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2016年04月01日

[群集(crowd)と近代社会・資本主義:群集の果たした歴史的役割と革命]

群集(crowd)と近代社会・資本主義:群集の果たした歴史的役割と革命

群衆批判の思想的・政治的な書物としては、オルテガ・イ・ガセットの同時代人としてフランスの政治学者アレクシ・ド・トクヴィル『アメリカのデモクラシー』フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』『権力への意志』などがある。

ニーチェは神の死を宣言したニヒリズム(虚無主義)の思想家として知られるが、ヨーロッパ人の隷属的な群衆化に驚くと同時に嫌悪していた。トクヴィルはアメリカの群衆デモクラシーを『衆愚政治への転落危機』として警戒していた。

オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』と社会科学の群集学の歴史

群衆(人の群れ)の普遍性は、どの時代にも群衆(群れ)がいて影響力を振るったということであり、科学文明や法規範のない部族的な未開社会においても『狩猟・儀礼・戦闘』のための群衆がいてその集合的な役割を果たしていた。古代ギリシアのポリス(都市国家)にも政治活動におけるデマゴーグ(扇動)の原因となる群衆(プレブス)がいて、古代ローマ帝国にも自立的とされたローマ市民が堕落した『パンとサーカス』を求めて群れて騒動を起こす群衆がいたとされる。

イギリスの『清教徒革命・名誉革命』においても既存の宗教や政治体制に反発する群衆の怒り・抵抗が影響していたし、近代の国民国家・国民アイデンティティーの原点とされる『フランス革命』においても貧困・飢え・圧政に苦しんで怒る第三身分(平民)の人々が群れて反乱を起こしたという『群衆の武装蜂起』の側面を無視することはできない。

市民革命は革命の政治的・理論的な指導者だけによって決行することなどはできないのであり、歴史の大きな変革・革命においては正に『革命的群衆』とでも呼ぶべき自我・自意識に拘泥しないみんなと一緒になって目的達成のために暴れて戦う群衆の存在があったのである。

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2015年10月14日

[スタンレー・グリーンスパン(Stanley Greenspan)の『多システム発達遅滞』と愛着形成の障害]

スタンレー・グリーンスパン(Stanley Greenspan)の『多システム発達遅滞』と愛着形成の障害

0歳〜数ヶ月までの乳児期初期には、母親とも目を合わせない、抱かれたいという様子を見せない(赤ちゃんを抱いていても自分や乳房にしがみついてこない)、人見知りが全くないので『愛着(アタッチメント)』が形成されないなどの特徴が見られる。

1歳6ヶ月頃になってくると、母親に構わずに1人でどこまでも遠くに行ってしまう、名前を読んでも顔を向けず(目を合わせず)何の反応もない、母親と他人との区別がほとんどなく愛着(アタッチメント)が形成されていないといった広汎性発達障害に特有の『社会性の障害』が目立ってくる。

広汎性発達障害(PDD)の原因と生涯有病率・男女の発症率の差

アメリカの小児精神科医スタンレー・グリーンスパン(Stanley Greenspan)は、こういった社会性の障害が脳機能障害(知覚の過敏性・認知過程の異常)が引き起こす全般的な発達遅滞に由来するとして、『多システム発達遅滞(Multisystem Developmental Delay)』という概念で定義している。

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2014年12月26日

[呉秀三と日本の近代精神医学の歴史:2]

呉秀三と日本の近代精神医学の歴史:2

呉秀三の理想とする精神医療は、鎖からの解放を唱えて『開放病棟(open door system)』での治療を推進しようとしたフィリップ・ピネル(P.Pinel)の考え方に近いものがあり、当時としては珍しいヒューマニスティックな患者観や治療意欲を持っていたと言われる。

呉秀三と日本の近代精神医学の歴史:1

特に、患者を厳しく拘束して身動きできないようにする精神医療のあり方を批判して、『医療者と看護者の養成教育の見直し+心理教育と作業療法を中心とした無拘束看護の必要性』を呉秀三は訴えており、こういったヒューマニスティックな精神医療観は松沢病院の設立にもつながっていった。1919年に、松沢病院で日本で初めてとなる本格的な作業療法を実施した精神科医が、加藤普佐次郎(かとうふさじろう,1888-1968)である。

第二次世界大戦が終わって1950年代になると、アメリカから力動精神医学・精神分析の理論や技法が日本にも輸入されるようになるが、戦前の日本では性的欲求の抑圧によって神経症の発症を説明する精神分析は『精神医学の異端・邪道』のような目で見られることのほうが多かった。

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[呉秀三と日本の近代精神医学の歴史:1]

呉秀三と日本の近代精神医学の歴史:1

日本の学術的な精神医学の歴史の始まりは、第1回日本連合医学会の分科会である『日本神経学会』が開設された1902年(明治35年)4月とされる。1935年(昭和10年)に、新潟医科大学で日本神経学会の第34回総会が開かれて、日本神経学会が『日本精神神経学会』と改称されることになり、2014年現在でも精神医学の臨床研究の中心的な学会として存続している。

日本精神神経学会の初代会長が、東京帝国大学医科大学教授を務めていた呉秀三(くれ・しゅうぞう,1865-1932)である。呉秀三は近代日本の精神医学・精神医療の事実上の創設者とされる人物であり、日本の近代精神医学の初期の主要人物の多くが、呉秀三の門下生である。門下生ではない初期の精神医学者でも、呉からの学術的・臨床的な薫陶を受けた者は多い。

広島藩(広島県)に生まれた呉秀三は、1890年に東京大学医科大学を卒業して、大学院では精神医学を専攻した。大学院では教授の助手をしながら東京府巣鴨病院で医師としても働いていた。1891年に、呉の最初の論文となる『日本の不具者』『精神病者の書態』を著したが、1896年4月に助教授に昇進して、先進的な精神医学を学ぶためにオーストリアとドイツの大学に留学したことが人生の転機となった。

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2014年11月24日

[エミール・クレペリンの早発性痴呆(Dementia Praecox)とそれ以前の破瓜病・緊張病・妄想病]

エミール・クレペリンの早発性痴呆(Dementia Praecox)とそれ以前の破瓜病・緊張病・妄想病

E.クレペリンはグリージンガーの単一精神病の概念を継承しており、『破瓜病・緊張病・妄想病』の精神病の本態は同一の精神病に還元することができるとして、その本態として『早発性痴呆(後の統合失調症)』を仮定したのである。

ウィルヘルム・グリージンガーの単一精神病論とエミール・クレペリンの精神医学教科書:1

ウィルヘルム・グリージンガーの単一精神病論とエミール・クレペリンの精神医学教科書:2

『破瓜病(破瓜型統合失調症)』は、16歳頃の思春期(月経が始まる破瓜期)に発症する精神病という意味合いだが、破瓜型統合失調症は16〜25歳くらいに発症しやすく、その予後が悪いために『解体型』と表現されることもある。破瓜病では幻覚・妄想・錯乱(興奮)といった陽性症状は少なく、『陰性症状(無為・自閉・感情鈍麻・刺激過敏性)』などが中心的な症状となる。

『緊張病(緊張型統合失調症)』は、20歳前後で発症しやすい精神病で、緊張病症状と呼ばれる『興奮(大声を出したり物・人に当たったりする)』と『昏迷(動かなくなり無言状態になる)』が見られることが多い。緊張型統合失調症は興奮と混迷を主要な症状とする精神病で、表情や動作がぎこちなくなっていき、入浴や着替えを拒絶するなど日常生活(社会生活)が極めて困難になる。

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[ウィルヘルム・グリージンガーの単一精神病論とエミール・クレペリンの精神医学教科書:2]

ウィルヘルム・グリージンガーの単一精神病論とエミール・クレペリンの精神医学教科書:2

W.グリージンガーは、脳神経科学の発展によって精神病の根本的な原因と治療法が解明されるまでは、心身症状の共通性や特徴・経過によって精神疾患群を大まかに区別することしかできないと考えていたのである。

ウィルヘルム・グリージンガーの単一精神病論とエミール・クレペリンの精神医学教科書:1

20世紀最大の精神病理学者とも評価されるエミール・クレペリン(Emil Kraepelin, 1856-1926)も、グリージンガーの科学的・記述的な精神病理学の構想の影響を受けており、19世紀末から20世紀初頭にかけて記述主義に根ざした網羅的かつ体系的(分類学的)な『精神病理学の教科書』を何度も改訂した。

エミール・クレペリンが疾病概念と疾病分類を整理した記述主義的・生物学主義的な精神病理学(疾病分類学)のテキストは、20世紀前半の精神医学分野で『スタンダードなテキスト』として機能した。だが、20世紀になると力動的精神医学(精神分析)を標榜するジークムント・フロイトや力動的なスキゾフレニア(統合失調症)の理論を唱えたオイゲン・ブロイラー、内面心理を分析しない行動主義心理学のジョン・ワトソンなどの影響力も強まっていき、E.クレペリンらの『生物学主義・記述主義の精神医学』の対抗勢力になる学派・派閥も増えてきたのである。

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[ウィルヘルム・グリージンガーの単一精神病論とエミール・クレペリンの精神医学教科書:1]

ウィルヘルム・グリージンガーの単一精神病論とエミール・クレペリンの精神医学教科書:1

19世紀ドイツを代表する精神科医のウィルヘルム・グリージンガー(Wilhelm Griesinger,1817-1868) は、中世から近世にかけての『オカルティックな精神病解釈(悪魔の影響・悪霊の憑依・魔女狩り)』を否定して、『身体的原因(脳の機能的障害)』を強調する精神病論を唱えた。

ドイツのシュトゥットガルトに生まれてチュービンゲン大学とチューリヒ大学で医学を学んだグリージンガーは、精神科医として活躍しただけではなく内科医としても働いていた。特に、コレラやチフス、ペストといった当時流行していた感染症の理論・治療に精通した内科医であり、感染症の臨床と研究の分野でも成果を残していたという。約2年間ほど精神科医として勤務していたウィンネンタール精神病院での臨床経験を元にしてまとめられたものが、主著『精神病の病理学および治療法(1845)』である。

ウィルヘルム・グリージンガーの有名なテーゼに、『精神病は脳病(身体疾患)である』という脳還元主義的(身体主義的)なテーゼがあるが、グリージンガーは精神病理学を『医学モデル(脳科学モデル)』に転換させることで、それ以前の『哲学的な思弁・オカルティックな迷信』といった精神主義を排除したのである。グリージンガーは1867年のドイツの精神医学会の創設者でもあるが、精神病理学の分野では自然科学的な方法論(=主観的な思弁・理念に依拠しない現象と事実の客観的な記述)を基盤とする医学モデルの導入を企図した。

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2013年08月19日

[パット・グロスマンの交流分析の『3つのP』:2]

パット・グロスマンの交流分析の『3つのP』:2

『人生脚本(life script)』とは、『自分がどういった役割や価値を持つ人間なのか。自分はどのような人生を誰と一緒に生きていくのか』という大まかな人生計画や自己評価の筋書きである。人生脚本の内容・方向性というものは、幼少期から続く親子関係のフィードバックや他者との関わり合い、人生経験の積み重ねによって形成されていく。

交流分析では『自己否定的・将来悲観的・他者拒絶的な人生脚本の筋書き』を、少しでもポジティブで将来の希望・楽しみにつながる内容(自己と他者を共に肯定して人生を前向きに捉えられる方向)へと書き換えていくことになるが、この脚本分析を実施するカウンセラーの基本的な態度・能力と心構えについて記したものが『3つのP』と呼ばれるものである。

アメリカの交流分析家であるパット・クロスマン(Pat Crossman)が交流分析家の基本的態度として提唱した『3つのP』は、『Permission(許可), Protection(保護), Potency(能力)』で構成されている。

クライエントの人生設計や自己概念の定義を改善的に検討していく『脚本分析』のセッション(心理面接)では、交流分析家は『クライエントの安心感・信頼感・回復の信念』を高めるために、『3つのP』と呼ばれる基本的態度の実践に努めなければならないとされる。

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2013年07月07日

[エミール・クレペリン(Emil Kraepelin)]

エミール・クレペリン(Emil Kraepelin)

ドイツの精神科医であるエミール・クレペリン(Emil Kraepelin, 1856-1926)は、『精神医学の精神病理学(精神疾患の診断基準と整理分類)』に関する体系的かつ網羅的な教科書を執筆した人物である。『生物学主義』を前提として精緻な臨床観察を行いながら、各種の精神疾患(精神障害)の典型的な特徴を抽出して分類していった。エミール・クレペリンは精神医学の統一的な診断基準(他の精神科医との共通言語としての精神疾患の定義)を確立しようとしたその功績から、『近代精神医学の父』と呼ばれることもある。

精神分析の創始者であるジークムント・フロイト(Sigmund Freud, 1856-1939)は、ありのままの症状を記述する科学的客観性よりも、思想的な世界観や物語的(文学的)な共感性を重視する立場を取った。フロイトの精神分析はエスや自我、超自我、無意識領域といった『仮定的な心的装置(精神構造)』を前提とするものであり、心理的(性的)な欲望を生み出すエネルギーが内的世界でぶつかり合って葛藤しているという『力動的心理学(力動精神医学)』のモデルになっていった。

エミール・クレペリンの精神医学は、フロイトの力動的心理学(力動精神医学)に対して『記述精神医学』と呼ばれるものであり、主観的な憶測や思想的な観念を交えずに、『ありのままの客観的な症状』を観察してできるだけ忠実に記述しようとする学問であった。E.クレペリンはこの記述精神医学の立場から『近代的な精神医学(精神病理学)の体系的な分類整理』を成し遂げ、早発性痴呆(Dementia Praecox)躁鬱病を予後の好ましくない『二大内因性精神病』として定義した。

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2013年07月06日

[J.D.クルンボルツ(John D. Krumboltz)3:キャリアカウンセリングと意思決定スキル]

J.D.クルンボルツ(John D. Krumboltz)3:キャリアカウンセリングと意思決定スキル

職業選択やキャリア・デベロップメントに際して、後天的な努力・工夫によって変えられる要素が『学習経験』『課題へのアプローチ・スキル(意思決定スキル)』である。学習経験というのは前述した『道具的学習経験(オペラント的学習経験)』と『連合的学習経験(強い感情と出来事の記憶の結合)』のことを指している。J.D.クルンボルツとハメルが提唱した『課題へのアプローチ・スキル(意思決定スキル)』は、以下の7つのステップ(段階)から成り立っている。

1.解決すべき問題(選ぶべき選択肢)は何かを具体的に言葉で明確化する。

2.行動計画をたてる。

3.価値観(目的意識)を明確化する。

4.選択肢と代替案を考える。

5.起こりうる結果を予測する。

6.選択肢ごとの情報収集をする。

7.実際の行動を開始する。

クルンボルツは職業選択のキャリアカウンセリングにおいて、自分の能力・興味・価値観に応じた具体的な行動計画を立て、いくつかの選択肢の情報収集をしながら検討することを勧めたが、それと同時に『職業キャリアの8割は運(偶然)で決まる』という持論を元に『プランド・ハプンスタンス・セオリー(計画された偶然理論)』を提起している。偶然に起こる出来事がその人のキャリア形成に大きな影響を及ぼすことは多いが、クルンボルツはこの『偶然の出来事』を『プランド・ハプンスタンス(計画された偶然・キャリア形成の機会にできる偶然)』に変えていかなければならないとした。

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[J.D.クルンボルツ(John D. Krumboltz)2:キャリア・デベロップメントの要因]

J.D.クルンボルツ(John D. Krumboltz)2:キャリア・デベロップメントの要因

クルンボルツが想定した学習経験は、大きく『道具的学習経験(オペラント的学習経験)』『連合的学習経験』とに分けられる。道具的学習経験は上記したように、その人が現在まで経験してきた『先行子』が初めにあって、『本人の行動の生起(強化・消失)』が起こり、それが『結果(キャリアカウンセリングでは職業選択)』につながるという3段階によって説明される。

連合的学習経験は、中立的な出来事に対して強い感情・気分が結びつくことによって進められる学習経験であり、例えば『喜び・悲しみ・恐怖・ショック』などの激しい感情と結びついた出来事は記憶されやすいのである。

J.D.クルンボルツは後年に認知行動療法(CBT)にも関心を持つようになり、アルバート・エリスのABC理論に基づく論理療法(論理情動行動療法)のコンセプトを『学生の職業指導相談(就職支援)・キャリアカウンセリング(キャリア・デべロップメント)』に応用した。

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[J.D.クルンボルツ(John D. Krumboltz)1:学習経験の理論]

J.D.クルンボルツ(John D. Krumboltz)1:学習経験の理論

アメリカの心理学者、キャリアカウンセラーのジョン・D・クルンボルツ(John D. Krumboltz,1928〜)は、スタンフォード大学教授を勤めたが、社会的学習理論をベースとした行動カウンセリングを考案したことで知られる。

当初は、カール・ロジャーズ非指示的なクライエント中心療法(来談者中心療法)を学んで実践していたが、その効果に疑問を抱いてB.F.スキナーオペラント条件づけ(道具的条件づけ)を理論的基盤とする行動カウンセリングに転向した。

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2013年06月28日

[シェルドン・グリュック(Sheldon Glueck),エレノア・グリュック(Eleanor Glueck):グリュック夫妻の非行予測研究]

シェルドン・グリュック(Sheldon Glueck),エレノア・グリュック(Eleanor Glueck):グリュック夫妻の非行予測研究

心理学者であるシェルドン・グリュック(Sheldon Glueck)エレノア・グリュック(Eleanor Glueck)グリュック夫妻は、少年の非行原因を『多面的近接方法・精神分析理論』をベースにして統計的に調査した『早期非行予測』の研究で知られている。グリュック夫妻の非行研究の特徴は、『数量的・確率的な予測であること』や『(過去に非行歴がない)一般の少年が非行化する蓋然性を示したこと』にある。

ハーバード大学法学部の資金面・調査面の援助を受けたグリュック夫妻は、ボストンのスラム街地区にある少年院から500名の非行少年を『非行群』として選び、非行歴のない500名の一般少年を集めた『対照群』と比較する研究を行った。非行群と対象群とを比較調査することで、少年を非行に走らせる要因・因子を特定して、少年の非行を事前に予防することに役立てようとしたのである。

非行群と対照群に含まれる各少年について、『社会学的調査・心理学的検査・身体的診査・精神医学的面接診断』などが実施されたが、こういった複数の調査・検査方法を組み合わせたものを『多面的近接方法』と呼んでいる。ボストンの非行少年と一般少年を調査したこの研究の成果は、『少年非行の解明,1968 中央青少年問題審議会』(Unraveling Juvenile Delinquency, 1950)としてまとめられており、非行の要因ではないかと考えられる約400項目についての専門家による多角的な検討が為された。

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[ウィリアム・グラッサー(William Glasser)の現実療法と上質世界:3]

ウィリアム・グラッサー(William Glasser)の現実療法と上質世界:3

W.グラッサーの考案した現実療法(リアリティ・セラピー)は、パールズ夫妻のゲシュタルト療法と同じように『過去・未来』よりも『現在』に焦点を当てる技法であり、現在の自分が置かれている状況の中から『最も効果的な行動』を選択することを共感的にバックアップするものである。

今の時点で思い悩んでみてもどうしようもない『過去のトラウマ』や『未来の不安』に囚われ過ぎずに、今の自分が実現したい目標・願望に向けて、着実に効果的な行動の選択を積み重ねていくというのが現実療法の作用機序になっている。

ウィリアム・グラッサーは、教育分野においては質の高い教育を目指す『クオリティ・スクール』の概念を提唱し、産業マネジメントの分野では『リード・マネジメント』という概念を提起している。グラッサーは人間は『5つの基本的欲求』を誰もが持っていると考え、その5つの基本的欲求最も良く満たしている理想のイメージ世界のことを『上質世界』と呼び、人間はその上質世界に近づくために活動や努力(工夫)を続けるとした。

グラッサーのいう5つの基本的欲求というのは、以下のようなものであるが、これらの欲求はアブラハム・マズローの欲求階層説とも重複するものがある。

1.生存の欲求……『食欲・睡眠欲・性欲』に代表される本能的欲求をベースにして、外的に襲われず健康な状態であり生活が安定しているという『安心・安全・健康』の欲求なども含まれる。

2.楽しみの欲求……人生を様々な観点から努力してもっと楽しみたいという欲求。『ユーモアと笑い・好奇心と体験・学習と成長・独創性』などの欲求が含まれる。

3.自由の欲求……他人に命令されたり指示されたりせずに、自分の人生を自由に生きたいという欲求。『解放・変化・自分らしさ』などの欲求が含まれる。

4.力の欲求……他人に勝利して優位な立場に立ちたい、自分の権力や地位を認められたいという優越・承認の欲求。『競争・承認・貢献・達成』などの欲求が含まれる。

5.愛・所属の欲求……自分の好きな相手から愛されて大切にされたり、逆に大切にして上げたいという欲求。自分の能力や存在を認めてくれる集団組織に所属したいという欲求。『愛情・奉仕・帰属・忠誠』などの欲求が含まれる。

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[ウィリアム・グラッサー(William Glasser)の選択理論と現実療法:2]

ウィリアム・グラッサー(William Glasser)の選択理論と現実療法:2

選択理論ではない従来の行動主義心理学では、『オペラント条件づけ(道具的条件づけ)』によって、相手に報酬や罰などの強化子の刺激を与えることで、相手に望ましい行動を取らせようとする。だが、このオペラント条件づけの方法論を、無理矢理に現実の生活・活動に当てはめると、『人間関係のトラブル・不信感による決裂』という弊害がどうしても起こってしまうのである。

精神科医のウィリアム・グラッサー(William Glasser)は、心理臨床(カウンセリング)だけではなくて学校教育(教育方法の改革)の分野にも強い関心を持ったが、『報酬と罰による強制の弊害(人間関係の破綻・混乱)』を回避するために、『自主的な行動の選択(自己選択による結果の納得)』による問題解決を重視した。自分の行動を選択するのは自分であり、他人や社会(外部)から影響を受けているとしても、最終的に決断するのは自分以外にはいないという人間観が選択理論を貫いているのである。

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[ウィリアム・グラッサー(William Glasser)の選択理論と現実療法:1]

ウィリアム・グラッサー(William Glasser)の選択理論と現実療法:1

アメリカの精神科医であるウィリアム・グラッサー(William Glasser, 1925-)は、良好な人間関係を築くための『選択理論(選択理論心理学)』を提唱して、その理論をベースにした『現実療法(リアリティ・セラピー)』を考案したことで知られる人物である。アメリカのオハイオ州に生まれたW.グラッサーは、ウエスタン・リザーブ大学医学部で博士号を取得してから、精神医療や心理臨床の分野だけではなく学校教育の改革の分野でも活躍している。

1965年に初めて現実療法(リアリティ・セラピー)を発表した時には『コントロール理論』と呼んでいた理論を、1996年に『選択理論(選択理論心理学)』と改称している。選択理論への改称によって、『行動に対する自己選択の可能性』を強調したのであり、W.グラッサーの選択理論の枢要は人間は自分の行動を自分で選んで決めることができるという点にある。

選択理論(選択理論心理学)は、刺激(Stimurus)に対する反応(Response)である『S-R結合の条件づけ』によって、人間の行動を説明しようとしていた『行動主義心理学』を否定する理論でもあった。

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2013年05月30日

[C.L.クーパー(Cary L. Cooper)]

C.L.クーパー(Cary L. Cooper)

アメリカ生まれのイギリスの心理学者C.L.クーパー(Cary L. Cooper,1940)は、英国のマンチェスター大学やランカスター大学で心理学教授を務めている。『心理的ストレスに関する研究』や『産業心理学・組織心理学・コーチング』に関する研究で多くの実績を残しており、ヨーロッパ圏(EU諸国)におけるストレス心理学の権威として知られる。

大学生時代には、米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でF.マサリック教授(F.Massarik)の元で学び、『感受性訓練』『エンカウンター(グループ療法)』に関する臨床的研究に携わり、特に感受性訓練やエンカウンターの指導者となる人のリーダーシップや方法論の分野で貢献した。

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[エミール・クーエ(Emile Coue)]

エミール・クーエ(Emile Coue)

フランスの薬剤師・心理学者であるエミール・クーエ(Emile Coue, 1857-1926)は、神秘的とも言える独自の『自己暗示療法』を創始した人物であり、その驚異的な自己暗示療法によって曲がっていた背骨を直したり、心臓疾患・がんなどの身体疾患を改善させたりしたという。しかも、クーエの自己暗示の教示文は極めてシンプルで分かりやすいものであり、心身医学のような医学的知識とも殆ど無縁であった。

“クーエイズム”と呼ばれるクーエの神秘的・霊的とされる自己暗示方法は、ただ『わたしは毎日(日に日に)あらゆる面で、ますます良くなっていく』という言葉を自分に対して本気で誠実に信じながら繰り返し唱えるだけというものである。非常に単純な文章で、ある意味ではバカバカしいとも言える自己暗示方法なのだが、クーエイズムの治療法は『心身症・自律神経失調症・子供の不定愁訴(身体不調)・赤ちゃんの心身の不調』などに劇的な効果を発揮した。

哲学者・神学者で心霊治療に関心を持っていたマード・マクドナルド・ベインは、エミール・クーエは見えない霊力を活用した自己暗示療法を行っていると示唆したが、クーエイズムは一般的にはスピリチュアル・セラピー(霊的治療)とは見なされていない。

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2012年09月12日

クライエント中心療法のプロセス・スケール(process scale)

クライエント中心療法のプロセス・スケール(process scale)

カウンセリングの神様と称されたカール・ランサム・ロジャーズ(C.R.Rogers, 1902-1987)が創始したクライエント中心療法(来談者中心療法)では、『傾聴・共感的な理解・純粋性(自己一致)・無条件の積極的受容(肯定的尊重)』などの基本的態度を用いて、クライエントの潜在的な実現傾向を促進しようとする。

実現傾向とはC.ロジャーズの有機体理論に基づく『成長・健康・回復』へと向かう潜在的可能性の事であり、クライエント中心療法ではこの実現傾向を支持して促進する事で、クライエントの『パーソナリティ構造(人格特性)』を肯定的に変容させていくのである。クライエント中心療法においてこのパーソナリティ構造の変容過程を客観的に測定するために考案された測定尺度(評価尺度)が『プロセス・スケール(process scale)』と呼ばれるものである。

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2012年04月15日

クッシング症候群・アジソン症候群と副腎皮質ホルモン

クッシング症候群・アジソン症候群と副腎皮質ホルモン

この記事は、[前回の項目]の続きになります。 副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)の過剰によって起こる症候群を『クッシング症候群(Cushing Syndrome)』というが、特に下垂体腺腫が原因で起こるものを『クッシング病』と呼んでいる。アメリカの脳神経外科医ハーヴェイ・ウィリアムス・クッシングによってクッシング症候群(クッシング病)は初めて報告された。クッシング症候群の代表的な症状には以下のようなものがある。

中心性肥満……副腎皮質ホルモンの過剰で肥満になりやすくなる。

満月様顔貌(ムーンフェイス)……顔が腫れたような感じとなり病前より大きくなることから、満月のような顔貌であるムーンフェイスになりやすくなる。

高血圧……鉱質コルチコイドの作用によってナトリウムの再吸収が進み、ナトリウムによる浸透圧で水の再吸収が亢進することで、循環する血漿量増加で高血圧の状態になる。

一般糖尿病症状……糖質コルチコイドは血糖値を上昇させる働きを持つ。

赤紫皮膚線条……中心性肥満の影響で、皮膚が張り詰めて裂けるために起こる病的な線条である。

筋力低下……鉱質コルチコイドのナトリウム再吸収の作用で、カリウムによる利尿作用が亢進し、低カリウム血症が発症して筋力が落ちる。

骨粗鬆症……ステロイドホルモンの過剰摂取によって、骨密度が低下して脆くなってしまう骨粗鬆症が起こりやすくなる。

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posted by ESDV Words Labo at 14:53 | TrackBack(0) | く:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする