M.ツッカーマン(M.Zuckerman)の『刺激作用の最適水準(Optimal Level of Stimulation)』に関する心理テスト:W.ヘロンの感覚遮断実験とちょうどいいストレス
『感覚遮断実験』では、人間は外界からの刺激が全くない状態には耐えることができず、正常な精神状態や身体感覚、判断能力を維持することができないことが分かっている。W.ヘロンが1957年に行った『感覚遮断実験』がよく知られているが、人間は外界から適度な刺激を受けたり、外的な刺激に対応して自発的な行動・発言をすることによって正常な精神状態を維持している。
W.ヘロンの感覚遮断実験の被験者は、目隠しをされ耳栓をつけられ、手に大きな筒をはめられて物に触ることができない状態にされた。五感の感覚を遮断された被験者は、食事とトイレ以外は柔らかいベッドの上で寝ていなければならないという指示を受けた。初めはただ寝ていればいい楽な課題に思われたが、被験者は次第に落ち着かない精神状態に追いやられていき、五感で何かを見たり聞いたり触ったりしたいという欲求を非常に強く感じるようになっていった。
何もしない感覚遮断の状態が2〜3日も続くと思考に乱れが生じてまとまらなくなり、身体的に落ち着かない違和感や異常な感覚が起こってくる。外的な刺激を全く感じられない状態に退屈を越えた苦痛を感じるようになる。そして自分で自分に刺激を与える行為として、独り言を言ったり口笛を吹く頻度が多くなり、インターフォンを通した実験者とのコミュニケーションを強く求めるようになる。
それ以上の長期間にわたって感覚遮断を続けると、精神病(統合失調症)の陽性症状に近い『幻覚・妄想』が発現しやすくなって、正常な精神状態を維持できなくなるのである。W.ヘロンの感覚遮断実験から分かったことは、強い刺激は人間にとって不快なストレスになるが、逆に全く刺激やストレスがない状態にも人間は耐えられないということである。そして、人が健全な心身の機能・状態を維持するためには『適度な刺激・ストレス』と『適度な刺激に対する自発的な行動・反応』が必要になるということである。
短時間の感覚遮断には心身の疲労やストレスを癒してくれるリラクセーション効果があるので、人工的に感覚遮断状態を作り出せる治療装置(あるいは感覚心理学的な実験装置)として『アイソレーション・タンク』と呼ばれるものもある。
ストレスを生み出す外的な刺激のちょうどいいレベルのことを『刺激作用の最適水準(Optimal Level of Stimulation)』というが、この刺激作用の最適水準は非常に個人差が大きく、『スリリングなドキドキする強い刺激』をちょうど良くて楽しいと感じる人もいれば、緊張感や不安感で気分・体調が悪くなってしまうような人もいるわけである。
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posted by ESDV Words Labo at 14:59
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