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2012年01月31日

[フィードバック(feedback)1:出力(アウトプット)の結果が入力(インプット)に影響を与える仕組み]

フィードバック(feedback)1:出力(アウトプット)の結果が入力(インプット)に影響を与える仕組み

フィードバック(feedback)とは、あるシステムの“出力(結果)”を“入力(原因)”に戻して反映させる操作のことであり、“出力(アウトプット)”が目的を達成していればそこで終了し、目的を達成できていなければもう一度“入力(インプット)”を修正するというものである。“出力(アウトプット)”を再びシステムの入り口へと還元して“入力(インプット)”を再調整する仕組みがフィードバックであり、そのことから日本語では『帰還』という訳語が当てられることもある。

“フィードバック”という言葉が初めて用いられたのは、アメリカの数学者であるノーバート・ウィーナー(N.Wiener, 1894-1964)が提唱した『サイバネティクス(cybernetics)』の円環的なシステムにおいてであり、『結果の出力』を入力に再び戻したり入力に影響を与えるという意味合いがあった。狭義のフィードバックは、1927年のH.S.ブラックによる『負帰還増幅回路の発明』に関するもので、現在でも電子工学・エレクトロニクスの分野でフィードバック回路がさまざまな技術開発に応用されている。増幅器の特性の改善や発振・演算回路、自動制御回路といった電子回路にフィードバックの考え方が用いられている。

出力(アウトプット)の増加によって、入力(操作)も増えて促進される場合を『正のフィードバック(ポジティブ・フィードバック)』、それとは逆に、出力の増加によって、入力(操作)が阻害されて減少する場合を『負のフィードバック(ネガティブ・フィードバック)』といい、この分類は機械工学(電子工学)だけではなく経済学や臨床心理学にも応用されている。負のフィードバックが働く場合に、フィードバックに『時間遅れ』がでてしまうと、出力(アウトプット)が『増加させ過ぎ・減少させ過ぎ』になってしまうことがあり、これを『発振』と呼んでいる

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2012年01月20日

[ゲシュタルト療法のファンタジー・トリップ(fantasy trip)]

ゲシュタルト療法のファンタジー・トリップ(fantasy trip)

この記事は、『前回のファンタジーに関する記事』の続きになります。フリッツ・パールズとローラ・パールズの夫妻が開発したゲシュタルト療法で用いられるエクササイズの一つが、内的なイメージ(想像力)を活用してファンタジー世界を探求する『ファンタジー・トリップ(fantasy trip)』である。

ファンタジー・トリップとはそのまま『幻想の旅』を意味しているが、幻想的な内面世界を冒険したりイメージを拡大したり、意味あるメタファー(比喩)や象徴を発見したりといった『心的作業』を行うことになる。その意味では、ファンタジー・トリップにはイメージ療法の側面があるが、イメージ療法と比較すると『ファンタジーの自律性・発展性』に特徴がある。

ゲシュタルト療法のセラピストは、豊かなイメージを発展させたりイメージからの物語的な想像力を刺激するために、『暗示療法的な誘導』を行うこともある。意識を特定の方向に誘導する言語的暗示を用いた心理療法が『暗示療法(Suggestion Therapy)』であるが、催眠誘導を用いて変性意識状態(トランス状態)を作り出す『催眠療法(Hypnotherapy)』にも暗示療法としての側面がある。ゲシュタルト療法のファンタジー・トリップでは、『幻想(ファンタジー)の旅を進めていくナビゲーター=幻想・夢想の案内役』としての役割がサイコセラピスト(心理臨床家)に求められている。

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[家族療法のファミリー・グループ(family group)とプレイセラピー(遊戯療法):2]

家族療法のファミリー・グループ(family group)とプレイセラピー(遊戯療法):2

この記事の内容は、[前回の記事]の続きになります。ファミリーグループが持っている『エンカウンターの要素』『プレイセラピー(遊戯療法)の要素』が相互に作用してシナジー効果を得ることができれば、家族成員の心理的な悩みが解決しやすい心理状態が生まれやすくなる。それは、家族それぞれが抱えている苦悩や不満を率直に表現することにもつながり、お互いの苦しい心境をそのまま受け容れ合うことができれば、心理療法のプロセスが進みやすくなるということを意味している。

複数の家族が参加しているファミリーグループの家族療法であれば、『自分たちの家族以外の家族』から第三者的な目線で客観的な意見やアドバイスを貰えたりする副次的効果もある。他の家族と自分たちの家族とが相互に支え合って傾聴することで、『家族の問題』を共有しているという感覚が生まれるが、この問題共有の感覚・感情が『社会性の向上・受容性の高まり』といったカウンセリング効果を生み出し、自分たち家族だけが孤立して悩んでいるわけではないという安心感にもつながるのである。

エンカウンターグループとプレイセラピーのシナジー効果は、必然的に『共感性・受容性の実践感覚』『創造力・想像力のポジティブなビジョン』を作り出すのだが、ファミリーグループの集団療法ではこれらの効果を活用しながら、『心身の回復・家族間の信頼関係・機能的(現実的)な認知の獲得』を目指していくことになる。実際のファミリーグループによる集団療法(家族療法)がどのような形で行われるのかという事については、1980年代後半から1990年代に掛けての畠瀬稔・直子夫妻の自分たちの家族を参加させた実践的なファミリーグループ研究が参考になる。

ファミリーグループの集団療法(家族療法)に参加するメンバーは、『複数の家族集団+心理専門家(家族療法家)やスタッフ(ボランティア)』になるが、実際に実施する場合には『自由の多い集団生活を体験する合宿形式』になることが多い。宿泊が難しい場合には、一般的な集団療法や自助会と同じように、一定の時間を取って複数の家族で本音と本音のコミュニケーションを取ることができるように支援していく。

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[家族療法のファミリー・グループ(family group)とプレイセラピー(遊戯療法):1]

家族療法のファミリー・グループ(family group)とプレイセラピー(遊戯療法):1

ファミリー・グループ(family group)とは家族を対象としたエンカウンターグループ(集団療法)の対象であり、複数のメンバーが相互に作用し合っている『家族システム』を支持的かつ問題解決的に機能させることを目的にしたものである。

ファミリー・グループとは『一つの家族』だけを指すものではなく、『複数の家族を合わせた集団』を指すこともあり、例えば『3組の家族全員(親6人・子ども8人など)』エンカウンター・グループの対象となるファミリー・グループとして取り扱うこともある。

ファミリー・グループの基本理念はエンカウンターと同じく『価値のある出会い+オープンな本音の交流』であり、一つの家族の内部でそれぞれが言いたいことを言い合うだけでなく、複数の家族の間で“それぞれが抱えている家庭問題・適応問題・精神障害”について率直で共感的な意見を交換し合ったりもする。ファミリー・グループの方法論には『プレイセラピー(遊戯療法)』の実践や理論も取り入れられており、『本音と本音の交流に潜在する遊びの要素』を通して、普段言葉にできない内的世界の感情や葛藤を投影することで、心理的なカタルシス(感情浄化)の効果を得やすくなるのである。

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2011年12月31日

[不安性格(anxious personality)]

不安性格(anxious personality)

不安を絶えず感じやすくストレスに対して脆弱性を持つ人格構造のことを『不安性格(anxious personality)』というが、不安性格は不安神経症の病前性格と考えられてきた。S.フロイトの精神分析では神経症を発症しやすい病前性格を総称して『神経症的性格』と呼んだが、不安性格というのも神経症的性格の一種であり、『慢性的に不安感情を感じやすい性格構造・認知傾向・自己評価』という特徴を持っている。

不安性格の形成過程では、乳幼児期〜思春期に両親から十分な愛情・保護を与えられなかったり、学校でクラスメイトからいじめや仲間はずれをされたりといったトラウマティックな体験が見られることが多く、そのトラウマ(心的外傷)の影響によって『自尊心の傷つき・自己評価の低下』が起こりやすくなっている。不安性格はその性格形成過程において、何らかのトラウマティックな体験をしていることが多く、その結果として『自分の行動・発言・選択・能力』などに対する自信・確信を持てなくなり、慢性的な不安に襲われやすくなると考えられている。

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[不安(anxiety)と不安階層表(anxiety hierarchy):2]

不安(anxiety)と不安階層表(anxiety hierarchy):2

この記事は、[前回の項目]の続きになっています。社交不安障害(社会不安障害)というのは、かつて対人恐怖症と呼ばれていた精神疾患であり、他人とコミュニケーションをする『対人場面』や他人から自分の言動を見られている『社会的状況』において、異常に強い不安・緊張を感じてしまうというものである。

誰でも初対面の人と話したり大勢の人の前で演説したり板書したりする時には『一定の緊張・不安』を感じるものだが、社交不安障害(社会不安障害)では『上がり症・緊張しやすさ』だけでは説明しきれないほどの強い緊張・不安を感じて、赤面してまったく言葉が出てこなくなったり、手足が振るえて大量発汗をしたりする。

社交不安障害(社会不安障害)の人の自己否定的な認知(物事の捉え方)の特徴は、『自分が相手からバカにされるかもしれない・大きな失敗をして恥をかくかもしれない』という自信の低さであり、相手から否定や侮辱、非難されることを無意識的に恐れてしまって非常に強い緊張と不安に襲われてしまうのである。『不安』を中核症状とする各種の不安障害に胸痛する症状として、『動悸(心臓のドキドキ)・呼吸困難(息苦しさ)・大量発汗・手足の振るえ・頭痛腹痛・消化器症状』などの生理学的症状(自律神経失調症的な症状)がある点にも注意が必要である。特に精神病理学的な不安症状においては、これらの生理学的症状が必ず見られるとされている。

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[不安(anxiety)と不安階層表(anxiety hierarchy):1]

不安(anxiety)と不安階層表(anxiety hierarchy):1

精神疾患の代表的な精神症状に『不安(anxiety)』『緊張(tension)』があるが、不安とは恐怖ほどに具体的な恐れの対象がない感情として位置づけられている。不安とは『具体的な対象がない恐れ』であり、『現実的な危険や恐怖を伴わない恐れ』として定義されている。実際的に不安が体験される時には、『もしかしたら起きるかもしれない危険・破滅の事態』がイメージされることが多いが、そのイメージしている危険や破滅、困難が現実に起こる確率は極めて低いのが特徴である。

不安が極端に強くなって日常生活が困難になったり社会経済的な不利益が出てきたりすると、『不安障害』という精神疾患になる。不安障害は19〜20世紀の精神分析では大まかに『不安神経症』としてまとめられていたが、現在では不安障害に分類される精神疾患にはさまざまな種類がある。

代表的な不安障害としては、『全般性不安障害(GAD)・パニック障害・社交不安障害(対人恐怖症)』などがある。全般性不安障害では、将来や社会、他人に対する漠然とした曖昧な不安症状が見られる精神疾患であり、日常生活や職業活動に支障を来たす『不安症状』のもっとも典型的な現れとして理解することができる。全般性不安障害の未来や周囲に対する漠然とした不安の症状は、かつての不安神経症の中核的症状であり、その不安感情に自律神経失調症の身体症状(頭痛・吐き気・めまい・手足の振るえ・胃痛)が加わることで、日常生活や仕事に大きな支障がでやすくなってしまう。

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2011年12月29日

[ファシリテーター(facilitator)とファシリテーション(facilitation):2]

ファシリテーター(facilitator)とファシリテーション(facilitation):2

この記事は、[前回の項目]の続きになります。ファシリテーター(facilitator)とはミーティング(会議)やワークショップ、集団療法などにおいて、『集団の合意形成・メンバー間の相互信頼・共有される問題とテーマの解決』を促進する触媒的な人物のことであるが、実際の会議や集団療法の場面では『参加しているメンバーの支援・可能性の開発』も同時的に行うことになる。

集団の参加者が率直に自分の意見を述べやすいようにする環境や質問を準備したり、参加者同士が本音で語り合いやすいように話し合いの方向性を調整するのがファシリテーションであり、『最終的な目的』は集団の合意形成(会議の結論)やメンバー間の相互理解の深まりなどになる。

ファシリテーターが果たすことを期待されている具体的な役割・仕事は以下のように整理することができる。ファシリテーターが実施するファシリテーションとは『集団的コミュニケーションの建設的・支持的なプロセス』を促進することであり、組織や集団を活性化させ実際的な問題解決に向けて方向づけることも期待されている。

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[ファシリテーター(facilitator)とファシリテーション(facilitation):1]

ファシリテーター(facilitator)とファシリテーション(facilitation):1

ファシリテーター(facilitator)とは、複数の人が集まってミーティング(会議)やワークショップを行う場合に、その集団の目的やテーマに沿った建設的なコミュニケーションを促進して、参加者ひとりひとりのポテンシャル(潜在能力)を引き出そうとする役割を請け負った触媒的・援助的な人物のことである。

ファシリテーターは従来の会議のコンセプトで考えれば、司会・議長・リーダーと呼ばれる『会議の進行役・まとめ役』と同じようなものとも言えるが、ファシリテーターは『メンバーの上位に立つ権威的存在』ではなく『メンバーそれぞれを支援して能力・意見を引き出す存在』という部分が大きく違っている。

ファシリテート(facilitate)という英語の他動詞は、『〜を事前に準備する。促進する。助長する』という意味で、大まかに言えば『他者を間接的に支援して手助けする』ということであり、このファシリテーション(facilitation)の包括的概念はカウンセリングやコンサルティングの方法論・目的とも重なっている。

多くの企業や団体が『無駄・非効率なミーティング(会議)』を減らし、『有益・効率的なミーティング(会議)』を増やしていくという目的を持って、ファシリテーターの育成研修に力を入れていたりもするが、ファシリテーションの本質はカウンセリングの集団療法(エンカウンターグループ)に見られるような『他者の可能性の開発・他者の意見やアイデアの促進』にこそある。

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2011年12月14日

[ファザリング(fathering)・マザリング(mothering)とイクメンの子育て:2]

ファザリング(fathering)・マザリング(mothering)とイクメンの子育て:2

この項目は、[前回の記事]の続きになります。母性だけに焦点を当てた発達理論が多い中で、子どもの精神発達に対する『父性の役割(父親の心理的影響)』にも言及しているのが、ジークムント・フロイトの精神分析における『エディプス・コンプレックス』の理論である。エディプス・コンプレックスは一般的には『母親(異性の親)に対する独占欲求・性的関心』『父親(同性の親)に対するライバル心・憎悪』の葛藤として説明されることが多いが、発達心理学的には父性の権威的な指示・規制による『超自我の発達・社会性の獲得』といった家族・母親からの自立心の芽生えが重要になってくる。

エディプス・コンプレックスは女児の場合にはエレクトラ・コンプレックスとも言われるが、いずれにしても異性の親への独占欲・依存性が同性の親から挫折させられる葛藤経験であり、『過度の母子密着・家庭依存の弊害』を抑制するという働きをする。母性原理は家庭の内部に子どもをそのまま留めて、包み込むように保護したり愛情を注いだりする役割をするが、母性原理ばかりが強すぎると『子どもの自立心・社会化』が阻害されやすくなる。父性原理は家庭の外部へと子どもを送り出し、切断するように社会規範を示したり母からの自立を促進したりする役割をするが、父性原理ばかりが強すぎると『子どもの安心感・基本的信頼感(自尊心)』が阻害されやすくなる。

子どもの心身の健全な発達と超自我(社会性・道徳性)の獲得のためには、母性原理と父性原理のバランスの取れた育児が大切であり、『包み込んで愛するマザリング』だけでも『切断して自立させるファザリング』だけでもどちらかに偏りすぎると、子どもの精神発達や性格形成、社会適応に何らかの問題が生じるケースがでてくる。しかし現代では、『亭主元気で留守がいい・家庭に居場所のない父親・男性の帰宅拒否症候群・妻の夫在宅ストレス症候群・熟年離婚』のように、どちらかというと子どもを自立させて社会化させるよりも、母子密着を前提にして父親の居場所のほうが無くなるという問題が起こっていて、『父性の欠如』は深刻化しているとも言われる。

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[ファザリング(fathering)・マザリング(mothering)とイクメンの子育て:1]

ファザリング(fathering)・マザリング(mothering)とイクメンの子育て:1

従来の発達心理学や家族療法の“育児”の項目では、近代社会(男性中心社会)のジェンダーの影響を受けていることもあり、育児の主体を『母親・女性』に置いてきた。乳幼児の心身の健全な発達に必要なのは、何よりも授乳をする母親(女性)の『無条件の愛情・関心・スキンシップ』であり、母親の保護や愛情が与えられない『母性剥奪(mother deprivation)』が起こると、各種の情緒障害・発達障害(発育障害)のリスクが格段に高くなると考えられてきた。

母親の母性的な育児行動や役割、愛情の付与、心理的ケアのことを『マザリング(mothering)』といい、父親の父性的な育児行動や役割、社会化の促進、心理的ケアのことを『ファザリング(fathering)』というが、発達心理学ではファザリングについての研究の数はマザリングと比べると圧倒的に少ないのが現状である。男女共同参画社会の推進や女性の就労率の向上などの時代的変化はあっても、『男性は仕事・女性は家事育児』という伝統ジェンダーの影響は今でも強く、子どもが産まれればフルタイムで働いている女性であっても育児の中心は母親になることのほうが多い。

仕事と家庭・育児の両立で悩んでいる女性は多いし、『母親・妻・会社員(社会人)』といった多重役割(マルチロール)の規範や負担はどうしても働いている女性のほうが大きくなりやすい状況にある。現在では男女平等主義や家庭の役割分担、マスメディアの影響もあり、若い世代を中心にして『イクメン』と呼ばれる育児をする父親・男性も増えているが、慣れていないイクメンの育児行動は中途半端な協力に終わることが多く、かえって母親の仕事や手間を増やすという不満が出されることもある。イクメンのムーブメントそのものは、『ファザリングの肯定的な影響・男性の積極的な育児参加・妻への協力支援』の点で非常に好ましいものだが、『自分が手伝える育児行動・最後までしっかりとやり終える育児協力』を工夫していくことで、更に夫婦関係・親子関係の親密さや信頼感が深まっていくことになるだろう。

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2011年01月31日

[フリースクール・オルタナティブスクールと学校教育]

フリースクール・オルタナティブスクールと学校教育

米国のフィラデルフィアに1969年に設立された代表的なフリースクール、オルタナティブ・スクールの実施形態の要綱及び基本理念が、『パークウェイ・プログラム(Parkway Program)』である。厳密な定義では、フリースクールとオルタナティブ・スクールは同一の学校概念ではなく、広義の非義務教育・選択可能な学校教育であるオルタナティブ・スクール(選択可能なもう一つの学校)の一つとして、フリースクールという概念がある。

フリースクール(Free school)の“free”には、『自由』だけではなくて『無料』の意味が込められており、初期のアメリカ・イギリスでのフリースクールは『授業料無料の公立学校・低所得者向けの無償学校』のことを指していた。しかし現在では、フリースクールと言えば、不登校・学校不適応の子どもを受け容れる『既存の学校教育の枠組み』とは異なる機関・施設のことを意味することが多く、主流・伝統的な学校教育とは異なる『オルタナティブ・スクール(教育選択肢)』とほぼ同じ意味で使われている。

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2010年06月20日

[登校拒否(school refusal)・不登校]

登校拒否(school refusal)・不登校

学校に通学することを拒絶した状態を『登校拒否(school refusal)』と呼んでいたが、最近は学校に行かなければならないという義務感や責任追及の度合いを弱める意図もあってより中立的な『不登校』という概念が使われるようになっている。登校拒否という概念には『学校に通学する=正常・学校に通学できない=異常』という価値判断が包摂されている。

かつては、登校拒否を特定恐怖症(神経症)の一種と見て、『学校恐怖症』という病名が提起されたこともあった。だが、不登校の状態にある生徒は必ずしも学校・通学を恐怖の対象として認知しているわけではないので不適切な命名である。『登校拒否』という概念についても、不登校の状態にある生徒は必ずしも『学校に行くことを積極的に拒否しているわけではない(学校に行きたくても行けない心理状態がある)』ということがあり、登校拒否は適切な概念とは言えない面もある。

不登校が発生しやすいのは、学校の友人関係(友人との力関係)が複雑化したり授業内容が高度になってくる『小学校高学年〜中学生の時期』である。不登校の特徴として『学校に行かなければならないという義務感・学校に行きたいという意志』そのものはあるが、いざ朝になって学校に行こうとすると“腹痛・下痢・頭痛・気分の悪化”などが起こって、学校に行けなくなってしまうということがある。不登校の初期には精神的ストレスや不安感の持続によって、各種の身体症状が前面に出やすいこともあり、ストレスが過剰になると胃炎・胃潰瘍といった心身症を発症することもある。

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2010年04月22日

[ジャック・デリダのファロ・セントリスム(男根中心主義,phallo-centrism)]

ジャック・デリダのファロ・セントリスム(男根中心主義,phallo-centrism)

ポストモダンの哲学者ジャック・デリダ(Jacques Derrida,1930-2004)は、階層的な二項対立図式の枠組みを内部から論理的に解体する『脱構築(deconstruction)』の技法を確立しようとした。

西洋哲学の伝統的な形而上学に潜む『矛盾・差別・欺瞞の構造』を脱構築によって浮かび上がらせ、その構造を中立的・公正的な観点から批判しようとしたのである。紀元前6世紀にまで遡る古代ギリシア哲学の時代から、西欧の形而上学には『男性−女性・理性−感情・精神−肉体・普遍−特殊・真理−虚偽・神聖−世俗』といった階層的な二項対立図式(二元論)が刷り込まれてきた。

西洋哲学や形而上学は『普遍的な知識・客観的な認識・根本的な存在』を追求してきたが、二元論の図式の中に無根拠に『優位−劣位』という価値判断を導入することによって、普遍的な知識(真理)から遠ざかってしまったとデリダは指摘する。

伝統的な形而上学では、男性の女性に対する優位、理性の感情に対する優位、精神の肉体に対する優位が、合理的な根拠なく無条件に仮定されてしまっている。そして、そのことが『男性中心社会(男性原理による女性支配)』や『禁欲的・宗教的な倫理規範』を無条件に正当化してきたというのである。

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[ファルス(phallus)と男性中心主義]

ファルス(phallus)と男性中心主義

前近代的な未開文明社会では、男性器に類似した木石が『神』として祀られたり、男性器の形態や表象、大きさが『権力の象徴』として認識されたりするが、これは男性中心主義(男性原理)に根ざした民族社会の『集合無意識』として解釈することができる。

医学的・解剖学的な身体器官としての男性器は『ペニス(penis)』と表現されるが、精神分析的・文化民俗的な象徴的意味(象徴的イメージ)としての男性器は『ファルス(phallus)』と呼んで区別される。

ファルスが『権力・支配・優越性』の象徴として機能する社会は、伝統社会・未開文明を含めて非常に多いが、特にファルスの権力や優等の象徴性は『家父長制社会・男性中心社会』の基本的価値観(社会通念)と深く結びついている。男性の女性に対する優位性、父親(夫)の母親(妻)に対する支配性など男性中心社会で共有されているイメージが、『ファルス』を権力の源泉として崇拝する原始的・本能的な心理を強化していると言える。

しかし、現代社会における男女同権思想・ジェンダーフリー思想の浸透によって、『ファルスの権力表象』は過去よりも衰えてきていて、現代の欧米社会は『女性原理』で運営される女性中心社会に傾きつつあるといわれることもある。男性が自分の男性器の大きさを気にしたり、他の男性と比較して劣等コンプレックスを持ったり、小さいと思い込んでED(勃起不全症候群)を発症したりすることも、男性中心社会における『ファルス(男らしさ)の象徴的意味』の心理作用として理解することができる。

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2010年03月18日

[パリ・コミューン(Paris commune)とフランスの第五共和政までの歴史]

パリ・コミューン(Paris commune)とフランスの第五共和政までの歴史

この記事は、[前回の記事]の続きになります。パリ・コミューンは、教会と国家の政教分離を宣言し、無償の義務教育制度を確立し、女性の参政権を導入し、児童の夜間労働を禁止しようとしたが、政権の統治期間が極めて短かったために、それらの政策の多くは理念的な導入に留まった。カール・マルクスは『フランスの内乱』の中で、パリ・コミューンをプロレタリアートによる社会主義政権のモデルのように描いており、史上初の(裕福なブルジョア市民層ではない)労働者や大衆による市民革命に位置づけている。

コミューンという都市国家的な共同体を、『労働者階級のための自治政府』のようにマルクスは捉えていた。カール・マルクスは社会主義革命におけるプロレタリア独裁のためには、ブルジョア市民階級ではなく労働者階級が率先・団結して立ち上がらなければならないと主張しており、パリ・コミューンをその理想に近い労働者階級・大衆層の自発的な革命政府として解釈していたのである。

パリ・コミューンは労働者階級を主体とする革命政府(自治政府)であり、直接民主主義の理想に近い共和主義政体でもあったが、『市民の市民による市民のための民主政治』をラディカルな理念と実践で実現しようとした。パリ・コミューンは、労働者の労働条件や生活状況の改善を『政治の目標』に設定しており、男女平等の参政権の導入や子どもの義務教育の実施、児童深夜労働の禁止など市民生活の向上を目指す『リベラルな政策』を実現しようともしていた。

パリ・コミューンはパリの街中に無数のバリケードを築いて、暴力的・主体的な実力行使で労働者階級による自治を確立したが、ブルジョワ市民階級(その他の一般市民)にとっては労働者・大衆の暴力は威圧的な脅威(無秩序な政治状況)でもあり、政府軍によるパリ・コミューンの解体は好意的に受け止められた面もあった。

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[パリ・コミューン(Paris commune)とフランスの市民革命・共和政]

パリ・コミューン(Paris commune)とフランスの市民革命・共和政

この記事は、[前回の記事]の続きになります。第二共和政はナポレオンの甥であるルイ・ナポレオンが、1851年12月2日にクーデターを起こして崩壊する。1852年には、国民投票を経てルイ・ナポレオンは皇帝ナポレオン3世となり、『第二帝政 (1852-1870)』がスタートした。

ナポレオン3世は数多くの対外戦争に勝利してフランスの領土・利権を拡張することに成功したが、スペインの王位継承権を巡ってビスマルクが率いるプロイセンと対立し、『普仏戦争(1870-1871)』で戦って敗れる。セダンの戦いでプロイセンに捕虜にされる屈辱を味わったナポレオン3世が失脚して、第二帝政は崩壊することになり、『第三共和政(1870-1940)』が始まる。

ナポレオン3世が失脚すると、1871年9月4日にトロシュ将軍を首班とする『国防政府(臨時政府)』が成立し、1871年2月26日には臨時政府の代表となったアドルフ・ティエールが、ドイツに対してアルザス・ロレーヌの割譲と50億フランの賠償支払いを認めて講和条約を結ぶ。しかし、パリ市民はこの1871年5月のフランクフルト講和条約の内容やドイツに対する臨時政府の弱気な外交に強い不満を持っており、パリ市民軍や労働者階級は政府の『武装解除の命令』に従わず武装蜂起を起こした。

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[ナポレオン3世の第二帝政とフランスの市民革命・帝政]

ナポレオン3世の第二帝政とフランスの市民革命・帝政

ナポレオン3世(1808-1873)が皇帝となったフランスの『第二帝政(1852-1870)』は、プロイセンとの普仏戦争(1870-1871)に敗れたことで瓦解することになる。1789年に勃発したフランス革命は、国王のいない市民が政権を担う『共和主義政体』を理想とする革命であったが、ロベスピエール率いる国民公会が倒れてからは、復古王政や帝政の政体が続いていた。

フランス革命以後の政治体制の歴史は、1792年〜1804年の『第一共和政(国民公会・総裁政府・執政政府)』の後に、ナポレオン・ボナパルトが皇帝に就任する『第一帝政(1804-1814)』が樹立し、ナポレオンが失脚するとルイ18世の『ブルボン第一復古王政 (1814-1815)』で再びブルボン家の国王に政権が戻った。

エルバ島から帰還した皇帝ナポレオンが一時的に帝位に復活する『百日天下 (1815)』があったがナポレオンは政権運営に失敗して、再びシャルル10世『ブルボン第二復古王政 (1815-1830)』へと続いていく。

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2010年01月12日

[ジル・ドゥルーズ,フェリックス・ガタリの『アンチ・オイディプス』とオートポイエーシス]

ジル・ドゥルーズ,フェリックス・ガタリの『アンチ・オイディプス』とオートポイエーシス

この記事は[前回の記事]の続きになります。『限定・規定・決定』を排除するような相対的概念を『ノイズ』とするならば、精神医学・社会科学の分野で現代思想を展開したジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの『アンチ・オイディプス』『千のプラトー』でも情報的にはノイズと見られる鍵概念が多く考案されている。

『アンチ・オイディプス』でドゥルーズ=ガタリは、S.フロイトの精神分析の“エス(無意識的な欲求)”に基づいて、人間社会の歴史的発展論を展開している。『原始土地機械→専制君主機械→資本主義機械』へと段階的かつ無意識的に発展するという主張をしているのだが、この理論構成で重要なのは『人間個人の主体性・自由意志(自我)』とは無関係に、『無意識的な機械(エスの反映された機械)』として社会運営が定義されているところである。

ドゥルーズ=ガタリの『アンチ・オイディプス』でいう“オイディプス”とは、個人の自由性や自立性を抑圧する『あらゆる社会的な装置・無意識的な機械』のことであり、資本主義・国家主義・民族主義・家族主義・宗教教義などがオイディプスとして個人を支配し抑圧していることを示している。ドゥルーズ=ガタリが出した暫時的な結論は、これらの無意識的に形成される機械(社会制度・政治装置)からの『逃走』であるが、この逃走という概念も具体的な逃走の手段・目的が呈示されていないことから情報的にはノイズとしての側面を持っている。

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2009年12月30日

[プリゴジンの“散逸構造・ゆらぎ”とジャック・デリダの現代思想]

プリゴジンの“散逸構造・ゆらぎ”とジャック・デリダの現代思想

[前回の記事]では、イリヤ・プリゴジンの散逸構造論をベースにして自己組織化論(エントロピー増大法則の反駁)を解説したが、ノイズや無秩序から『局所的な秩序』が形成されるという考え方は現代科学(複雑系・システム論)だけではなくて、古代ギリシアのカオス(混沌)の哲学や神話にも見られた。

自生的・自発的な秩序として典型的なものとしては『生命・生殖(生理学的機構)』『制度・慣習(社会学的秩序)』があるが、古代ギリシアでは無秩序や無根拠の原因としてノイズ(莢雑物)が見られる傾向があった。

しかし、『生命・生殖』『制度・慣習』の秩序は、分かりやすい意図や行動(計画)といったシグナルで作られるというよりも、カオティック(混沌的)なノイズからの偶然的・自然的な飛躍によって生まれるというのに近い。プリゴジンの散逸構造の自己組織化論が示唆するのは、決定論的な世界観でもなく自由意志に基づく世界観でもない『不確定性・非決定性・非限定性の世界観』であり、この世界観を数学的に確証したのがハイゼンベルク『不確定性原理』である。

不確定性原理の数学的証明はやや複雑であるが、ハイゼンベルクがモデルとして言及したのは、物質(粒子)の位置と運動量を同時的に確定して測定することは不可能だということである。

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