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2016年08月11日

[ゴルバチョフとソ連崩壊:米ソ冷戦の終結による世界秩序の不安定化]

ゴルバチョフとソ連崩壊:米ソ冷戦の終結による世界秩序の不安定化

20世紀末の世界情勢における最大の出来事は、ソ連を領袖(リーダー)とする共産主義・社会主義の東側陣営の崩壊であった。1989年5月には中国で民主化運動の学生・市民らを虐殺する『天安門事件』が起こり、1989年11月には東西ドイツを分離していた『ベルリンの壁』が崩されて東欧革命が次々に起こった。ルーマニアの苛烈な支配を行う独裁政権だった『チャウシェスク政権』も、ソ連に見放される形で1989年12月に倒された。

東ドイツの崩壊という象徴的な事件によって始まった東欧革命は、遂に共産主義運動の総本山であるソ連(ソビエト連邦)にまで波及していき、1991年12月にミハイル・ゴルバチョフ大統領がソ連の共産党を解散すること(=ソビエト連邦解体)を宣言した。

ソ連はゴルバチョフ大統領の指導の下で、政治経済の抜本的改革のための『ペレストロイカ(改革)』『グラスノスチ(情報公開)』を断行して、財政破綻に陥っていたソ連経済の立て直しと政治体制の民主化を図ろうとしたが失敗した。

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2016年07月15日

[高齢者の自己の年齢認識(老い否認)とレオポルド・ベラックのSAT(Senior Apperception Technique)]

高齢者の自己の年齢認識(老い否認)とレオポルド・ベラックのSAT(Senior Apperception Technique)

アメリカの心理学者・精神医学者のレオポルド・ベラック(L.Bellak)は、近づきすぎると相手を傷つけ遠くなりすぎると寂しいと感じる『ヤマアラシのジレンマ』を提唱した人物として知られている。

L.ベラックとその妻は投影法の心理テストである『TAT(主題統覚検査:Thematic Apperception Test)』を改変した老年認知テストの『SAT(Senior Apperception Technique)』を1973年に作成している。このベラック夫妻が作ったSATは、被検者が自分の老いをどのように認知してどのような態度・行動を取っているのかを調査するものである。

高齢者の愛・欲望への執着とジークムント・フロイトの『リア王』の精神分析:2

人間は一般的に自分の老いに対しては『抵抗・否認』の自我防衛機制の反応を返しやすいものであるが、自分が老いを認めたくない高齢者であっても、『自分以外の高齢者(老人)』に対しては『客観的な年齢・老いの認知』ができたりもする。他人をあのおじいさん(おばあさん)だとかあの年寄りだとか平気で言っている高齢者が、いざ自分自身のことを『おじいさん・おばあさん・年寄り』だと言われるとどうしても抵抗感や反発心が起こりやすいところはあるのである。

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2015年10月29日

[行為障害(Conduct Disorder):児童期の行動面の障害]

行為障害(Conduct Disorder):児童期の行動面の障害

行為障害(Conduct Disorder:CD)というのは、18歳未満の未成年者に適用される反社会的な問題行動(加害行動)の障害であり、反社会的かつ攻撃的(反抗的)な行動パターンを反復的・持続的に繰り返すという特徴がある。これらの反社会的行動パターンが、6ヶ月以上にわたって持続している場合に行為障害(CD)の診断が為される場合がある。

発達年齢に相応しい遵法精神・倫理観(善悪の分別)・罪悪感を持つことができず、社会規範・集団の規則(集団のルール)を簡単に破って逸脱したり、他人を躊躇なくいじめて苦しめたり物理的・精神的に傷つけたりする障害であり、基本的に『他人の気持ち・痛み』が分からないような加害的な行動を取る。行為障害は、18歳以上の人に診断されることのある『反社会性パーソナリティ障害(ASPD)』の前段階とも考えられている。

行為障害の逸脱行動や加害行為・いじめは、子供っぽい悪戯や悪ふざけ、調子に乗った気分、青年期の一時的な反抗、親との不仲などでは説明できず、他者を物理的に傷つけたり財物を盗み取ったり、小動物を殺傷するなどの『犯罪行為』に類する行動が繰り返し見られることに特徴がある。かつては司法・矯正教育の分野において、『非行少年・虞犯少年(ぐはんしょうねん)』と呼ばれていた少年の一部がこの行為障害に該当すると考えられる。

行為障害は小児期後期や青年期初期に発症することが多いとされ、攻撃性・支配欲と関係する男性ホルモン(アンドロゲン)の濃度の違いから、女子より男子に多く見られる障害である。医師はそれまでの小児の行動に基づいて診断するが、一般的に行為障害の小児は、自己中心的なわがままさが見られ、ルールのある学校生活(集団行動)に適応できず、他者を傷つけても罪悪感を感じることが殆どない。

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2015年02月26日

[カール・ゴルトシュタイン(Kurl Goldstein)の全体説と『範疇的態度(カテゴリー的態度)の喪失』]

カール・ゴルトシュタイン(Kurl Goldstein)の全体説と『範疇的態度(カテゴリー的態度)の喪失』

神経心理学の非局在説として、J.H.ジャクソン(John Hugh-lings Jackson)のジャクソニスムがあるが、それと合わせてドイツの脳病理学者カール・ゴルトシュタイン(Kurl Goldstein, 1878-1965)H.ヘッド(H.Head)などが『全体論(各精神機能・各身体機能は脳の特定の部位の働きだけには還元できないとする説)』の立場から非局在説を展開した。

K.ゴルトシュタインは神経心理学の研究と関係する『脳損傷後遺症研究所』を創設して、心理学者のA.ゲルプ(A.Gelb)と一緒に脳病理学にゲシュタルト心理学の理論を持ち込んだ論文『脳病理学的症例の心理学的分析(Psychologitic Analysis Hirnpathologistic Falle)』を書き上げた。

この一連の論文では、心因性失明(精神的盲)や解離性健忘(健忘を伴う失語症)などの症例分析とその原因の理論的解明が注目されたが、ゴルトシュタインはその原因論において『非局在説(全体説)』を採用したのである。

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2015年01月08日

[J.S.コーチンの精神保健的介入モデル:収容管理的な臨床と心理治療的な臨床]

J.S.コーチンの精神保健的介入モデル:収容管理的な臨床と心理治療的な臨床

アメリカの臨床心理学者・精神科医のJ.S.コーチンは、主著『現代臨床心理学(1980)』において、精神科医と心理臨床家がどのように患者(クライエント)にアプローチすべきかという『精神保健的介入モデル』を整理している。

臨床心理学の研究・実践の特徴とクライエントを見る異常心理学:2

J.S.コーチンは、精神保健・精神医療の領域において、患者(クライエント)に介入する『臨床モデル』を大きく二つに分けている。臨床モデルの一つは『収容管理的な臨床(精神科医が行う臨床行為)』であり、もう一つは『心理治療的な臨床(心理臨床家・心理セラピストが行う臨床行為)』である。

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2014年12月26日

[古澤平作と日本の近代精神医学の歴史:3]

古澤平作と日本の近代精神医学の歴史:3

古澤平作は日本人としては初めてジークムント・フロイトから直接的な薫陶を受けた人物とされ、フロイトに『罪悪感の二種』というドイツ語論文を提出したりもしたという。

ヨーロッパの父性原理を前提にしたフロイトのエディプス・コンプレックスに対して、古澤平作は日本的な母性原理・甘えと赦しの精神を反映した阿闍世コンプレックス(あじゃせコンプレックス)の概念を考案している。

呉秀三と日本の近代精神医学の歴史:1

呉秀三と日本の近代精神医学の歴史:2

東北大学医学部教授であった古澤平作は、ウィーン留学から帰国した後、1934年から1968年まで、日本で唯一の精神分析医として精力的かつ共感的な臨床活動を行っていたとされる。戦後の1950年代からは日本の精神科医と臨床心理学者の教育分析に熱心に取り組んでおり、近代日本の精神医学・精神分析の分野を代表するような多くの弟子を輩出している。1955年には、『日本精神分析学会』を創設するという仕事を成し遂げている。

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2013年09月28日

[フランシス・ゴールトン(Francis Galton):2]

フランシス・ゴールトン(Francis Galton):2

ゴールトンは優生学において、人間の精神的能力は身体的特徴の遺伝と同じく、同一の法則によって遺伝するという前提を立てて、優秀で倫理的な男女が結婚して子孫を残せば人類全体の知的・倫理的なレベルは向上していくが、劣等で非道徳的な男女が結婚して子孫を残すことで人類全体の質が段階的に低下していくとした。

このゴールトンの優生学は、個人間の精神的能力だけではなく人種間・民族間にも精神的能力の優劣があるという思想につながっていき、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺のホロコーストにも応用されたため、優秀な遺伝子だけ(その優秀さの基準自体は主観的かつ恣意的であるが)を残すことを目的とする優生学は『悪魔の学問』として道徳的・人道的に非難されることも多い。

道徳的な退廃者・犯罪者を多く輩出した『カリカック家の家系研究』などから、善良な市民社会に適応することができない劣等な遺伝子を持つ男女(特に女性の遺伝子が問題視される向きもあった)は、子供を産むべきではないとする差別的な価値観が生まれて、その人物・家系(血統)の優劣を分ける権力の恣意的な判断によって中絶・断種が推奨されたりもした。

優生学はユダヤ人だけではなく、障害者や高齢者など社会経済的な生産活動に貢献できない人たちを処分する根拠として悪用された部分もあり、『人間による独断的な人間(社会的弱者・被差別民族)の生命の取捨選択』という悲劇を引き起こした。

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[フランシス・ゴールトン(Francis Galton):1]

フランシス・ゴールトン(Francis Galton):1

フランシス・ゴールトン(Francis Galton,1822-1911)は、進化論(自然淘汰+突然変異による種の進化)を提起したチャールズ・ダーウィンの従兄弟に当たるイギリスの人類学者・統計学者・遺伝学者である。進化論の影響を受けたフランシス・ゴールトンは、人間の外見や能力、特徴(性質)といった『形質』が親から子にどのように遺伝するのかということに強い興味を持ち、『統計的な家系研究』を熱心に行った。

F.ゴールトンは統計的手法を駆使した家系研究から、同じ血統から多くの知的・社会的に優秀な人物が輩出されていることに注目し、『優れた才能は親から子に遺伝する』という仮説を立て、精神的能力の遺伝性を科学的に実証することを目指した。

ゴールトンの家系研究の成果や形質(形態・能力)の優性遺伝の仮説は、著書の『天才と遺伝(Hereditary Genius,1869)』にまとめられ、進化論の影響の下で次第にゴールトンは『優生学(Eugenics)』の創設へと突き動かされていく。優生学は優良な個体が劣等な個体に生存競争の自然淘汰で打ち勝っていくことで、社会全体も進歩・発展していくことになるというハーバート・スペンサーの『社会心理学(ソーシャル・ダーウィニズム)』にも強い影響を受けている。

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2013年09月18日

[オーギュスト・コント(Auguste Comte,1798-1857):2]

オーギュスト・コント(Auguste Comte,1798-1857):2

A.コントは実証主義的な社会学の創始者であるが、社会学について『実証哲学(Philosophie Positive)』の全体系を集約した人間の知識の最高形態と考えていた。コントは社会学の果たすべき役割として、『現在の社会構造の分析』『未来の社会問題の解決(予測と対応)』を想定しており、現在の社会の分析・理解を目的とする『社会静学(Statique social)』と未来の社会問題の予測・対処を目的とする『社会動学(Dynamique social)』とを区別して定義していたのである。

コントのいう『実証哲学(Philosophie positive)』は、社会動学(Dynamique social)と社会静学(Statique social)の2つのアプローチに支えられており、人類の実証主義的な真実性の高い知識を共有するためには、社会学の『科学的な体系化・実用化』が必要になると訴えていた。コントの創始した社会学の背景にあったのは、フランス革命後あるいはナポレオン失脚後の『フランス社会の混乱・暴力・荒廃・不安』であり、コントはそういった歴史的プロセスの一局面として現れてきた『市民社会の危機・不信』を克服するために、進歩主義の歴史観・学問観に根ざした社会分析・社会問題の解決の道具である社会学(ソシオロジー)の発展を推し進めていったのである。

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[オーギュスト・コント(Auguste Comte,1798-1857):1]

オーギュスト・コント(Auguste Comte,1798-1857):1

オーギュスト・コント(Auguste Comte, 1798-1857)は1798年に南フランスのモンペリエで生まれた哲学・数学にも通じた博識な在野の学者で、『社会学(Sociology)』という学問分野の名前を命名した『社会学の父』として知られている。産業階級を優遇する社会改革論を唱えたフランスの社会主義思想家アンリ・ド・サン=シモン(1760-1825)の下で、1817年から助手として社会学の基礎を学んだ。

サン=シモンからは『主観主義(思弁哲学)』から『実証主義(実証哲学)』へと発展する社会学確立のヒントを得たが、1824年にはサン=シモンと喧嘩をして袂を分かっている。社会学の創始者であるA.コントは、コンドルセ『人間精神の進歩史』にある進歩主義の思想から強い影響を受けており、人間の知性・知識・学問も歴史や社会の発展に合わせて段階的に進歩していくという『三段階の法則』を提唱した。

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2013年08月19日

[交流分析を構成する『エゴグラム・やり取り分析・ゲーム分析・脚本分析』:1]

交流分析を構成する『エゴグラム・やり取り分析・ゲーム分析・脚本分析』:1

アメリカの精神科医エリック・バーン(Eric Berne,1910-1970)が創始した『交流分析(TA:Transactional Analysis)』は、相互的なコミュニケーションや性格の特徴、人間関係、人生の大まかな設計図(脚本)を分析しながら問題を解決する心理療法である。

交流分析では、自我(性格)を構成する精神機能である“自我状態”のバランスを分析する『エゴグラム』やエゴグラムの結果を元に自分と相手とのコミュニケーションの内容を分析する『やり取り分析(交流分析)』が中心になっている。

『CP(批判的な親)・NP(擁護的な親)・A(大人)・AC(適応的な子供)・FC(自由な子供)』の自我状態の優劣のバランスを分析するエゴグラムの性格テストでは、客観的な自己理解の拡張と深化が目的となり、自分自身の性格特徴をよく理解した上で、相手とのコミュニケーションを改善する『やり取り分析』に取り組んでいくことになる。

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2013年07月25日

[古澤平作(こさわ・へいさく,1896-1968)]

古澤平作(こさわ・へいさく)

古澤平作(こさわ・へいさく,1896-1968)は、昭和初期の早い時期に日本にフロイトの精神分析を伝えた精神科医・精神分析家である。精神分析の先駆者・伝道者として知られる古澤平作は、東北帝国大学医学部を卒業してから、1931年(昭和6年)に東北帝大医学部の助教授に就任している。日本の精神医学界・心理学会にフロイトの精神分析を初めて紹介したのは、古澤の師に当たる東北帝大教授の丸井清泰(1886〜1953)だった。

しかし、丸井清泰はヨーロッパにおいて精神分析という学問が流行しているという時勢を伝えたのが主な功績で、実際に『神経症(ヒステリー)の治療法』としての精神分析理論を初めて学んで技法の訓練も受けたのは、古澤平作である。丸井ゼミの門下生であった古澤は、1932〜1933年にかけてオーストリアの『ウィーン精神分析研究所』に留学する経験をしており、創始者であるジークムント・フロイトと直接的に言葉を交わす機会も少なからずあったとされる。

ウィーン精神分析研究所への留学をした時に、古澤はR.ステルバから『教育分析』を受けたが、正統派の自我心理学を発展させた重鎮のポール・フェダーンからも指導されたという。古澤平作の提示した理論として最も有名なのは、小此木啓吾が再解釈して論述した『阿闍世コンプレックス(あじゃせコンプレックス)』であるが、阿闍世コンプレックスについて解説したドイツ語訳論文の『罪悪意識の二種』はS.フロイトにも提出されたという。

S.フロイトの『エディプス・コンプレックス』は、『母親への性愛(独占欲)・父親への敵対心による葛藤』をベースにして父親の死を願うことによる罪悪感を重視したが、古澤平作はそれに対して母性原理の強い日本文化を反映した『阿闍世コンプレックス』という新しいコンプレックス理論を提唱したのである。

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2012年11月12日

[行動療法のベースライン(baseline)とトリートメント(treatment)]

行動療法のベースライン(baseline)とトリートメント(treatment)

目に見えない内面的な心理(精神内界のプロセス)ではなくて、外部から観察可能な行動を変容させようとするのが『行動療法(behavioural)』である。具体的には、そのクライエントにとって望ましい『適応的な行動』を新たに学習して習得(強化)したり、望ましくない『非適応的な行動』を段階的に消去したりすることによって、行動療法は治療的な効果を発揮することになる。

行動療法は理論的な根拠を踏まえて実施されるのだが、『行動の学習・消去』を意識的に行うという部分では、『学習心理学(Learning Psychology)』とも深い関係を持った心理療法の技法である。

代表的な行動療法家には、自分に産まれたばかりの赤ちゃんを与えてくれれば、どんな職業・性格の人間にでも条件づけを用いて育ててみせると豪語したジョン・ワトソン、徹底的行動主義を標榜して人間の行動を正負の強化子でコントロールできるとしたB.F.スキナー、外部の刺激をどのように認知するかで行動が決まるとする“S-O-R理論(Stimulus-Organism-Response Theory)”を提唱したC.L.ハルなどがいる。

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2012年06月19日

A.W.コームズの不適正なパーソナリティ(inadequate personality)

A.W.コームズの不適正なパーソナリティ(inadequate personality)

人間関係における援助行動や臨床的な対人援助技術を研究したアメリカの心理学者A.W.コームズ(A.W.Combs)は、性格心理学の分野にも強い関心を示していた。A.W.コームズは心理学の調査研究法を『開放系心理学(open system psychologies)』『閉鎖系心理学(close system psychologies)』とに分類したが、カウンセリングの分野に目的を定めない自由度の高い開放系心理学を応用したことでも知られる。

S.フロイトの精神分析やカール・ロジャーズのクライエント中心療法も『人格の成熟・心理的な成長・無意識の洞察・意味の発見』など抽象的で物語的な目標を掲げており、相互の絶えざる人間関係によって精神状態を向上させようとする開放系心理学の心理療法(カウンセリング)に位置づけることができる。A.W.コームズはその個人を特徴づける一貫性と連続性のある行動・感情・思考・態度・人間関係のパターンとして“パーソナリティ(personality)・人格構造”を定義して、そのパーソナリティと社会適応(問題解決能力)との相関を研究していた。

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2012年03月29日

[構造派家族療法の不均衡化(unbalancing)とジョイニング]

構造派家族療法の不均衡化(unbalancing)とジョイニング

家族療法(family therapy)では、家族を相互に作用する個人(要素)が集まった一つのシステムと見なして、家族成員のそれぞれが他の成員にどのような影響を与えているのかを分析して、そのシステム的な相互作用を改善していく。家族全体の大きなメインシステムの下位には、『父と子・母と子・兄と弟・姉と妹』のようなサブシステムが仮定されることもあるが、サブシステムの相互的コミュニケーションの内容と影響を分析しながら、家族全体の問題にどう対応していくのかを考えていく。

『家族の問題』について特定の誰かの性格・行動だけに原因があると考えるのではなく、家族成員がそれぞれ他の家族に影響を与え合っているという『システムズ・アプローチ』の視点に立って、コミュニケーションの内容や情緒的な反応をカウンセリングで取り扱っていくのが家族療法の特徴である。

家族療法のシステムズ・アプローチでは、家族の問題(家庭の病理)の原因を『一人の家族』だけに押し付けず、問題を抱えている家族のことを“IP(Identified Patient,患者と見なされている人)”と便宜的に定義して、『家族システムの異常(障害)』を発見してそのシステムを改善することが治療機序になっている。誰か一人だけが病気になったり問題を生み出しているという見方ではなく、『家族関係の偏り・歪みから来る悪循環』を作り出すようなコミュニケーションや関わり方があるという前提に立ち、その家族内部の相互作用による偏り・歪みをできるだけ小さくして正常化していくことを目指すのである。

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2012年02月28日

[交流分析の風刺的交流(satirical transaction)]

交流分析の風刺的交流(satirical transaction)

アメリカの精神科医エリック・バーン(Eric Berne,1910-1970)が開発したオリジナルの交流分析には『風刺的交流(satirical transaction)』というコミュニケーションはない。風刺的交流(satirical transaction)は皮肉的交流とも呼ばれるが、日本版の交流分析で分類されているコミュニケーションの一形態である。

元々の交流分析ではゲームとも呼ばれる『裏面交流』に似た部分もあるが、裏面交流とは他者をコントロールするために『建前(タテマエ)の言動』『本音(ホンネ)の感情』とが食い違ってしまったコミュニケーションのことである。裏面交流として行われるゲームとは『最後には嫌な気分になるパターン化したコミュニケーション』であり、この嫌な気分や不快な感情を引き起こす言動のことを『ラケット(racket)』と呼んだりもする。

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2011年07月27日

[交流分析のひきこもり(withdrawal)]

交流分析のひきこもり(withdrawal)

誰もが使いやすい『精神分析の口語版』と言われる交流分析(Transactional Analysis)は、アメリカの精神科医エリック・バーン(1910-1970)によって開発され、その後にジョン・デュセイ(J.M.Dusay)が自我状態のバランスをチェックする性格テストのエゴグラム(egogram)を作成した。交流分析というと性格構造や双方向のコミュニケーションを分析するために、『CP(批判的な親)・NP(擁護的な親)・A(大人)・FC(自由な子ども)・AC(適応的な子ども)』の5つの自我状態を仮定してそのバランスを確認するエゴグラムが良く知られているが、時間をどのようにして過ごすのかを規定する『時間の構造化』も重要なものになっている。

交流分析の理論・技法は、『構造分析(エゴグラム,時間の構造化)・やり取り分析(交流分析)・ゲーム分析・脚本分析』の4つの領域に分類することができる。『エゴグラム』は、自我状態の強さと弱さのバランスから個人の性格構造を分析する性格テストであり、『やり取り分析』は、自己と他者との間で交わされるメッセージや態度・行動を自我状態の概念を用いて分析するものである。『ゲーム分析』は、他者の行動や感情をコントロールしようとする意図を持つコミュニケーションをゲームと定義して、お互いが不快な気持ちになりやすく相手に嫌悪を持ちやすいゲームを減らすための方法を考えるものである。『脚本分析』は、自分の人生のおおまかな内容や展開を規定する脚本を検討して、非適応的で自分を落ち込ませる“悲観的な脚本”をより良いものへ書き換えていこうとするものである。

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2011年04月17日

[広汎性発達障害(PDD)と自閉症スペクトラム・アスペルガー障害:2]

広汎性発達障害(PDD)と自閉症スペクトラム・アスペルガー障害:2

この記事は、[前回の記事]の続きになっています。自閉症(自閉性障害)の医学的診断は、DSM-IVやICD-10の診断基準に基づいて行われるが、DSM-Wで採用されている診断名には『自閉性障害・アスペルガー障害・他に分類されない広汎性発達障害=PDD-NOS」)』がある。

ICD-10で採用されている診断名には『小児自閉症・アスペルガー障害・非定型自閉症』がある。知的障害の有無は診断には直接影響しないが、知的障害・言葉の発達の遅れが見られないIQ70以上のアスペルガー障害などの自閉症スペクトラムを指して、『高機能自閉症(HA:high functioning autism)・高機能広汎性発達障害』という呼び方がされることもある。知的障害のある自閉症は、『低機能自閉症・カナー型自閉症』と呼ばれる。

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[広汎性発達障害(PDD)と自閉症スペクトラム・アスペルガー障害:1]

広汎性発達障害(PDD)と自閉症スペクトラム・アスペルガー障害:1

前回の記事では、発達障害の定義と種類を説明したが、ここでは広汎性発達障害の症状と問題について整理したい。広汎性発達障害(PDD:Pervasive developmental disorder)の典型的な状態像として、『自閉症スペクトラム』がある。自閉症スペクトラムというのは『自閉症的な症状・特徴・重症度』に連続的で段階的な幅の広がりがあって、健常者〜重症自閉症までの境界線が明確ではないという事である。

スペクトラム(spectrum)というのは『連続体・多様性』という意味であり、国際疾病分類のICD-10では広汎性発達障害を『相互的な社会関係とコミュニケーションのパターンにおける質的障害、および限局した常同的で反復的な関心と活動の幅によって特徴づけられる一群の障害』として定義している。

児童精神科医のレオ・カナーが1943年に報告した自閉症(Autism)は自閉性障害(Autistic Disorders)とも呼ばれるが、集団生活に適応するための社会性の障害や他者と意思疎通・感情交流をするためのコミュニケーション能力の障害、常同行為(こだわり行動)を繰り返すイマジネーションの障害などの特徴を持っている。レオ・カナーが発見した『カナー型自閉症(早期幼児自閉症)』は知的障害を伴う低機能自閉症であり、他人に対する興味関心が極端に乏しく、自己の内的世界に閉じこもって他者との情緒的交流が難しいという問題があり、言葉の遅れ(言語機能の低さ)や心の理論の障害(他人の気持ちを推測できない)などの問題が見られた。

自閉症の症状には『言語の発達の遅れ・感情的交流や意思伝達の困難・相手の内面や立場を推測できない(心の理論の障害)・反復的な常同行動・行動様式や興味の対象が極端に狭い・極度の自己中心的思考・被害妄想』などがある。他人と目を合わして話すことが出来なかったり、場面に相応しい表情や態度を取れなかったりすることで(怒られているのに笑っているなど)、社会性(集団適応性)の獲得が困難になり、発達年齢に応じた友人関係を作ることも難しくなってしまう。

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2011年03月22日

[交流分析の発達サイクル(developmental cycles)とP.レヴィンの発達論]

交流分析の発達サイクル(developmental cycles)とP.レヴィンの発達論

エリック・バーンが開発した交流分析には、人間の精神発達プロセスについて『自由な子ども(FC)の自我状態→適応的な子ども(AC)の自我状態→大人(A)の自我状態→親(P)の自我状態』という発達理論の仮定がある。これは自由奔放で率直に自分の感情や欲求を表現して他者・社会に制約されない“FC”が、親のしつけや先生の教育を受けたり社会的な集団生活の経験をすることで“AC”の自我状態を発達させていくという前提に基づいた発達観である。

精神分析の無意識的本能(動物的本能)である“エス(イド)”に対応するものとして、交流分析の“FC(自由な子ども)”を捉えるのであれば、エスが社会化されて抑圧されていくように、FCもしつけ・教育・社会制度によって社会化されてACに変質していきやすくなるのである。その後、客観的な認識や現実的な利害計算、科学的な世界認識をするための“A(大人)”の自我状態が発達してきて、CPの厳しい倫理観・善悪判断とFCの自由な欲求・感情表現とのバランスを取るようになっていく。

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