K.キーティングの抱っこ療法(hug therapy)
看護師資格を有する心理療法家のキャサリン・キーティング(K.Keating)が提起した『抱っこ療法(hug therapy)』は、肌と肌を触れ合わせて安らぎや癒しを得る『スキンシップ・セラピー』の一種である。母親と赤ちゃんのスキンシップが健全な『愛着(attachment)』の形成に関係していることは良く知られている。
精神分析家のジョン・ボウルビィは不安感・孤独感を軽減する『愛着(アタッチメント)』が、良好な母子関係を形成することや乳幼児の健全な心身の発達に役立つことを指摘している。健全な愛着の形成によって『基本的信頼感・基本的安心感の獲得』が促進され、乳幼児期の子どもが母親を分離不安を緩和するための『心理的な安全基地』として活用することができるようになるのである。
スキンシップは『肌と肌の接触を伴うふれあい』のことであり、母親と子ども(乳幼児)の間の親密なふれあいの必要性と有効性は、H.F.ハーロウ(H.F.Harlow)のアカゲザルを用いた『はりがねマザーの実験』でも確認されている。
H.F.ハーロウの実験では、はりがねで出来ていてミルクの哺乳瓶を付けた『はりがねマザー』と毛布で出来ていてミルクの哺乳瓶が付いていない『布製マザー』の代理母親を準備した。アカゲザルの赤ちゃんは、ミルクを貰える『はりがねマザー』よりも、スキンシップの温かさ・肌触りの良さを得られる『布製マザー』のほうを好んだのである。
アカゲザルの赤ちゃんの『布製マザー』への依存行動と愛着形成は、発達早期における『母性的保護・愛情の必要性』を示しているが、これは人間の乳幼児(子ども)にも共通することである。
母性的な愛情やケア、スキンシップが極端に欠如した児童福祉施設(乳児院)などで育てられると、赤ちゃんの免疫力が低下して病気にかかりやすくなったり、情緒機能やコミュニケーション能力の発達に問題が起こりやすくなったりする。『母性的ケアの剥奪・強い愛情の飢餓感』によって心身の発達過程や免疫力に問題が起こるということは、ルネ・スピッツの[ホスピタリズム(施設病)]によって示唆されている。
スキンシップには『抱っこ(抱擁)・キス・ほお擦り・背中をさする・おんぶする・手を握る』などがあるが、K.キーティングの『抱っこ療法(ハグ・セラピー)』では特にお互いの存在を受け容れあう形の『ハグ(抱っこ・抱擁)』が重視されている。子どもだけではなく大人でも他者から『ハグ(抱擁)』されることによって、安心感と受容感、尊重されている感覚などの肯定的な効果をダイレクトに実感することができる。
抱擁(ハグ)には、人間の不安感や孤独感、悲哀感を直接的かつ感覚的に癒してくれる効果があり、その本能的欲求を満たしてくれる効果は子どもでも大人でも変わらないと言える。スキンシップの効果・影響を応用したカウンセリング(心理療法)のことを[スキンシップ療法]というが、適切な抱擁などのスキンシップをカウンセリングに導入することで、人間関係を円滑化したり心身の健康状態を回復したりする効果が期待できる。インフォームド・コンセントを得た他者と心を通い合わせるようなハグ(抱擁)をすると、傷つけられた自尊心(自信)を回復させたり、落ち込んだ抑うつ的な気分・悲しい思いを改善させられることもある。

