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2012年09月12日

プリ・テスト(pre-test)と天井効果(ceiling effect)・床面効果(floor effect)

プリ・テスト(pre-test)と天井効果(ceiling effect)・床面効果(floor effect)

あるカウンセリングや対応・訓練の効果を調べる場合には、そのカウンセリング(対応・訓練)の事前と事後の測定値を比較する必要がある。あるカウンセリングをクライアントに実施した場合に、そのカウンセリングの事前と事後のクライアントのデータ(心理テスト・医学的検査の結果など)を取得して比較してみるという方法である。

トレーニング(訓練)を実施した場合にも、そのトレーニングの事前と事後の被験者のデータ(体力測定・生理的指標の結果など)を取得して比較してみるという事になる。ある活動や対応が実際にどれくらいの効果をもたらしたのかを調べる場合に、事前測定のことを『プリ・テスト(pre-test)』、事後測定のことを『ポスト・テスト(post-test)』と呼ぶが、プリ・テストとポスト・テストの結果を比較するだけでは実際の効果・変化を確認することはできない。

あるカウンセリングや対応・訓練の効果を測定する場合には、その測定に用いた心理テストや体力測定などの『評価尺度(測定尺度)の信頼性(reliability)・妥当性(validity)』をまずは確実に検証しなければならない。なぜなら、評価尺度の『信頼性』とはその評価尺度を他の人に対して繰り返し用いても同じ結果になるという根拠であり、『妥当性』とはその評価尺度を使って測定しようとしているものをきちんと測定できているのかの根拠だからである。

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2012年08月25日

ブレインストーミング(brainstorming)

ブレインストーミング(brainstorming)

ブレインストーミング(brainstorming)は、斬新(新規)で創造的(効果的)なアイデアを生み出すための集団発想法であり、複数のメンバーが自由にそれぞれの意見や発想、ビジョンを出し合う事によって進展していく会議形態のプロセスである。ブレインストーミングは『ブレスト』という略称で呼ばれる事も多いが、固定観念や既存の常識、実現可能性に拘束されずに自由奔放に思いつくままに、自分の意見・アイデアを出していく事がポイントになっている。

アイデアや意見の実現可能性を考慮しない事で、『思考・発想のリミッター』を外しやすくなり、それぞれのメンバーが持っている『知識・経験・情報・想像力』をギリギリまで開放しやすくなる。ブレインストーミング法は、誰からも批判されない自由で寛容な雰囲気の中で行われるが、できるだけ幅広く多様な意見(アイデア)を収集して、その意見を集約・整理しながら新たな知見(発見)を抽出していく。

ブレインストーミングは『ブレインストーミング法(BS法)』と表記されることもあるが、1941年にアメリカのアレックス・F・オズボーンが考案した集団会議方式であり、『集団思考・集団発想法・課題抽出』として現在の企業・学校・団体の会議などで実施されている方法である。アレックス・F・オズボーンは、1953年発行の著書『Applied Imagination』で、このブレインストーミング法の理念や実施方法を紹介している。

ブレインストーミングの参加人数は、テーマ(問題事項)に関連している人物やテーマ(問題事項)に関する知識・経験のある人物を中心にして“10人以内(5〜7人程度)”くらいに収めるのが良いとされている。ブレストを実施する場合の役割分担は、『意見やアイデアを出す発言者・司会をして意見を整理するファシリテーター・意見(アイデア)を記録する書記』になる。ブレインストーミングは、『頭に思い浮かんだ事は何でも遠慮せずに口にする』という精神分析の自由連想法の原理を応用している部分もある。

ブレストでそれぞれのメンバーが自由にアイデアを出し合うことで、『相互作用による連鎖反応』『他者の発言に刺激されての新たな連想』を期待することができ、『自分一人だけの思想・発想・知識・イメージの限界(壁)』を超えやすくなるのである。

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フリースクール(free school)とオルタナティブ教育(alternative education):6

フリースクール(free school)とオルタナティブ教育(alternative education):6

オルタナティブ教育(Alternative education, 代替教育)は、フリースクールやホームスクーリング、チャータースクールを包摂する『非伝統的・非主流的な教育スタイル(学校制度)』であり、『生徒の立場・目線(将来)に立った教育』を行おうとしているところに共通点が見られる。

オルタナティブ教育の定義は、『幼児教育から中等教育の期間において、従来の義務教育や学校制度とは異なる新しい運営制度、進級制度、教育科目を持つ教育体制』であり、オルタナティブ教育を実施している学校の多くは国・地方自治体の法的根拠を持たない私立校である。しかし、国・地方自治体の法律で認められている学校にもオルタナティブ教育を実施している学校もあり、『現実的な子どもの教育の選択肢』としての有効性を高めてきている。

日本のオルタナティブ教育(代替教育)は、学校教育法等の法的根拠を有さない非正規の教育機関とそこで実施される教育を意味しており、『公立・私立の一条校(法的根拠のある正規の学校)』はどんな教育方針や活動内容、経営母体があってもオルタナティブ教育の範疇には含められていない。国際的なオルタナティブ教育には、公立校、私立校、無認可校(営利・非営利)、ホームスクールなどが幅広く包摂されているが、日本国内でのオルタナティブ教育の実践主体は、フリースクール、デモクラティック・スクール、通信教育のサポート校、インターナショナル・スクールなど無認可校、ホームスクーリングなどに限られている。

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フリースクール(free school)とオルタナティブ教育(alternative education):5

フリースクール(free school)とオルタナティブ教育(alternative education):5

日本ではフリースクールというと、学校に適応できなくなった不登校・ひきこもり・中退者の子どもの受け皿として機能しているイメージが強く、『継続的な学習権の保障・安心して過ごせる居場所の提供・高卒認定試験や資格試験の合格支援・通信制高校のサポート学習』が主要な教育目標になっているが、フリースクールが発祥した欧米ではむしろ自由で個性的かつ独創的な教育内容に工夫を凝らした『オルタナティブスクール(自主的に選択して通う学校)』としての認識のほうが強くなっている。

フリースクールは学校教育法1条で定める学校(=1条校)ではないので、学歴上の卒業資格としては認定されない学校が殆どであるが、1992年からは在籍する学校の校長の裁量によって、『フリースクール等の民間施設(学習カリキュラム・時間割などに関して一定の条件あり)』に通った期間を、学習指導要録上で出席扱いにすることができるようになってきている。フリースクールの対象年齢は、初めは義務教育段階にある小中学生の子どもだったが、近年では高校生以上の年齢にも拡大されており、『フリースクールを通した生涯学習』というコンセプトも提唱されたりしている。フリースクールの自由主義・自主性・責任感の精神を応用した大学として、東京シューレが母体になり20〜30代の若者が通うことを想定した『シューレ大学』が1999年に設立されている。

A.S.ニイルの自由主義的な教育思想から始まる『欧米社会におけるフリースクールの誕生と増加』は、アメリカの黒人公民権運動や反戦思想・反核運動と相関していた時代が長く、日本の不登校・ひきこもり・中退者の学習権の保障を目的にしたフリースクールとは歴史的な経緯がかなり異なっている。欧米社会のフリースクールの活動内容と思想性、歴史性は、自由民主主義社会を構成する自由・平等で責任感のある個人を育成するという『デモクラティック・スクール』の教育理念と切り離して考えることはできない。

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フリースクール(free school)とデモクラティック・スクール:4

フリースクール(free school)とデモクラティック・スクール:4

フリースクールでもデモクラティック・スクールでも、学校内における人間関係(生徒の友人関係)の理想は、『自由で平等な個人』が相互にその人格を信頼して尊重し合うような関係であり、他者の自由や権利を侵害しないような倫理感覚を練磨することが目的にされている。フリースクールでは、生徒の自由な選択と学校関係者(生徒+教員)のミーティングが最大限重視されているが、『自由な選択と決定に対する責任の履行(責任感の重さに耐えられる人格の涵養)』も生徒とスタッフ(教員)には求められているのである。

フリースクールは、伝統的・主流的な学校教育制度からすると、『生徒の自由性・自主性』を尊重し過ぎるという意味で異端の学校であり、反権威主義の民主的運営を実践する学校である。フリースクールの長所と魅力は『生徒の自主性に学校生活・授業計画の殆どを任せていて、強制・命令がないこと』であるが、これは同時に『計画的な学習指導ができず教科学習に偏りが出る(必修科目を学習する機会が奪われやすい)・相対的に学力や知識の水準が低くなりやすい・社会生活に必要な規範意識(理不尽への耐性)が形成されにくい』といった批判にもつながっている。

サマーヒル・スクールという形でフリースクールを初めて創設したA.S.ニイルは、『社会的な権威・政治的な権力』を懐疑して『個人の自由・自己への信頼と自信』を重視するといった世界観を持っており、その世界観は“強制からの自由”を説く古典的自由主義とも共鳴していたのである。

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ラベル:学校 教育 政治
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フリースクール(free school)とA.S.ニイルのサマーヒル・スクール:3

フリースクール(free school)とA.S.ニイルのサマーヒル・スクール:3

A.S.ニイルが建設したサマーヒル・スクールは、近代西欧で最も古いフリースクールとされるが、“民主主義的な学校運営(生徒による学校自治)”と“生徒相互の社会的平等”が大原則とされている事から『デモクラティック・スクール(民主的学校)』に分類されることも多い。学校の教師や家庭の親が『何をすべきか・何をしてはいけないか』を全面的に強制して、無条件に教え込む『権威主義的な教育観』を否定したところに、A.S.ニイルの自由主義と生徒尊重に基づく教育思想の特徴がある。

サマーヒル・スクールには一般的な意味での校則や強制項目は存在せず、『寮での男女の同棲(性関係)・喫煙と飲酒・法的な犯罪行為』が禁止されているだけであり、生徒たちには自分たちの時間を何の学習に費やしたいのか、学校での時間割の作成をどのようにするかについての自主的な選択権が委ねられている。A.S.ニイルは、子どもの役割は子ども自身の人生を主体的に意欲的に生きることであり、『社会の強制・親の価値観・教育者の知識』を無理やりに押し付けられる事ではないという信念を持っており、生徒は『自分自身の時間』を責任を持って有意義に計画的に使うようにしなければならないと考えていた。

子どもの幸福実現と成長促進を目的にするニイルのサマーヒル・スクールは、授業への参加を強制することはしないという原則を立てて、子どもの自由を最大限に認めながら自主的な学習態度を身に付けさせようとした。『児童期における自由の喪失・自己肯定の剥奪・素直な感情の抑圧』が、その後の人生のメンタルヘルスの不調や精神疾患(神経症)の発症につながるというS.フロイトの精神分析のような精神病理学の意見を発表したりもしている。サマーヒル・スクールはサドベリー・スクール(Sudbury school)と並ぶ『デモクラティック・スクール(democratic school)』ではあるが、サドベリースクールと比較すると“ルールの徹底・合議的な意志決定のレベル”は弱い傾向がある。

スクールミーティングの民主的な意志決定によって、『校則(ルール)・学習方針・行事』を決定する本格的なデモクラティック・スクールであるサドベリー・スクール(米国ボストンにあるサドベリー・バレー・スクールをモデルにした各地の民主的学校)は、フリースクールのカテゴリーから外される事もあるが、実際にはフリースクールとデモクラティック・スクールの区別は曖昧な部分も多い。民主的に校内の物事を決定していくデモクラティック・スクールであるサドベリー・スクールの特徴を整理すると以下のようになるが、その教育理念は『子どもは生きていくために必要な事柄を自分たちで学ぶことができる・自分たちで決定したルールの範囲内で自由に活動できる・選択の自由に対する責任感』という事である。

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フリースクール(free school)と伝統的な学校教育制度:2

フリースクール(free school)と伝統的な学校教育制度:2

2012年現在では、滋賀県大津市の公立中学校で起こった『いじめ自殺問題(熾烈ないじめに対する学校と教員の無力さ・無責任さ)』などが取り沙汰されているが、義務教育の学校は“暴力を受ける生死の危険”や“トラウマ(心的外傷)を被る危険”を冒してまで通う所ではないという価値観も広まってきている。無理して既存の学校(学校教育法の1条校)に通学しても、過酷ないじめで殺されたり自殺してしまっては本末転倒であり、うつ病やPTSDのような精神疾患を発症してしまうリスクも出てくる。

本当にどうしても耐えられないような苦痛や恐怖、不安、危険が学校にあるのであれば、その生徒にとってのベストな選択は『そのまま無理をして学校に通い続ける事』ではない可能性があるという価値観を承認する親も増えてきた。激しいいじめや深刻な学校不適応、ストレス性の精神症状(過敏性腸症候群・パニック障害・過換気症候群の気管支喘息など)があったりする場合には、『保健室登校・不登校(学校に行かない)・休学』という選択をする生徒も増えているが、それ以外の新しい学校環境に適応する選択肢として『フリースクール』が存在している。

フリースクールは、EU諸国で普及する“シュタイナー教育”、生徒の議論による学校自治を重視する“デモクラティックスクール”、外国人でも通いやすい“インターナショナルスクール”、親が知識・技術・倫理(行為規範)を教授する家庭教育の有効範囲を拡張する“ホームエデュケーション(家庭学校)”などと同列の『オルタナティブ教育の一環』なのである。

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フリースクール(free school)と伝統的な学校教育制度:1

フリースクール(free school)と伝統的な学校教育制度:1

生徒の選択と価値観の自由を最大限に尊重するフリースクール(free school)は、『既存の学校教育制度(義務教育課程)』に上手く適応できない子ども達の代替的な選択肢として機能している。日本では特に不登校(登校拒否)や学校不適応、いじめ被害、非行問題などを抱えた子ども達が、安心して楽しく通学するためのオルタナティブ・スクール(代替的学校)を指してフリースクールと呼ぶ事が多い。

学校でのいじめや登校拒否の問題が注目されはじめた1980年代から、既存の学校教育に代わるフリースクールが設立され始めた。だが、フリースクールは『学校教育法1条』で定める学校ではなく学習指導要領に沿った授業をしていないので、学歴上の卒業資格(大学受験資格)などを得られないという限界もある。

そのため、フリースクールの教育目標には『学校教育(一般的な1条校の学校)への復帰』が盛り込まれている事も多い。フリースクールに通学する意義は、『学校復帰・大学受験資格の取得(高校卒業程度認定試験の合格)・仕事に役立つ資格取得・集団生活への適応(仲間関係の形成)・自尊心と自主性の回復』などにあると考えられる。

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2012年08月17日

プレマックの原理(Premack principle)

プレマックの原理(Premack principle)

行動主義心理学を研究したD.プレマック(D.Premack)が提唱した、特定の行動を強化するための原理が『プレマックの原理(Premack principle)』である。プレマックの原理では、二つ以上の独立した行動の強化がそれぞれ別々のものではないと考え、ある『非自発的な行動』を強化するためには、それ以外の別の行動(好きな行動)を一緒にすることが効果的であると説く。

J.ワトソンやB.F.スキナーに代表される行動主義心理学(行動科学)は、行動の生起頻度を『条件反射・正と負の強化子(報酬と罰の刺激)』でコントロールしようとする学問分野であり、心理臨床分野でも行動療法の基礎理論として応用されている。プレマックの原理というのは、『高い頻度で生起する行動=自発的・意欲的な行動』を用いることで、『低い頻度でしか生起しない行動=非自発的・無気力的な行動』の発生頻度を増やせるというシンプルな原理である。

報酬(正の強化子)と罰(負の強化子)を用いて行動の生起頻度を調整するオペラント条件づけ(道具的条件づけ)と似た部分もあるが、プレマックの原理では『自分が好きな報酬になる行動(高頻度で起こる行動)』を効果的に用いることで、『自分が嫌いな罰(不快・ストレス)になる行動(低頻度でしか起こらない行動)』を増やせるということが示されている。

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プレグナンツの法則(Pragnanz Principle, law of pragnanz)

プレグナンツの法則(Pragnanz Principle, law of pragnanz)

ゲシュタルト心理学(Gestalt Psychology)は、部分的要素に還元できない全体性(知覚的な形態)を研究する応用心理学であり、『知覚対象(目に見える図形)』を五感の感覚要素の集合ではなく、意味を持った全体的なまとまりとして捉える。人間の視覚・聴覚は本人が意識するか意識しないかに関わらず、『一定の秩序・形態にまとまる志向性』を持っており、この生まれながらに与えられている一般的な秩序形成の傾向のことを『プレグナンツの法則(原理, Pragnanz Principal)』と呼んでいる。

自然科学の方法論である実験主義を採用したゲシュタルト心理学は、ウィルヘルム・ヴントが構想した『要素主義・構成主義の心理学』を否定するものだったが、プレグナンツの法則は誰もが実際に経験できる『要素に分割できない全体としてのまとまりを持った知覚』なのである。この全体としてのまとまりこそが、実験主義的(経験主義的)に確認される『ゲシュタルト(gestalt)』であり、ゲシュタルトを成立させる一般的な原理・法則がプレグナンツの法則と呼ばれている。

プレグナンツの法則はもっとも簡潔(単純)かつ安定した秩序を形成しようとする事から『最大秩序の法則』と呼ばれることもある。円や三角形の欠損した部分を脳内で自動的に補完して、実際には線分で書かれていない三角形が見えてしまうという『カニッツァの三角形(1965)』や図と地の区別(転換)を明確化したE.J.ルビンの『ルビンの壷』などがよく知られている。一つ一つの音に分解して聴くのではなく、複数の音が全体として滑らかに組み合わされたメロディ(旋律)として聴く時にも、音楽・メロディの秩序を形成するプレグナンツの法則が働いている。映画のフィルムでも、一つ一つの静止したコマを見るのではなく、コマが連続して全体的に動いている動画を見ることができるが、これもゲシュタルト(全体性)の一例である。

狭義のプレグナンツの法則は、仮現運動の研究で知られるマックス・ヴェルトハイマー(Max Wertheimer, 1880−1943)が提案した『知覚特性の法則』を指すことが多い。M.ヴェルトハイマーはプレグナンツの法則のことを『良い形態の法則・群化の法則(群化の要因)』と呼び、単純かつ安定した最大秩序を持つ形態は、心理的に『快の刺激(心地良い感覚)』を与えると考えていた。具体的には以下のような知覚の法則が知られている。群化の法則は、『体制化の法則』という風に呼ばれることもある。

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2012年08月01日

プラグマティズム(pragmatism)2:ウィリアム・ジェイムズとジョン・デューイ

プラグマティズム(pragmatism)2:ウィリアム・ジェイムズとジョン・デューイ

プラグマティズム(実用主義・実際主義)の思想には『意味の理論についての学説』『行為を重視する思索の方法』『行為を重視した場合のその結果(効果・有用性)』という三つの見解が含まれている。プラグマティズムは、倫理的には『功利主義的』な結果の判断と深く関係しているが、論理的には『実証主義的』な客観科学と関係しており、心理的には『自然主義的』な知覚・認識と関係している。

それぞれのプラグマティストは、上述した『倫理的・論理的・心理的なプラグマティズムの側面』のいずれかを重視して研究している。例えば、パースは実証主義的な『論理面』を重視、ジェイムズは功利主義的な『倫理面』を重視、デューイやミードは自然主義的な『心理面』を重視したという風に解釈することができるが、プラグマティズムにはこのようにさまざまな研究・思索の分野及び傾向性が存在しているのである。

パースの提起したプラグマティズムを分かりやすく解釈して思想界に広めたのは、心理学者としても著名な哲学者のウィリアム・ジェイムズ(William James, 1842-1910)である。W.ジェイムズは物事の真理は『行為の有用性・効果』によって基礎づけられると説いて、『近代科学・行動主義・分析哲学』の基本的な方法論を示唆したが、1910年に『プラグマティズム:思索の古い方法につけた新しい名称』という著書を書いている。

W.ジェイムズは『プラグマティズム:思索の古い方法につけた新しい名称』において、『私たちの思考全ての根本にある理解可能な真実は、明確であるにしても微妙なものであり、それらのどれも優れたものとは断定できず、実際に確認可能な差異以外の何物にも依存していない。ある対象について私たちの思考に完全な明晰さを得るには、その対象が持っている実用的な種類の認識できる効果だけを考える必要がある。つまり、そこからどのような感覚を期待して、どのような反応を想定しなければならないかを考えるべきである』といった経験主義的な世界観を開示しており、思考・観念の明晰さの根拠を“行為が生み出す効果”に置いている。

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プラグマティズム(pragmatism)1:チャールズ・サンダース・パース

プラグマティズム(pragmatism)1:チャールズ・サンダース・パース

19世紀後半にアメリカで誕生したプラグマティズム(pragmatism)は、『実用主義・実際主義・道具主義』などと翻訳されるが、ギリシア語の“pragma(行為・行動)”が原義でありイギリス経験主義の系譜を汲んでいる。プラグマティズムは『観察・経験が不可能な事象(観念・概念そのもの)』の真理を探求することは無意味であるとする立場であり、実際に行動・経験してみることでその結果に『有効性(実際の効果)』があるかどうかを重要視する。

プラグマティズムは観念的な行動を伴わない『形而上学』を否定する思想であり、『物事の真理・思考(観念)の意味』を実際の行動・経験(観察)の結果から判断して、『効果のある事(有効性のある事=実際に起こった事)』を真理として認定するものである。近代哲学の伝統的な手法である『思考・内省(反省)』を批判して、『行動の結果・経験の内容』によって思考や概念の妥当性(正当性)を検証しようとするプラグマティズムは、近代科学(実証科学)の成立及び方法論に非常に大きな影響を与えた。

物事の真理や観念の意味を、『(行動を伴わない)合理的な思考・反省』のみによって明らかにしようとする近代以前の哲学に対して、『経験的な行為(実践)・観察(実験)』によって真理(意味)を明らかにしようとするプラグマティズムは、近代科学(実証科学)の方法論の基礎づけになる思想でもあった。プラグマティズムの歴史は、1870〜74年にマサチューセッツ州・ケンブリッジで設立された私的な『形而上学クラブ』に起源があり、そのメンバーにはチャールズ・サンダース・パース、ウィリアム・ジェームズ、ジョーゼフ・ウォーナー、ニコラス・セイント・ジョン・グリーン、チョーンシー・ライト、オリバー・ウェンデル・ホームズ・ジュニアらがいた。

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フリーオペラント法(free operant method)

フリーオペラント法(free operant method)

オペラント条件づけの研究は、アメリカの心理学者E.L.ソーンダイク(Edward L.Thorndike, 1874-1949)『試行錯誤学習の実験』から始まるが、E.L.ソーンダイクは『猫のパズルボックス実験』によって、猫がパズル箱から脱出しようとするランダムな行動が、結果的に有効な結果(紐を引っ張って扉を開ける行動)を導き出すことを発見した。

C.L.ハル(C.L.Hull, 1884-1952)B.F.スキナー(Burrhus Frederick Skinner, 1904-1990)が定式化した『オペラント条件づけ(道具的条件づけ)』は、報酬(正の強化子)と罰(負の強化子)によって特定の行動の発生頻度を制御できるというものである。獲得すべき望ましい行動が見られた場合には、賞賛や景品のような『報酬(正の強化子)』を与えると、その望ましい行動の生起頻度が増す。反対に、消去すべき望ましくない行動が見られた場合には、否定や低評価(景品がない)のような『罰(負の強化子)』を与えると、その望ましくない行動の生起頻度が減るのである。

しかし、このオペラント条件づけの問題点(短所・欠点)として、以下のようなポイントが指摘されることがあり、この問題を解決するために『フリーオペラント法(free operant method)』という新たな方法論が考案されることになった。

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2012年07月30日

ブラックボックスの原理(black box principle)とカウンセリングの技能

ブラックボックスの原理(black box principle)とカウンセリングの技能

ブラックボックス(blackbox)とは、内部構造や具体的な仕組みが分からない状態の事であり、日常的には高度かつ複雑な技術が応用された電子機器・情報端末などを指して『この機器の仕組みはブラックボックスである』といった表現が為される。ブラックボックスは『暗箱』と翻訳されるが、現代社会に溢れている電器・機械・コンピューター・携帯電話(スマートフォン)などの多くは、一般人にとってはブラックボックスでありその仕組みを正確に理解して再現したり作ったりすることはできない。

現代社会に存在する多くの製品や商品は、その分野の専門家(技術者)ではない一般人にとってブラックボックスになっているが、システムの内部構造(仕組み)を理解できなくても使うことはできるというのが『文明の利器』の特徴ではある。スマートフォンのシステムや基盤(電子部品)の内部構造を正しく理解して、ゼロからスマートフォンを作れる人というのは殆どいないが、誰もがその操作法を学べばスマートフォンでウェブを閲覧したりアプリをダウンロードしたりして使うことはできる。

ブラックボックスであるシステム(製品)に対して、人は“インプット(入力)”を加えることで、そこから自分にとって必要な“アウトプット(出力)”を導き出すことができ、そのシステムの内部構造は理解できなくても、『システムの特徴・機能・有用性』は理解することができるのである。カウンセリングとブラックボックスの関係は、カウンセリングのセッションが生み出す気づきや改善効果について、その具体的なプロセスが多種多様であり、特定のシステムとしてその内部構造を記述し尽くすことができないということである。

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2012年07月18日

フラストレーション(frustration)とフラストレーション・トレランス(frustration tolerance):4

フラストレーション(frustration)とフラストレーション・トレランス(frustration tolerance):4

この記事は、[前回の項目]の続きの内容になっています。 欲求が満たされずに緊張感・不快感・怒りの感情が生じるのが『フラストレーション(frustration)』であるが、そのフラストレーション状態に耐えようとする心的能力のことを『フラストレーション・トレランス(frustration tolerance)』という。

フラストレーション耐性と呼ばれるフラストレーション・トレランス(frustration tolerance)の概念は、精神分析家のS.ローゼンツヴァイク(S.Rosenzweig)が提唱したものであり、フラストレーションの状況に対して犯罪や暴力、逸脱などの不適応行動を取らずに、その苦しくてつらい状況に耐えて乗り越えようとする心的能力の事である。フラストレーション・トレランスの心的能力は、具体的には以下のような個別の特徴や要素から成り立っており、フラストレーション耐性はストレス耐性と並んで、人間のメンタルヘルス(精神の健康性)を保つ重要な役割を果たしている。

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フラストレーション(frustration)と自我防衛機制(ego defense mechanism):3

フラストレーション(frustration)と自我防衛機制(ego defense mechanism):3

この記事は、[前回の項目]の続きの内容になっています。 自我防衛機制とは、自我をフラストレーションやトラウマ(心的外傷)による苦痛・不安・恐怖から守るために無意識的に発動される心の防衛的な働きであり、内的・外的な環境変化による苦痛(不安)に対して再適応を図ろうとする心の仕組みである。

フラストレーションやトラウマに対応して働く自我防衛機制には、『自分が見たいものだけを見ようとする傾向・自分が見たくないものを見ないようにしようとする傾向(見たくないものの存在を否認しようとする傾向)』がある。“不快・苦痛・自己嫌悪・嫉妬”を生み出すようなネガティブな心理的要素を無意識の領域に排除することで、『心(自我)の安定したバランス』を取り戻そうとする。

これらの無意識的な防衛機制は、適度に用いられれば自我の安定と環境(現実状況)への再適応に役立つことになるが、過剰な防衛機制を発動して現実状況や自分の本当の欲求・感情を否定し過ぎると、抑圧した欲求が心身症状に転換して『各種の神経症(現在の不安性障害・強迫性障害・身体表現化障害・恐怖性障害・うつ病など)』が発症する恐れがある。

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フラストレーション(frustration)と葛藤(conflict):2

フラストレーション(frustration)と葛藤(conflict):2

この記事は、[前回の項目]の続きの内容になっています。 フラストレーションは単純な欲求の阻止・妨害だけではなく、自分の内面にある二つ以上の欲求が対立・矛盾している“葛藤(コンフリクト, conflict)”とも密接な関係があると考えられている。“葛藤(conflict)”という心理現象を定義したゲシュタルト心理学のK.レヴィン(1890-1947)は、二つの欲求が対立している葛藤の状況を『接近‐接近型・回避‐回避型・接近‐回避型・二重接近‐回避型』の4つのパターンに分類している。

接近とは『〜したい・〜が欲しい・〜に近づきたい』という欲求のことであり、回避とは『〜したくない・〜が欲しくない・〜から遠ざかりたい』という欲求のことであるが、この二つの欲求が同時に存在して対立矛盾することで不快な緊張を伴う葛藤の心的状態が作られるのである。葛藤(コンフリクト)ではどちらの欲求対象を選んで充足しても、一定の迷いや後悔(心残り)が残りやすいという特徴がある。しかし、『決断力・行動力・自己評価』の高さがある人ほど葛藤に対する問題解決力も高くなり、自分が下した選択に対して後悔をしにくくなるのである。

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フラストレーション(frustration)と葛藤(conflict):1

フラストレーション(frustration)と葛藤(conflict):1

フラストレーション(frustration)とは、欲求の充足が阻まれて達成できない状態のことであり、一般に『欲求不満・欲求阻止』と訳されている。自分のやりたいことができない、自分の欲しいものが手に入らない、相手が自分の思い通りの反応を返してくれない、他者と関わりたいのに関わることができない(逆に他者と関わりたくないのに関わらないといけない)というのが、欲求不満(欲求阻止)としてのフラストレーションの典型的な状況である。

S.フロイトの精神分析理論では、自分の欲求が充足できないフラストレーションが起こると、リビドー(欲動)のエネルギーの解放が阻害されてしまい、内的世界の『不快な緊張感・焦燥感』を感じやすくなる。フラストレーションの状態に置かれると、人間は不快な刺激となる緊張感・焦燥感を感じるだけではなく、イライラとして落ち着かずに誰かを攻撃・非難したくなる“怒りの感情”を感じやすくなるが、この相関関係を『フラストレーション‐攻撃仮説』と呼んでいる。

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ブラインド・ウォーク(blind walk, trust walk)

ブラインド・ウォーク(blind walk, trust walk)

集団精神療法のグループセラピーや個人精神療法の各種のカウンセリングで、ラポール構築を促進したり相互の人間関係を深めたりするために実施されるオリエンテーションの一つが、『ブラインド・ウォーク(blind walk)』である。ブラインド・ウォークは、相互的な信頼関係や安心感にもつながる散歩(散策)なので、『トラスト・ウォーク(trust walk)』という風に呼ばれることもある。

オリエンテーション(orientation)とは、集団の行動や個人の心理・感情の方向づけのことであり、その方向づけのためのプラクティス(練習)やメソッド(技法)のことである。ブラインド・ウォークはラポール構築(信頼・親愛の獲得)を目指すオリエンテーションであるが、そのやり方は“blind(盲目の,目が見えない)”という言葉が示すように、目を閉じたり目隠しをしたりして『目が見えない状態』で相手に引っ張られて誘導されながら歩くという事である。

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2012年07月04日

プライマリー・ケア(primary care)とかかりつけ医の地域医療:3

プライマリー・ケア(primary care)とかかりつけ医の地域医療:3

この項目は、[前回の記事]の続きの内容になっています。 『プライマリーケア(primary care)』という言葉・概念の日本での認知度は未だ低いのが実情であるが、プライマリーケアというのは『身近な場所にいる何でも相談できるかかりつけ医と医療関係者による第一次医療・全人的な総合医療』のことであり、大病院の専門医と連携することで地域医療の根幹を支えている概念である。しかし残念なことに、医療者の間でもプライマリーケアに関する誤解や軽視の風潮は残っており、『総合医は専門医よりも知識や技能、資格で劣っているという誤解』を持っている医師も少なからずいる。

しかし、これは完全に間違った認識であり、特定の臓器に関する専門医資格を持っていて経験の豊かな医師でも、プライマリーケアを行う総合医としての役割を果たすこともあり、『非専門医(専門領域を持っていない医師)=プライマリーケアの総合医』という図式は必ずしも成り立たないのである。プライマリーケアにおける“primary”とは、『主要な,重要な』という意味であり、『初級の,基礎の(より初歩的な)』という意味ではなく、その医師に十分な臨床経験と医学的な知識があって初めて成り立つ医療なのである。

日本プライマリ・ケア学会が認定する『プライマリ・ケア専門医』、日本家庭医療学会が認定する『家庭医療専門医』などの資格制度が既に発足しているが、ジェネラリストとしての技能・知識と臨床経験を証明するような専門資格の統一は為されておらず、そのことがジェネラリストはスペシャリストよりも専門性で劣るという誤解の原因になっているという指摘もある。2010年には、プライマリ・ケア関連の3学会(総合診療医学会・日本プライマリケア学会・日本家庭医療学会)が合併して『日本プライマリ・ケア連合学会』が発足しており、プライマリ・ケアに関する統合的な専門資格の設置も検討されているようである。

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