行われる適応的な行動変容のためのアプローチ(セッション)である。日本では、心理療法(精神療法)と訳されるサイコセラピーとカウンセリングの区別が余り意識されないが、サイコセラピーは精神疾患を発病した『病者(患者)』を対象にし、カウンセリングは精神疾患の発症には至らない悩みや問題を抱えた『健常者(クライエント)』を対象にする。厳密には、サイコセラピー(心理療法)は、精神病理を抱えたクライエント(患者)の治療として行われる専門的な面接技法であり、認知行動療法(CBT)や行動療法、認知療法、精神分析療法など症状や病態、性格、知識に合わせた各種の技法がある。

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[潰瘍(ulcer)の病理・治療とヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療]

潰瘍(ulcer)の病理・治療とヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療

皮膚や粘膜の上部組織が部分的欠損を起こし、その欠損がある程度深い部分にまで及んでいる状態が『潰瘍(ulcer)』であり、一般的に細胞組織の破壊としての『壊死』を伴う。潰瘍のために壊死を起こした細胞組織は、崩れ落ちたり、溶解したりしているが、潰瘍にまで至らない強度の組織の炎症を『糜爛(びらん)』と言う。

進行すると潰瘍になる可能性が高い炎症を『潰瘍性炎(かいようせいえん)』といい、潰瘍が更に悪化して消化管などの組織の壁を貫通した状態を『穿孔性潰瘍(せんこうせいかいよう)』という。穿孔の具体的な診断名としては、『穿孔性胃潰瘍』『穿孔性十二指腸潰瘍(十二指腸穿孔)』があるが、穿孔(せんこう)が起こった場合には、腹膜炎(ふくまくえん)による細菌感染の恐れがあるので緊急外科手術を行い穿孔をふさぐ必要がある。胃潰瘍や十二指腸潰瘍は直接的に命に関わる疾患ではないが、穿孔にまでこじらせると致命的疾患になる可能性もあり、ありふれた潰瘍だからといって簡単に考えてよいものではないし、きちんとした医学的治療(制酸剤や除菌治療)を受けるべきである。

過剰なストレスによって発症する胃潰瘍や十二指腸潰瘍の段階では手術の必要はないが、消化管を突き破る穿孔に至ると手術しなければならない。そのため、ストレス性にせよ感染性(ヘリコバクター・ピロリ菌)にせよ、潰瘍は早期発見・早期治療が重要である。潰瘍が出来る原因には様々なものがあるが、代表的なものを挙げると、精神的ストレス(心因性)やレントゲン照射(放射性の皮膚潰瘍)、悪性新生物(がん性の潰瘍)などがある。

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ラベル:医学 心身症
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[カイン・コンプレックス(Cain complex)と旧約聖書の人間観]

カイン・コンプレックス(Cain complex)と旧約聖書の人間観

カイン・コンプレックス(Cain complex)とは、旧約聖書の創世記にあるカインアベルの逸話に題材をとった『同胞憎悪(兄弟嫌悪)のコンプレックス(感情複合体)』のことである。後に詳述するが、カインとアベルのエピソードとは、兄のカインが弟のアベルを殺害した物語であり、聖書の世界観では、人類最初の殺人とされている。コンプレックスとは通俗的に理解されているような『劣等感』という意味ではなく、精神分析や心理学では、複数の感情的要素が相互に絡まりあった情的複合体とされている。カイン・コンプレックスでは、『憎悪・嫉妬・敵対心・劣等感・優越感・侮蔑感・屈辱感・憧れ・殺意』などの感情的要素が複雑に絡まりあって、兄弟姉妹に対するコンプレックスを形成しているのである。

旧約聖書の創世記では、蛇にそそのかされたアダムとエバ(イブ)が、神の命令に逆らって楽園の中央に生る『禁断の木の実』を食べてしまう。禁断の木の実とは善悪を分別する認識力を人間に与える『知識の実』であったが、神との約束を破ってしまったアダムとエバは楽園を追放されることになる。

ユダヤ教・キリスト教の教義(世界観・人間観・死生観)を説く聖書は、実に象徴的な寓話に富む宗教書(聖典)であるが、『知識の実』を食べることによって人間が得たものは『自我(ego)』であり、自我を獲得した人間は生物学的性差を意識し、裸体で生活することに羞恥(恥じらい)を感じるようになってしまう。知識の実は、人間に自我意識を与え、善悪の分別を与えただけでなく、性的アイデンティティ(性同一性)に付随する『性的道徳観(性への罪悪感)』をもたらしたのである。カインとアベルのエピソードを紹介する前に、約束を破ったアダムとエバに神が与えた『懲罰(罰則)』について簡単に説明しておきたい。

神は、まず女性の始祖であるエバに『産みの苦しみ』を罰として与え、『男性原理に基づく劣位性』を与えた。キリスト教は、ユダヤ教を起源とする典型的な男性中心主義の宗教であり、男尊女卑の社会的価値観と深く結びついていた。男性を興奮させて誘惑する女性の性的表象(性のイメージ)は罪深いものとされ、性道徳を先鋭化させたイスラーム(イスラム教)では、女性は公衆の場で素肌を見せてはならないという厳しい戒律を科せられるようになった。今でもイスラーム原理主義の宗教指導者の影響力が強い地域では、敬虔なムスリム(イスラム教徒)の女性は髪の毛さえ露出してはならないとされ、頭から全身をすっぽりと覆うブルカという民族衣装をまとっている。イスラームの戒律はともかくとして、約束を破ったアダムとエバに怒った神は、旧約聖書で以下のように語る。

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ラベル:心理学 家族療法
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2007年01月27日

[開放病棟(open door system)と閉鎖病棟(close door system):フィリップ・ピネル(P.Pinel)]

開放病棟(open door system)と閉鎖病棟(close door system):フィリップ・ピネル(P.Pinel)

精神疾患(精神障害)を抱えた患者を入院治療する精神神経科の病棟には、開放病棟(open door system)閉鎖病棟(close door system)とがある。人権擁護とプライバシー保護に配慮された精神科医療の入院治療では、開放病棟で自由に病棟の外部と出入りできる開放処遇が原則である。しかし、自殺企図(自傷癖)があったり他人に暴力を振るったりする患者、自傷他害の危険性が高い患者の場合には、閉鎖病棟で治療が行われることもある。

1995年に改正された精神保健福祉法では、『第5章 医療及び保護』『任意入院・措置入院(強制入院)・精神病院における処遇』が規定されている。地方自治体の知事の公権力に基づく措置入院は、『精神障害のため、自分自身を傷つけ、他人に害を及ぼすおそれのある者については、精神保険指定医二人以上の診断結果にもとづき、都道府県知事の命令によって強制的に入院させることができる』と定められている。

18世紀以前の精神医学の入院治療の歴史を振り返ると、不衛生で娯楽の少ない劣悪な治療環境の中で、非人道的な取り扱いが為されることが少なくなかった。1952年に向精神薬(クロルプロマジン)が開発されて外来治療が当たり前となってからは、精神医療の人権意識や医療倫理は大きく改善することになる。しかし、それ以前の精神医学の歴史の大部分は、患者の非人道的な処遇がまかり通る『暗黒の歴史』であった。

18世紀のヨーロッパにおける精神病院といえば、薄暗い閉鎖病棟の中に鎖につながれて閉じ込められているイメージがあり、一度入院させられたら自力では退院(社会復帰)できないと考えられていた。こういった精神病に対する偏見・誤解や精神障害者に対する差別感情は、日本でも未だ根強く残っている。特に、薬物療法が普及していなかった1960年代以前の日本では、閉鎖病棟における拘禁療法を肯定する精神科医が少なくなかったし、日本の一般社会では精神疾患(精神障害)に対する迷信や誤解が広く普及していた。

閉鎖病棟の鎖から患者を開放して、人道的な処遇改善をするように主張した人物としてフランスの精神科医フィリップ・ピネル(Philippe Pinel 1745−1826)が知られている。ピセートル病院の院長となったP.ピネルは、開放病棟におけるデイケアや作業療法などを重視して、閉鎖病棟の劣悪で悲観的な環境は、患者の状態をより一層悪くするだけだと考えた。P.ピネルは、精神病を不治の病と見なすような『時代の間違った偏見』に真っ向から対峙した初めての精神医学者(臨床家・研究者)であった。『患者の行動の自由を尊重する開放処遇』と『人間的な交流に基づく精神疾患の治療』というピネルのコンセプトは、日本の精神医学の先駆者である呉秀三(1866−1932)にも継承された。

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ラベル:精神医学 歴史
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2007年01月22日

[外発的動機づけ(extrinsic motivation)と内発的動機づけ(internal motivation)]

外発的動機づけ(extrinsic motivation)と内発的動機づけ(internal motivation)

外部要因(extrinsic factor)によってある行動や態度が動機づけられることを、外発的動機づけ(extrinsic motivation)と呼び、内部要因(internal factor)によってある行動や態度が動機づけられることを内発的動機づけ(internal motivation)と呼ぶ。外発的動機づけと内発的動機づけの違いは、何によって『やる気・意欲・興味・動機』を引き出されるのかという要因の違いだが、人間のモチベーション(動機づけ)の原点は『内的な生理学的欲求・文化精神的欲求・要求水準・達成目標』を満たすことにあるといってよい。

人間の行動は何らかの欲求や要求を充足する為に起こってくるという意味では、外発的動機づけと内発的動機づけは性質を同じくする。しかし、その欲求(要求)の対象が『外部の報酬』にあれば外発的動機づけとなり、欲求(要求)の対象が『内部の価値観(興味関心)』にあれば内発的動機づけとなる。ワトソンやハル、スキナーに代表される行動主義心理学で考えると、外発的動機づけは、『報酬と罰(飴と鞭)』によって行動の生起を変容させる『オペラント条件付け(道具的条件付け)』の原理で説明することが可能である。

人間心理を行動の観察から理解しようとしたジョン・B・ワトソン(J.B.Watson, 1878-1958)は、I.P.パヴロフの発見した古典的条件付け(レスポンデント条件付け)の原理を応用したS−R理論を提唱した。つまり、刺激(Stimulus)に対する反応(Response)という形で人間の行動を理解するのがS−R理論の基本である。不安・恐怖・苦痛を感じる不快な刺激を与えると、回避行動という反応が条件づけされるが、安心・歓喜・満足を感じる快の刺激を与えると、接近行動という反応が条件づけされる。

報酬(正の強化子)によって動機づけが高まる『外発的動機づけ(extrinsic motivation)』は、B.F.スキナー(B.F.Skinner, 1904-1990)が実証したオペラント条件づけ(operant conditioned)の原理によって的確に説明することが出来る。

バラス・F・スキナーが実施したスキナー箱の実験では、ネズミを箱に入れて餌を取る為の仕掛け(レバー式の餌入れ)を施し、ネズミの自発的な『レバー押し行為』の生起頻度を観察した。ネズミは餌の取り方を試行錯誤して学習すると、(偶然ではなく)自発的にレバーを押して餌を取れるようになっていった。つまり、自分から能動的に行動して餌を取るというオペラントな行動を学習することに成功したのである。

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2007年01月21日

[開発的カウンセリング・発達的カウンセリング(developmental counseling)]

開発的カウンセリング・発達的カウンセリング(developmental counseling)

発達臨床心理学に関する知見と方策を取り入れて実施するD.H.ブラッカー(D.H.Blocher)のカウンセリングを、開発的カウンセリングあるいは発達的カウンセリング(developmental counseling)と呼ぶ。クライエントの適応的な精神発達を支援していく発達的カウンセリングは、児童心理臨床や学校カウンセリング、就職進路相談などの分野において需要が高まっており、心理臨床家は発達心理学と臨床心理学の理論的・技法的な統合に尽力することが求められている。

人間の精神(性格)の発達過程や発達課題を調査研究し、発達段階に応じた生活様式を工夫して各世代に応じた問題解決方法を考える心理学を発達心理学という。精神分析的な発達理論の代表的なものには、S.フロイトのリビドー発達理論(性的精神発達理論)やE.H.エリクソンの心理社会的発達理論(発達漸成図式)、M.S.マーラーの分離個体化理論(早期母子関係の発達論)がある。

精神分析学の創始者であるS.フロイトは、リビドー(性的欲動)を充足する身体の部位によって発達段階を定義して『口愛期(0〜1歳半)・肛門期(1歳半〜3歳)・男根期(4〜6歳)・潜伏期(6〜12歳)・性器期(12歳以上)』を考えた。しかし、フロイトは、部分性欲を克服して対象愛(性器性欲)の実現に成功した青年期以降の発達研究を行っていない。その為、生涯発達理論としての観点が欠けていて、社会的アイデンティティの確立についても十分な研究考察が為されていない。E.H.エリクソンは、『乳児期・幼児期・児童期・思春期・青年期(成人期)・壮年期・老年期』といった発達段階を定義して、リビドーの発達よりも他者との関係性から生まれる社会適応性の発達を重要視した。

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2007年01月16日

[外的照合枠・外的準拠枠(external frame of reference)][外的統制型のパーソナリティ(extrinsic control type)]

外的照合枠・外的思考の枠組み(external frame of reference)と心理療法の技法

外的照合枠・外的思考の枠組み(external frame of reference)とは、客観的な第三者としての立場で、“対象の外部”から事象・心理を理解しようとする認知の枠組みのことである。外的照合枠(外的準拠枠)とは、観察/分析の対象となっている人物の内面を推測したり共感したりせずに、自分の内的照合枠(内的準拠枠)を通して出来るだけ『客観的な観察/分析』をして真実を明らかにしようとする思考(認識)の枠組みである。

フロイトが創始した正統派の精神分析療法は、『分析者の中立性』『禁欲原則』を重視して、患者のイントラパーソナル(内面的)な自我構造を分析しようとするが、精神分析の分析家の認知スキーマは基本的に『外的思考の枠組み(外的照合枠)』に依拠している。外的照合枠に支えられた『分析者の中立性』に違背して、患者の転移感情への共感を強めたり抑圧された無意識的願望の充足を促進したりすると、自分自身が激しい逆転移に呑み込まれたり、患者の退行や行動化を強める恐れがある。

その為、精神分析を実施する分析家(カウンセラー)は、クライエントの成育歴や抑圧した幼児期の葛藤(エディプス・コンプレックス)を冷静に分析して客観的な解釈を行える『外的思考の枠組み』を利用するのである。精神分析でもクライエントの内面心理に全く共感しないわけではないが、その共感感情や同情的な支持を積極的に言語で表明することは少ない。『外的照合枠(外的準拠枠)』を使った対象(事物・現象)の理解・解釈とは、主体と客体を分節する科学的世界観を前提とする科学者の認知スキーマと同一のものであり、相手の気持ちや判断によって自分の観察結果が影響を受けることはない。

外的照合枠の対立概念である『内的照合枠(内的思考の枠組み, internal frame of reference)』とは、カール・ロジャーズの来談者中心療法(クライエント中心療法)に代表される一般的なカウンセリングに用いられる認知(思考)の枠組みである。内的照合枠というのは主観的な認知スキーマ(思考の枠組み)のことであり、支持的カウンセリングでは徹底的な傾聴をもとに『相手の内面心理』を推測・共感しながら状況を理解しようとする。そういったカウンセリングの心理面接では、『客観的な真実』よりも『主観的な了解』が重視されているのであり、クライエントは『自分の内的照合枠(主観的認知)』に従って問題状況を共感的に理解してくれていると感じることになる。

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[カウンセリングや学校教育におけるガイダンス(guidance)]

カウンセリングや学校教育におけるガイダンス(guidance)

日本の学校教育において用いられるガイダンス(guidance)とは、生活指導や生徒指導と訳される教育方法のことである。生活指導や生徒指導とは、生徒の好ましくない生活態度や反社会的な逸脱行動の反省・矯正・改善を目的とした教育的指導のことであり、通常の学校教育は、『生活指導(生徒指導)』『学習指導(教科指導)』の二本の柱から成り立っている。

生活指導(生徒指導)としてのガイダンスとは、『忘れ物をした生徒に注意をする・友達をいじめた生徒に反省文を書かせる・校則違反の髪型や服装を禁止する・先生への反抗的態度を改めさせる・乱暴な発言や行動を訂正する』といった生徒の日常生活や礼儀作法に対する躾(しつけ)的な教育が中心である。しかし、アメリカで生まれた本来のガイダンス(guidance)とは、非指示的で受容的なカウンセリング・マインドを含むものであり、生徒への共感的理解と肯定的受容を深めることで問題解決を図っていこうとするものである。

生徒を善導する教育的指導であるガイダンスは、以下の要素から成り立っている。

1.カウンセリング

2.心理検査

3.進路相談・就職相談

4.生徒を理解するための記録・資料の作成・保管

5.生徒の実態の統計的調査

6.必要な情報提供

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ラベル:学校教育
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2007年01月06日

[過剰適応症候群(over-adjustment syndrome)・会社人間症候群(syndrome of faithful employee)]

過剰適応症候群(over-adjustment syndrome)・会社人間症候群(syndrome of faithful employee)

過剰適応症候群(over-adjustment syndrome)とは、複数の人間の利害が絡み合う社会環境(職場環境)に過度に適応して、自分の自然な欲求や個人的な感情を強く抑圧することで発病する症候群のことである。過剰適応とは、周囲の環境や他人に対して自分の意見や行動を無理に合わせることであり、『周囲の気分を害する不満』を口に一切口に出さず、『会社や集団の不利益になるような個人的都合』を押し殺すことである。自分だけでなく家族の生活を維持する為に働いているサラリーマンや公務員は、必然的に過剰適応状態になりやすくなるので、周囲の上司や同僚とお互いの健康状態のチェックをしたり、不満を溜め込まないで済む風通しの良い人間関係を作ることが大切である。

会社内や官庁内に『何でも気楽に話し合える企業風土(官庁文化)』を醸成して、上司や同僚に『疲れている時は疲れているということができ、不満があれば率直に伝えられること』が理想的であるが、実際にはそういった忌憚なく話し合える上司・部下の関係や同僚関係を築くことは難しい。過剰適応症候群の具体的な症状としては、不定愁訴に悩まされる自律神経失調症のような身体各部の諸症状(身体各部の不快感・不調感・異常感・発熱・冷え)があるが、過剰適応の社会生活が長期間にわたって続くと、心臓疾患や胃潰瘍・十二指腸潰瘍、脳疾患、偏頭痛、心因性の喘息など器質的病変を伴う心身症(psycho-somatic disorder)に発展することもある。

従来、精神医学や臨床心理学では精神の健康性(正常性)の基準として、標準的な性格類型や平均的な価値観以外に『社会環境(現実状況)への適応性』を上げてきたが、「社会(他者)への適応」も程度問題であって、余りに自分を押し殺して行き過ぎた適応をしてしまうと心身の健康を害して種々の疾患を発病してしまう。過剰適応症候群になりやすい性格としては、社会的な責任感や使命感の強い人、他人との競争心が強く負けず嫌いな人、他人の評価や機嫌を気にする人、秩序志向性や他者配慮性の強い人などが上げられる。

基本的に、過剰適応症候群は『文明社会の病』であり、産業構造が複雑化されておらず貨幣経済が浸透していない未開社会では起こらない。職業上の義務や人間関係のしがらみによって『行動の自由・時間資源の配分・個人的な主張』が大きく制限される産業文明社会(管理社会)のサラリーマンや公務員によく見られる症候群であることから、会社や官庁に勤務している人の過剰適応を『会社人間症候群(over-adjustment of faithful employee)』と呼ぶこともある。

自分の喜びや快楽、要求を捨て去って集団活動に適応している過剰適応の状態では、非常に強い精神的ストレスが掛かり慢性的なフラストレーションに陥るが、このストレス状態が『個人のストレス耐性』を大きく上回った時に心身症や自律神経失調症、うつ病、燃え尽き症候群などの症状が発生してくる。会社の業績上昇と会社内での地位上昇(昇給)を最高価値として仕事に励み、企業内部での円滑な人間関係に配慮しながら働いている人の人生設計は『全てが会社中心』となる。会社で休む暇もなく身をすり減らして働き、会社の命令や指示に忠実な従業員としての態度を崩さない人は、『会社人間』を自己のアイデンティティとして精神的余裕のない人生を送る可能性が高くなる。

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[マイクロカウンセリングの心理面接における解釈(interpretation)と意味の反映技法]

マイクロカウンセリングの心理面接における解釈(interpretation)と意味の反映技法

アレン・E・アイビィ(A.E.Ivey)が開発したマイクロカウンセリングとは、クライエントがカウンセラーに訴える心理的問題の『種類・性質・深刻度』に合わせて、複数の技法や理論を柔軟に適用していく折衷型のカウンセリング理論である。アイビィは、自己の「理論の正統性」や「技法の有効性」に固執する派閥的なカウンセリングを否定し、クライエントの問題解決を促進する理論や技法であれば何でも積極的に活用すべきだという開放的な思想の持ち主であった。

マイクロカウンセリングの根底にある基本的な理念とは、『クライエントの問題を解決しようとする積極的な意図』であり、その意図(intention)に着目してマイクロカウンセリングを語る場合には『意図的カウンセリング』と呼ぶこともある。マイクロカウンセリングの魅力は、多種多様な症状や問題に対応できる「柔軟性のある応用範囲の広さ」であり、クライエント個々人の個性や考えに最大限の配慮をしようとする「多様性を前提とする人間理解の深さ」である。

色々な悩みや問題を抱えている幅広いクライエント層に対応できることから、アレン・アイビィのマイクロカウンセリングを標準的なカウンセリング技法と考える人もいる。確かに、マイクロカウンセリングの主要構成要素である『言い換え技法・明確化技法・意味の反映技法』などは、他の心理療法(カウンセリング理論)の面接構造でも一般的に用いられるものであり、クライエントへの共感的な態度を明らかにし、クライエントの発言の正確な理解を促進するものである。

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[精神分析の心理面接における『解釈(interpretation)』]

精神分析の心理面接における『解釈(interpretation)』

フロイトが構築した精神分析理論を基盤に置く心理療法(カウンセリング)では、分析家による『解釈(interpretation)』と解釈によって生まれるクライエントの『洞察(insight)』がもっとも重要な治療効果を果たすことになる。自我心理学を主体とする精神分析やメラニー・クラインを始祖とするクライン学派では、現在も言語的コミュニケーションによる『解釈(interpretation)』『洞察(insight)』を必要不可欠な技法として重視している。

一方、ハインツ・コフートが創設した自己心理学アレキサンダーが考案した修正感情体験では、解釈を中心とする言語的コミュニケーションよりも、相互的信頼関係(情緒的な親密感)に基づく非言語的コミュニケーションのほうが面接技法として重視されている。つまり、言語によって取り交わされる解釈の情報よりも、人間関係によって感じ取れる安心感のような肯定感情のほうがより治療的な有効性があると考えられているのである。

自我心理学やクライン学派は、言語的アプローチである「解釈」によって、クライエントに精神疾患の原因となっている無意識的願望(エディプス・コンプレックスや本能的欲求としての性的関心)を「洞察」させようとするが、自己心理学をはじめとする関係性を重視する学派では、「分析家とクライエントの共感的で良好な関係性」を出来るだけ多く体験させることで症状を改善させようとする。「幼少期の育て直し・共感的な親子関係の再現」の感覚を大切にする精神分析療法では、「分析家とクライエントの関係性の質」が治療的な影響力に深く関係していると考える。

精神分析の面接構造で重要な位置づけを持つ「解釈」とは、転移(transference)感情の存在や自我防衛機制の働き方、抑圧している過去の不快な記憶、無意識的な欲求や感情などについて分かりやすく説明し、クライエントの同意(納得)を得ながら「過去の苦痛な体験」と「現在の精神症状」の相関関係に対する「洞察」を深めていくものである。分析家の主観や価値観が反映されやすい「解釈」では、お互いの立場の対等性を意識して、クライエントのプライバシーの権利に配慮しながら、「共同作業としての解釈」をゆっくりと推し進めていくことになる。

言語的アプローチによってクライエントの過去の感情・記憶を「解釈」していく精神分析の作業には、権威主義的な押し付けがましさがあってはならないし、独断的な価値観に基づいていてもいけない。クライエントが本心から「なるほど、そういう理由(影響・経緯)があって、現在のこの問題(症状)が生まれているのか」と深く了解できるような解釈をしてこそ、改善的な治療効果につながるクライエントの「洞察」が生まれてくるのである。

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2006年12月28日

[家族療法の下位システム(subsystem)・上位集団と下位集団(subgroup)]

家族療法の下位システム(subsystem)

家族療法とは、複数の個人(要素)が集まっている家族システムを対象にして実施する心理療法である。ひきこもりや家庭内暴力、依存症(嗜癖)など問題行動を呈している一人の家族だけを病人(異常)と見なすのではなく、相互作用する家族構成員それぞれのコミュニケーションを改善することで、家族というシステムに『正のフィードバック』をかけていくのである。精神病理を持つ個人を治療するのではなく、個人が相互に影響を与え合う家族というシステムを改善しようとすることから、家族療法はシステムズ・アプローチ(systems approach)としての特徴を非常に強く持っている。

例えば、ドメスティック・バイオレンス(DV)のカウンセリングでは、不当な暴力を振るう男性の妄想的な嫉妬心や異常な執着心、ストレス耐性の低さ、自己中心的な価値観などに焦点が合わせられやすいが、システムズ・アプローチの家族療法を適用してドメスティック・バイオレンスに対処する場合には、『夫(父親)・妻(母親)・子どもの対人関係のパターン』を分析して有効な介入をすることが重要になってくる。要素(家族構成員)が相互作用してフィードバックを及ぼし合うことで、最終的な結果としての『暴力・和解・協調・尊敬』などの行動が生まれてくるので、家族成員それぞれのコミュニケーションや反応の仕方を調整することが『家族療法の改善効果』につながる。

コミュニケーションの作用やパターン化した家族間の人間関係が、『部分の総和ではない全体としての結果』を生み出す。このように家族を相互に影響を与え合うシステムと解釈する理論を『家族システム理論』というが、家族システム理論はオーストリアの理論生物学者ルートヴィッヒ・フォン・ベルタランフィの一般システム理論を下敷きにしている。

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[ユングのタイプ論(性格分析)における外向性(extroversion)と内向性(introversion)]

ユングの性格分析における外向性(extroversion)と内向性(introversion)

人類全体に共有される普遍的無意識(集合無意識)とその元型(archetype)を前提とする分析心理学を構想したカール・グスタフ・ユング(C.G.Jung, 1875-1961)は、『外向性(extroversion)』『内向性(introversion)』に大きく分類される性格心理学を考えた。ユング心理学(分析心理学)の『タイプ論(type theory)』とも言われる性格分析理論では、性格心理学でいうとクレッチマーの体型性格理論と並ぶ典型的な『類型論』に該当する。

人間の性格傾向を、典型的で明確な特徴を示すいくつかのパターンに分類しようとする類型論の起源は、古代ギリシアの医師ヒポクラテスや古代ローマの医師ガレノスにまで遡ることが出来る。体液気質理論を提唱したガレノスは、人間の体内を流れる体液の種類(血液・粘液・胆汁・黒胆汁)とその比率によって人間の基本的な性格パターン(多血質・粘液質・胆汁質・憂鬱質)が決定されると主張したのである。

ユングのタイプ論(性格分析)では、人間の性格を『外向性・内向性』という2つの心理的態度に分け、『思考・感情・感覚・直感』という4つの精神機能と組み合わせることで人間の性格を理解しようとする。その為、ユングの性格分析理論の類型は8種類あり、『外向(内向)‐思考型・外向(内向)‐感情型・外向(内向)‐感覚型・外向(内向)‐直感型』というように表記することになる。外向性と内向性の性格パターンは“二項対立的な相反関係”にあり、通常、一人の人間が外向性の行動パターンと内向性の行動パターンの両方を併せ持つことは出来ない。また、外向性の性格特性を持つ人と内向性の性格特性を持つ人は、相互理解を促進することが難しく誤解や対立が生まれやすくなる。

外向性と内向性の違いとは、リビドーが自我の外部に向かうのか(=外向)内部に向かうのか(=内向)という『リビドーの志向性』の違いである。もっと分かりやすく言えば、『自分の外部(他者)と内部(心理)のどちらにより多く興味・注意・関心を向けるか?』ということであり、『行動選択を決める物事の判断基準(価値観)を自分の外部に置くのか、内部に置くのか?』ということである。

周囲の人間の評価や社会的な名声が気になるのが外向型性格の特徴であり、外向型性格の人は『自己の外部にある対象(他人・金銭・地位・名誉)』などを追求する精力的な傾向が強い。社会的評価や他人の意見が余り気にならず、自分の内面にある価値観や感受性によって物事を判断するのが内向型性格の特徴であり、内向型性格の人は『自己の内面にある価値体系(信念・感性・思想・嗜好)』などを守ろうとする防衛的な傾向が強い。一般的に、外向型性格のほうが社交的で行動力があり集団活動への参加欲求も強いので、自分の内面世界を大切にして社会的活動への関心が薄い内向型性格よりも社会適応が良い。

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2006年12月22日

[統計学の回帰分析(regression analysis)とカイ二乗検定]

回帰分析(regression analysis)と回帰係数(regression coefficient)

変数Xが変数Yの関数である時には、Y=f(X)と関数表記することができ、Xは任意の『独立変数』、YはXの値によって変化する『従属変数』となる。この場合に、独立変数Xによって、従属変数Yの値を予測する分析を『回帰分析(regression analysis)』と呼ぶ。

ポピュラーな統計学的分析手法である回帰分析には、単回帰分析と重回帰分析の2つの種類がある。単回帰分析(single regression analysis)とは、ただ一つの独立変数Xによって従属変数Yを予測する分析のことである。重回帰分析(multiple regression analysis)とは、X1,X2,X3……というように複数の独立変数を用いて、従属変数Yを予測する分析のことである。

重回帰分析は誤差の少ない簡単な予測式を作れるので、アンケートの統計学的分析などで頻繁に用いられるが、回帰分析では因果関係については明確な科学的根拠を提示することが出来ない。最近の心理統計分野では、重回帰分析と分散分析を合わせて用いることが多くなっているが、より複雑な相関関係を統計学的に判断したい場合には、高度な分析手法である共分散構造分析が採用されることも増えている。

独立変数Xと従属変数Yの関係が、直線回帰(linear regression)である「Y=aX+b」で表現できるとき、勾配"a"のことを『回帰係数(regression coefficient)』と呼ぶことがある。この場合、回帰分析で導出されるYには一定の誤差が見られるが、YがXに直線回帰している場合には、回帰係数は+1か−1となる。

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ラベル:統計学
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[外因性精神病(exogenous psychosis)とうつ病の病因論的な分類]

外因性精神病(exogenous psychosis)とうつ病の病因論的な分類

各種の精神疾患は、遺伝要因・体質要因・気質素因・心理社会的ストレス・中枢神経系の損傷・対人関係のトラブル・過去のトラウマなど実に様々な原因が絡み合って発症する。精神病理学的に精神疾患の発症原因を考えると、主に『外因性精神疾患・内因性精神疾患・心因性精神疾患』に分類することが出来る。原因が明瞭でない内因性精神病(内因性精神疾患)の代表として、統合失調症・双極性障害(躁鬱病)・てんかんの三大内因性精神病が上げられる。こういった原因論的な精神の病気の分類法を採用した人物としては、うつ病の薬理学研究で業績を上げたイギリスの精神科医キールホルツがよく知られている。

キールホルツは気分障害(うつ病)を、その原因となった事象を元に次の3つのタイプに分類した。遺伝要因や体質など生得的な内部的原因によって発症するものを『内因性うつ病』、親密な家族や知人を失う喪失体験や忙しい職場環境でのストレスなど心理的原因によって発症するものを『心因性うつ病』、頭部外傷や脳梗塞、くも膜下出血など身体的原因(外部的原因)によって発症するものを『外因性うつ病』とした。

原因不明の内因性うつ病というのは、『遺伝・気質・体質・器質』など内部的な問題によって、抑うつや不安、無気力、希死念慮などのうつ病が発症するものである。内因性精神病について現段階ではっきりと言えるのは、身体内部の何らかの原因によって気分・感情・意欲などを司る脳機能の障害が起こるということだけである。心因性うつ病は心理的原因や情緒的ストレスの種類によって、更に『疲憊性うつ病・反応性うつ病・神経症性うつ病』へと分類される。

疲憊性うつ病とは、対人関係に伴う葛藤や職業上の悩みなど情緒的なストレスが長期間継続することで発症するうつ病で、長く続く不快で苦痛なストレス状況によって精神が完全に疲憊してしまうのである。疲憊性うつ病は、燃え尽き症候群の症状形成過程と近似している部分があるが、身体的な過労も加味する燃え尽き症候群と比較すると、疲憊性うつ病では精神的な疲労感のほうが重視される。反応性うつ病とは、近親者との死別や大規模な自然災害、犯罪の被害など強烈な精神的ダメージへの不可逆的な反応として発病するうつ病である。

神経症性うつ病というのは、古典的なフロイトの精神分析療法で見られた心理的原因によってふさぎ込むタイプのうつ病である。神経症性うつ病では、抑圧された無意識的欲求が『自罰的な怒り(攻撃性)』へと転換され、内面的に自分を攻撃することで精神的な活動性の停滞が起こると考えられたが、現在の科学的な精神医学では、神経症性うつ病の原因となる『内面的な怒り(自罰的な攻撃衝動)』の存在について懐疑的に見られている。

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posted by ESDV Words Labo at 14:25 | TrackBack(0) | か:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする