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2015年02月15日

[北山修の『DPP三角』と小此木啓吾の『A-Tスプリット』:2]

北山修の『DPP三角』と小此木啓吾の『A-Tスプリット』:2

小此木啓吾の『A-Tスプリット』は、全体的な治療の見通しや薬物療法の経過、事務的・対外的な業務を担当する『管理医』、患者の精神病理のメカニズムや内面世界の感情・思考・記憶などに直接的にアプローチして治療する『治療実施者』の役割分担を前提としたモデルなのである。

小此木啓吾の『A-Tスプリット』と臨床心理士の役割:1

精神科医の北山修(きたやまおさむ)は、『医師(Doctor)・心理療法家(Psychotherapist)・患者(Patient)』の三者関係に基づく治療構造の概念を提起したが、これを『DPP三角』と呼んでいる。DPP三角は、小此木啓吾のA-Tスプリットのシンプルな役割分担モデルに、治療の当事者であるべき『患者(Patient)』を加えたものになっている。

DPP三角ではA-Tスプリット以上に、『医師(Doctor)』と『心理療法家(Psychotherapist)』の役割分担や責任権限が明確化されており、それぞれに期待される役割と責任は以下のような感じになっている。DPP三角は『医師(D)・心理療法家(P)・患者(P)』を三角形の頂点とする図形(正三角形)で描かれるが、それぞれの頂点である三者は『対等な影響力を持つ存在』として定義され、医師の旧来的な権威・権力は否定されている。

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2013年05月30日

[ウィリアム・キルパトリック(William Heard Kilpatrick)とジョン・デューイ]

ウィリアム・キルパトリック(William Heard Kilpatrick)とジョン・デューイ

アメリカの教育哲学者であるウィリアム・キルパトリック(William Heard Kilpatrick,1871-1965)は、アメリカを代表するプラグマティズム(実用主義)の哲学者・教育学者として名前を知られているジョン・デューイ(John Dewey, 1859-1952)の思想の影響を受けた人物である。

学問(教育活動)が実際に何の役に立つのかという実用性・社会性を重視したジョン・デューイは、『客観的な知識・実在』を厳密学として追究してきた観念的な哲学史(実際の生活や人生の役に立ちづらい哲学の歴史)を終わらせた人物として評価されることが多い。プラグマティズムに分類されるデューイだが、本人は『道具主義』という用語で自分の学問的立場を自称していた。

J.デューイは近代哲学の完成形態である『ヘーゲルの観念論』を、実際的な経験と人間的な反省の原理に転換していったが、そのJ.デューイの影響を受けたウィリアム・キルパトリックも『プラグマティズムの教育思想』を展開して、民主主義的・市民的な思考の道具として教育や学問を位置づけていった。J.デューイはウィリアム・ジェイムズの『心理学原理』から示唆を受けて、ヘーゲルの観念主義と近代的な実験科学を統合する『機能主義心理学(シカゴ学派心理学)』を構想した。W.キルパトリックも『意識的な経験』を重視するという意味で、機能主義心理学のような理論構成を採用している。

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2013年05月17日

[ジョイ・P・ギルフォード(Joy Paul Guilford)とY-G性格テスト]

ジョイ・P・ギルフォード(Joy Paul Guilford)とY-G性格テスト

アメリカの心理学者ジョイ・ギルフォード(Joy Paul Guilford,1897-1983)は、1927年にコーネル大学のF.B.ティチナー(F.B.Titchner)の下で心理学を学んで学位を取得した後、ネブラスカ大学や南カリフォルニア大学で教授職を勤めた。

大学の教授を退いた後には、“Santa Ana Army Air Base”の心理学研究所でディレクターとして貢献した。アメリカ心理学会会長や精神測定協会会長といった名誉職をも歴任していたアメリカ心理学会の重鎮であり、日本では『矢田部・ギルフォード性格検査(Y-Gテスト)』の開発者としてその名前を知られている。

ジョイ・ギルフォードが精力的に取り組んだ心理学研究の分野は、『知能・性格の因子分析的及び精神物理学的な測定法』であり、知能研究の分野では多因子仮説である『知能構造論(SIモデル)』を提唱した。J.P.ギルフォードは人間の知能が複数の因子から構成されているという『多因子仮説』を展開し、『知的操作・知的所産・知的内容』の三つの次元からなる理論モデルをベースにして約120個もの知能を構成する因子を抽出したのである。

知能構造論では、複数の事物に幅広く関心を持って知識を広めていく『拡散的思考』と物事を一点に集中して分析的に深く理解していく『収束的思考』とが区別されたりした。ギルフォード自身は、新しいアイデアや解決策を発想する考え方である『拡散的思考』のほうを創造的思考であるとして高く評価しており、『収束的思考』のほうは決められたありきたりの答えを求めるためのマニュアル的思考方法に過ぎないと考えていた。

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2013年05月07日

[エドガー・H・シャインのキャリアアンカー(career anchor):3]

エドガー・H・シャインのキャリアアンカー(career anchor):3

キャリア・アンカーの基盤は『学生時代の学校教育』『親・兄弟姉妹の仕事についての話(あるいは仕事をしている姿の観察)』によって形成されやすい。だが、実際のキャリア・アンカーの中核を形成するのは『自分自身の社会参加・職業体験』であることのほうが多く、『働きながらの試行錯誤・適応の成否と転職』などによってキャリア・アンカーとなる価値観・生き方が絞り込まれていくのである。

エドガー・H・シャインは、社会人の職業意識や価値観に関する大規模調査をベースにして、個人のキャリア選択・キャリア適性と相関するキャリア・アンカーは以下の8種類に分類できるとしている。キャリア・アンカーの心理アセスメントを実施することで、自分がやりたくて向いている『ポジティブ・アンカー』と自分がやりたくなくて不向きである『ネガティブ・アンカー』の特定をすることができる。

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[エドガー・H・シャインのキャリアアンカー(career anchor):2]

エドガー・H・シャインのキャリアアンカー(career anchor):2

マサチューセッツ工科大学(MIT)の経営大学院(スローン・スクール)で名誉教授を勤めたエドガー・H・シャインは、MITでの共同研究活動を『XY理論』で知られるダグラス・マクレガーと共に行っている。全米教育訓練研究所 (NTL:National Training Laboratory)では、従来的な『会社組織による教育・適応促進』の方法論ではなく、『個人の適切なキャリア選択,その前提となるキャリア・アンカーの理解』に重点を置いた教育訓練活動を展開した。

シャインの前期の研究活動は『組織文化・組織開発の重要性』に力点が置かれていたが、次第に組織・企業を中心とする画一的な教育や適応の限界を感じるようになり、『個人のキャリア選択・キャリアプランの前提となるキャリアアンカーの理解』に関心を持つようになった。

個人のキャリア選択(職業選択)には、組織文化と個人行動の相互作用(組織的学習・組織開発の要因)の影響がある。だがそれと同時に、『仕事・職業・会社の変化』があっても変化しづらい普遍的・持続的な価値基準としての“キャリア・アンカー”の影響は大きい。自分がどのような価値観や動機付けを持つ人間であるのかを把握するためにも、キャリア選択の規定要因となるキャリア・アンカーを理解する必要がある。

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[エドガー・H・シャインのキャリアアンカー(career anchor):1]

エドガー・H・シャインのキャリアアンカー(career anchor):1

アメリカのキャリア心理学者・組織心理学者であるエドガー・H・シャイン(Edgar Henry Schein,1928-)は、個人のキャリア開発(キャリア選択)や企業の組織開発(Organization Development)の分野で理論的な貢献をした。

エドガー・H・シャインは、個人が仕事をしていく上でそのやり甲斐(達成感)や意味の実感(有意義感)の拠り所となる“中心的な価値観(欲求・動機・能力)”のことを『キャリア・アンカー(career anchor)』と呼んだ。シャインは時代・環境・年齢の変化によって、どの仕事をしたいかの希望は変わっても、どのような働き方の価値観を重視するかのキャリア・アンカーは容易には変わらないとした。

『アンカー(anchor)』とは、船が波で流されないように定位置につなぎ止めておくための『錨(碇)』のことであり、自分が最も大切にしていてどうしても手放すことができない価値観(欲求・動機・能力)のことを、シャインは1978年に『キャリア・アンカー』として定義した。

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2013年04月21日

[エリ・ギンズバーグ(Eli Ginzberg)]

エリ・ギンズバーグ(Eli Ginzberg)

ギンズバーグというと、仏教思想・インディアン文化の影響を受けてビート運動(ヒッピーの原型的運動)を推進したアメリカの詩人アレン・ギンズバーグが有名であるが、アメリカの経営学者のエリ・ギンズバーグ(Eli Ginzberg,1911〜2002)はキャリアカウンセリングや職業指導(進路振動)の発達理論の大家として知られている。エリ・ギンズバーグは生涯発達心理学の前提に立って、個人の職業選択やキャリア構築を理論化していったが、ギンズバーグの研究領域はマンパワーの人材の能力開発・職業訓練を包摂するものだった。

コロンビア大学で教えていたE.ギンズバーグの『職業選択理論』は、個人の長期の発達過程と実際の職業選択の相関関係を明らかにしたものであり、1951年には青年期までの『個人の職業選択プロセス(職業選択過程)』を以下の3つの時期に区分している。また、E.ギンズバーグは職業選択の基本原則として次の3点を指摘しており、近代社会における学校制度+職業選択とその選択に基づくキャリアデザインの原型を提示した。

1.職業選択プロセスは、一般的に(幼少期・学生期を含めて)約10年以上の時間を要する長期的プロセスである。

2.職業選択プロセスは、不可逆的である。

3.職業選択プロセスは、『個人の欲求』と『現実の条件』との間の妥協(折り合い)を伴うプロセスである。

しかしその後に、幼少期から中年期・老年期にまで及ぶ『生涯発達心理学』の前提を重視するような態度に変わったため、『職業選択プロセスの可逆性(青年期以降の職業活動のやり直しの可能性)』『妥協ではない現実的環境への最適化(消極的な選択ではなく自分の能力・意欲・経験に基づいた適応戦略)』などの点で持論を修正している。

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2013年04月09日

[レイモンド・キャッテル(Raymond Bernard Cattell):3]

レイモンド・キャッテル(Raymond Bernard Cattell):3

R.B.キャッテルが『因子分析』によって抽出した特性の種類には以下のようなものがある。

共通特性(common trait) ……数量化することができる特性で、他者と多かれ少なかれ共通している人間の一般的な特性である。『量的特性』としての性質を持つ。

独自特性(unique trait)……数量化することができない個別的な固有の特性である。『質的特性』としての性質を持つ。

表面的特性(surface trait)……客観的に外から観察できる行動・発言・動作・表情などの分かりやすい表層の特性。意識的なプロセスから行動に変換される量的特性。

根源的特性(source trait)……表面的特性を根底において規定する遺伝要因・環境要因・価値判断などの内的で本質的な特性。外部から観察することができず、因子分析など特殊な技術によって抽出するしか確認の手段がない。無意識的なプロセスから表面的特性(観察可能な行動)へと変換される質的特性。

これらの4つの特性は相互作用し合っており、その相互作用の反応形態によって、全体的な人格構造・行動パターンが形成されている。

R.B.キャッテルは知能検査の分野でも、因子分析の方法論を用いており、人間の知能を蓄積的な『結晶性知能(crystallized intelligence)』と応用的な『流動性知能(fluid intelligence)』に分類している。

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[レイモンド・キャッテル(Raymond Bernard Cattell):2]

レイモンド・キャッテル(Raymond Bernard Cattell):2

『言語的人格世界』とは、人間の性格特徴を表現する心理的な意味づけを持つ語彙(形容詞などの単語)を辞書から出来るだけ多く取り出して、重複する類義語を排除した上で『性格の特性・特徴を表現する全てのことば』を抽出して作られた言語的世界のことである。

G.W.オルポートらは1936年の性格心理学の研究で言語的人格世界を作り上げようとしたが、その際に辞書から取り出した性格特性を記述する言語は『17953個』、そこから重複的な類義語を排除した言語数は『4505語』であった。

R.B.キャッテルは更に、この網羅的な性格記述の4505語を実際の性格検査の心理テストに使いやすい数にまで減らそうとし、この4505語に対して徹底した因子分析を行い、その数を“根源的特性(source trait)”とされる『16語(16の変数)』にまで絞り込んだのである。4505語の変数を使いこなして人間の人格構造の輪郭を見渡すことはおおよそ不可能であるが、16語くらいの変数であれば人間の人格構造の概観を統計分布や他者との比較によって把握しやすくなる。

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[レイモンド・キャッテル(Raymond Bernard Cattell):1]

レイモンド・キャッテル(Raymond Bernard Cattell):1

アメリカの心理学者であるレイモンド・キャッテル(Raymond Bernard Cattell,1905-1998)は、性格心理学(パーソナリティ心理学)と心理検査(心理テスト)の分野で活躍した人物として知られる。R.B.キャッテルは、アメリカの心理学者G.W.オルポート(Gordon Willard Allport,1897‐1967)『特性論(特性因子論)』に影響を受けており、特に客観的調査から取得したデータを因子分析することでパーソナリティ構造の構成要素を抽出しようとした。

G.W.オルポートは、人格(パーソナリティ)について『人格とは心理‐生理的体系として個人内部に形成された力動的体制で、その個人の環境に対する独自の適応を規定しているもの』という精神分析的・力動心理学的な定義を与えている。これに対して、R.B.キャッテルのほうは人格(パーソナリティ)について、『人格とは人がある状況や人間関係に置かれた時に、その人がどのように反応するかを予測可能にする持続的な構造である』という操作的・行動予測的(行動主義的)な定義を与えている。

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2007年03月23日

[記述統計学(descriptive statistics)と推測統計学(inferential statistics)]

記述統計学(descriptive statistics)と推測統計学(inferential statistics)

統計学とは対象とする母集団のデータを数量化したり、母集団からサンプル(標本)を抽出してその特徴や傾向、ばらつき(確率)を分析する科学的な学問分野であり、大きく分けると記述統計学と推測統計学とに分類することが出来る。統計学は、あらゆる科学分野において確率論的な根拠を提示する学問であり、経験的に得られたデータを数量化して集団全体の性質・特徴・傾向を明らかにしようとするものである。基礎心理学や応用心理学だけでなく、経済学、生物学、物理学、化学、社会科学、EBM(根拠ある医療)を推進する医学・疫学・薬学などにおいても統計学の知識と技術は欠かすことのできない基礎教養となっている。

記述統計学(descriptive statistics)とは、観察対象となる集団の性質(特徴)・傾向(ばらつき)を正確に記述することを目的とする統計学である。記述統計学では、サンプルの個別的なデータを数量化(数値化)して取り扱いながら集団の性質(特徴)を記述していくが、データを質的に捉えるのではなく量的に捉えるところに科学的学問としての特徴がある。大量のデータの観察と数量化によって集団の特徴をコツコツと記述するのが記述統計学であるが、統計学の歴史において最も初期に発達したのが記述統計学である。

記述統計学を大成したのは、優生学の提唱で著明なフランシス・ゴールトンの後継者であった数学者のカール・ピアソンである。自然選択と突然変異による進化論の唱導者であるチャールズ・ダーウィンの従兄弟であるフランシス・ゴールトンも、頭蓋計測学の流れを汲む生物計測学の研究を通して統計学の発展に寄与した。

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ラベル:統計学
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[器質性精神病(organic psychosis)と器質障害(organic disorder)]

器質性精神病(organic psychosis)と器質障害(organic disorder)

過去の記事で、うつ病の病因論的な分類と外因性精神病について解説したが、器質障害(organic disorder)とは、身体の器官に病理学的な変化(解剖学的な異常)がありそれが原因となって発症する疾患のことである。器質とは器官の性質のことであり、器質障害とは器官の機能に異常を来たす病理学的な変化によって起こる病気の総称である。

身体医学が対象とするがん(悪性新生物)や内分泌障害(ホルモン障害)、パーキンソン病など内分泌障害が関与する神経疾患は全て器質障害である。一般的に『身体の病気』として認識され分類されているものが、器質障害に当たると考えると分かりやすい。

身体疾患だけでなく精神疾患であっても、精神疾患の原因を脳の外因(脳の損傷や異常)に求めると器質障害としての特徴を持つことになるし、消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)や過敏性腸症候群、本態性高血圧のような精神的ストレスによる心身症も器質障害に分類することが可能である。

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ラベル:医学 精神医学
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2007年03月22日

[気質(temperament)とクレッチマーの気質類型論]

気質(temperament)とクレッチマーの気質類型論

パーソナリティ心理学(性格心理学)では、人間の性格の構成要素として『遺伝・体質・気質・性格・人格』を考えるが、気質(temperament)とは性格の基盤にある情動的性質(感情的な基本性向)であり、性格よりも遺伝要因(先天的要素)の影響を強く受けている。気質と体質・遺伝を不可分なものと考える場合もあるが、一般的に気質は、生得的・生化学的に規定される遺伝や体質よりも後天的(経験的)な要因の影響を強く受ける。

人間の性格(character)の基盤にある『気質(temperament)』を構成する代表的な因子としては、『気分(爽快‐抑うつ)・刺激感受性(敏感‐鈍感)・精神活動性(積極的・消極的)・攻撃性(攻撃的‐防衛的)・テンポ(速い・遅い)』などを想定することができる。『気質』と『精神病理』の類縁性に着目した臨床研究を進めたドイツの精神科医に、チュービンゲン学派エルンスト・クレッチマー(Ernst Kretschmer, 1888-1964)がいる。

エルンスト・クレッチマーは多数の臨床事例の観察を通して、体型・気質・病前性格(精神病理を発症しやすい性格)との間にある相関関係を発見し、体型性格理論(気質類型論)を提起した。クレッチマーの体型性格理論(気質類型論)は、ユングの『外向性・内向性』と『思考・感情・感覚・直感』を組み合わせたタイプ論と並んで有名な類型論である。

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2007年02月23日

[交流分析(Transactional Analysis)の「儀式(ritual)」と「ストローク(stroke)」]

交流分析(Transactional Analysis)の「儀式(ritual)」と「ストローク(stroke)」

アメリカの精神科医エリック・バーン(1910-1970)が創始した「精神分析の口語訳」とも言われる交流分析(Transactional Analysis)の理論・技法についてはこの用語集でも何度か説明してきた。エリック・バーンは、S.フロイトの弟子で社会的精神発達理論(ライフサイクル論)を考案したE.H.エリクソン教育分析(スーパービジョン)を受けたが、エリック・バーンの弟子には、交流分析理論に基づく性格テストのエゴグラム(egogram)を開発したジョン・デュセイ(J.M.Dusay)がいる。

交流分析のエゴグラムでは、『CP(批判的な親)・NP(擁護的な親)・A(大人)・FC(自由な子ども)・AC(適応的な子ども)』の5つの自我状態を仮定して、個人の性格と対人関係のパターンを分析するが、対人関係(コミュニケーション)を分析するやり取り分析(交流分析)では「ストローク(stroke)」が重視される。ストローク(stroke)の原義は、優しく撫でたりさすったりする「愛撫」であるが、交流分析でいうストロークとは相手の存在や価値を肯定したり否定したりする「感情的・情緒的な刺激」のことである。

ストロークには、『言語的なストローク』『非言語的なストローク』があり、ボキャブラリ(語彙)が少なく言語機能の発達が未熟な幼児期の段階では、スキンシップや見つめあい、微笑み、握手などの非言語的なストロークが人格の成長に与える影響が大きい。交流分析におけるコミュニケーション(やり取り)とは、相手の存在や価値を認めたり否定したりする『ストローク』のやり取りをすることであり、ストロークには相手の価値を肯定する『肯定的なストローク(プラスのストローク)』と相手の価値を否定する『否定的なストローク(マイナスのストローク)』がある。

B.F.スキナーのオペラント条件づけで考えると、肯定的なストロークはその行動の生起頻度を上げる『正の強化子』としての機能をもち、否定的なストロークはその行動の生起頻度を下げる『負の強化子』としての機能をもっている。

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2007年02月13日

[ルース・ベネディクトの『菊と刀――日本文化の型』]

ルース・ベネディクトの『菊と刀――日本文化の型』

外国人によって書き著された日本人論の代表作が、アメリカの文化人類学者ルース・ベネディクトが1946年に出版した『菊と刀――日本文化の型』である。彼女は一度も日本の土地を訪れることなく、参考文献と日系移民へのインタビューによって日本文化と日本民族の気質を深く洞察し『菊と刀』という貴重な日本文化論を書き上げた。『菊と刀』は元々アメリカ陸軍がルース・ベネディクトに委嘱したもので、西欧人とは異なる日本人固有の文化・気質を理解することで太平洋戦争後の円滑な占領統治に役立てるものであった。

ルース・ベネディクトは、アメリカ・ヨーロッパが帰属する西欧文化と日本文化を対比させて、西欧文化は自律的な『罪の文化』であるとし日本文化は他律的な『恥の文化』であると定義した。禁欲的で勤勉なイギリスのピューリタン(清教徒)が植民して建国したアメリカ合衆国では、キリスト教文明圏に特有の『人間は生まれながらに罪深い』という「罪の文化」が根付いていた。フロイトの自我構造論(心的構造論)でいう超自我(superego)が罪悪感の原因となるが、超自我は父親から受ける「去勢不安(反抗への罰則)」によって強固な心的構造へと成長していく。

母親への独占欲求と父親への敵対心が交錯するエディプスコンプレックスの経験によって、善悪を分別する超自我が形成されるが、この超自我は『悪いことをすれば、厳しく罰せられる』という内面的な規制(良心)によって機能するようになる。処罰する主体は、家庭の父親であり世界を支配する神である。一神教を敬虔に信仰している西欧人は、唯一絶対の神を信じているので、自分が悪いことをすれば神から処罰され見放されるというある種の「去勢不安」を抱えている。神の視線が、西欧文化圏の『罪の文化』の根底にはあり、誰も見ていないところで悪事を働いても、全知全能の神によって『罪に対する罰』が与えられると感じてしまうのである。

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ラベル:文化人類学 歴史
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2007年02月04日

[中国伝統医学と気功(Chinese breathing therapy)]

中国伝統医学と気功(Chinese breathing therapy)

現在では、健康法や民間療法(代替療法)として注目されている気功(Chinese breathing therapy)だが、その歴史は紀元前に遡るほどに長く、中医学と呼ばれる中国伝統医学でも重要な位置づけがなされている。紀元前の春秋戦国時代に編纂された『黄帝内経(こうていだいけい)』にも、気功に関連する記載がなされている。

気功は、古い時代には老子の隠遁的な思想である『道教』に出てくる神仙思想の修行法としても利用されていた。中華人民共和国が建国されて『気功』という名称が定着する以前には、調息(ちょうそく)や静座、導引、吐納(とのう)などと呼ばれることもあった。気功の原理は、『呼吸を正しく整えること』であり、身体の経絡を流れる気の『自在なコントロール』を体感的・経験的に修得することである。

気功の基本的な人間観(病理観)の前提には、中医学や東洋思想の壮大な理論体系を支える『陰陽五行説』がある。陰陽五行説とは、世界や人間の存在形式・様態・性質を陰と陽に大きく分け、世界を構成している原理的な要素として『木・火・土・金・水』の五行を考えるものである。

『気の思想』の淵源には、自然界のあらゆる現象に生命の存在を認めるアニミズム(精霊崇拝)がある。アニミズムを制度化してシャーマンと呼ばれる呪術師(霊媒師)が預言・医療・儀式を行うようになった宗教形式をシャーマニズムと呼ぶが、トランス状態(変性意識状態)を利用して神仏や祖霊と接触する民間宗教のシャーマニズムも気功に影響を与えたといわれる。その他、気功に影響を与えた思想哲学としては、老子・荘氏の道教や釈迦の仏教、インドの宗教的な健康法であるヨーガ、カンフーなど中国武術が知られている。

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ラベル:哲学 民間療法
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[アドラー心理学の器官劣等性(organ inferiority)と劣等性の補償]

アドラー心理学の器官劣等性(organ inferiority)と劣等性の補償

オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(Alfred Adler, 1870-1937)が創始した精神療法の心理学派は『個人心理学(Individual Psychology)』である。個人心理学は、アドラーの死後時代が下るにつれてアドラー心理学と呼ばれることが多くなった。フロイトの精神分析の理論・技法を継承する臨床家(研究者)をフロイディアンと呼び、ユングの分析心理学(ユング心理学)の理論・技法を継承する臨床家をユンギアンと呼ぶが、アドラー心理学(個人心理学)を継承する臨床家はアドレリアンと呼ばれることがある。クライエント中心療法(来談者中心療法)の非指示的で共感的な技法を好む臨床家は、ロジェリアンを称することもある。

最近では、効果測定を踏まえた統計学的根拠に基づくEvidence-based(エビデンス・ベースド)な臨床心理学の影響が強くなっていて、特定の学派・技法に偏った心理臨床(カウンセリング)は余り行われなくなってきている。回復(無意識の言語化)までに長い時間を必要とする精神分析の臨床も、費用対効果が良くないということで余り実施されなくなっている。しかし、アドラー心理学を含むフロイトの系譜につらなる精神分析理論は、現在でも、異常心理学の症状形成機序(発症・経過・予後のメカニズム)を説明する為に用いられることが少なくない。

シグムンド・フロイトやカール・グスタフ・ユング、アルフレッド・アドラー、ハインツ・コフート、メラニー・クライン、ドナルド・ウッド・ウィニコットなど精神分析の学術的系譜に位置づけられる臨床心理学者(精神科医, サイコセラピスト)は、力動的心理学(力動精神医学)の立場から『精神の構造・精神の機能と発達・病理のメカニズム・治療の過程・心理療法の実践』を体系的(論理的)かつ臨床的(経験的)に整理するという重要な功績を残している。

アルフレッド・アドラーは、C.G.ユングと同様にフロイトの弟子と思われていることが多いが、アドラー自身が自分をフロイトより格下の弟子だと認識していたという事実はない。A.アドラーは、1902年にS.フロイトが主催するウィーン精神分析学会に参加した古参の精神分析家であり、フロイトとアドラーは対等な共同研究者として精神分析の発展に力を尽くしたのである。

汎性欲説を主張するフロイトとの理論上の対立から1911年に精神分析学会を離脱したアドラーは、個人心理学を創設して、器官劣等性(organ inferiority)を前提とする勇気づけの心理療法を研究し始めた。個人心理学では、部分的な要素に分割できない全体性を持つ『個人・人格(individual)』を研究対象とするが、アドラーは集団社会から孤立した個人ではなく、『共同体感覚』を持って『劣等性の補償』を行いながら積極的に社会参加する個人を正常であると考えていた。アドラー心理学の最重要概念として、『器官劣等性より生起する劣等性の補償』『集団社会に参加・貢献する意欲としての共同体感覚』があるが、アドラーは集団的な共同体感覚により、個人的な劣等性(劣等感)を補償して乗り越えることが可能だと考えていた。

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2007年02月03日

[記憶障害(disturbance of memory, dysmnesia)]

記憶障害(disturbance of memory, dysmnesia)

人間の重要な精神機能である記憶(memory)の機能は、『記銘(符号化)・保持(貯蔵)・想起(検索)』の心的過程から成り立っている。ある情報や対象を憶えることを記銘(符号化)、憶えた情報を忘れずに保ち続けることを保持(貯蔵)、保持している情報(対象)を思い起こすことを想起(検索)という。“想起(remember)”は更に、部分的な手がかりや選択肢から保持している情報を認識する“再認(recognition)”と保持している情報の全体を直接的に思い出す“再生(recall)”に分類される。

記憶障害(disturbance of memory, dysmnesia)は、上記したそれぞれの過程で発生する可能性がある。物事を新たに憶えられなくなる『記銘の障害』と憶えた記憶を一定時間以上保持することができなくなる『保持の障害』、保持していた記憶を想起できなくなったりする『想起の障害』が考えられるが、保持と想起には強い連続性(相関性)があるので『保持・想起の障害』とまとめられることが多い。

記銘の障害は医学用語では『前向性健忘』と呼ばれ、保持・想起の障害は『逆向性健忘』と言われる。更に記憶障害が起きた期間の全ての出来事を思い出せないものを『全健忘』といい、一部を思い出せるがある部分だけを思い出せないものを『部分健忘』という。記憶障害を発症して以降、出生からのす全ての『自分に関する記憶』が思い出せない逆向性健忘を『全生活史健忘(Generalized Amnesia)』という。発症してから新しい出来事や知識を全く憶えられなくなる前向性健忘を『一過性全健忘(TGA:Transient Global Amnesia)』という。

日露戦争中の海軍の兵士には脚気(かっけ)が頻繁に起こっていたが、これは、船上で野菜類を摂取しなかったことによるビタミンB1(チアミン)の極端な不足が原因であった。慢性化したアルコール依存症の継続によって発症するウェルニッケ症候群とコルサコフ症候群も、脚気に類似したビタミンB1(チアミン)不足の発病機序で発症すると考えられている。

このコルサコフ症候群の主症状が、過去に起こった出来事を記銘・保持・再生できなくなる『逆行性健忘』であるが、特に、逆行性の記銘障害を発症する患者が多いとされる。記銘障害は、アルコール依存症によるコルサコフ症候群以外にも、交通事故や心的外傷(トラウマ)の後遺症として発症する可能性があるが、基本的には、心理的な原因よりも脳の器質的病変による影響が強い。

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ラベル:精神医学
posted by ESDV Words Labo at 07:43 | TrackBack(0) | き:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする