自己臭恐怖症と自己受容(self acceptance)
自己臭恐怖症(自己臭症)とは自分の身体から不快な臭いがしているという妄想を生じ、その臭いのために他人に迷惑を掛けて嫌われるのではないかという恐怖を感じる精神疾患である。思春期・青年期に好発する神経症水準の精神疾患とされ、妄想観念・強迫観念の強い自己臭恐怖症(自己臭症)の一部は、社会的な不適応状態に陥ったり統合失調症に遷移するものもある。基本的には心因性の不安性障害・妄想性障害であり、社会不安障害(対人恐怖症)や回避性人格障害などとオーバーラップ(重複)して発症することもあるので、その背景には対人的なストレスや緊張が関係していることも多い。
自己臭恐怖症の対象となる自分の臭いは『口臭・体臭・おならの臭い』などであるが、実際にそういった不快な臭いがしているケースは少なく、臭いがあるとしても普通の人には殆ど気にならないような微かな臭いであることが多い。実際には特別に臭いにおいがしているわけではないのに、自分で自分の身体やおならが臭っていると感じる妄想のことを『自己臭妄想』といい、自己臭妄想は通常自分の力だけでは訂正することが不可能である。自己臭妄想を伴う自己臭恐怖症に対しては、妄想観念を適切に修正するための認知行動療法的なアプローチが粘り強く続けられるが、対人関係を円滑にして緊張を無くすためのロールプレイング(自己主張訓練)が妄想の軽減に役立つこともある。
自己臭妄想が生じるきっかけはさまざまであるが、『他人から嫌な表情をされた・顔を背けられた・鼻をふさぐ仕草をした・窓を開けられたり換気をされた』といった他人の行動を観察して自己臭症が発症することが多いようである。自分の身体の内部から『不快な悪臭』が漏れ出してそれをとめることが出来ないといった種類の妄想を生じ、その自己臭妄想が深刻化して他人と対面することが出来なくなると自殺衝動が高まるといった人もいる。実際に口臭・腋臭・汗の臭い・体臭などの臭いがあって悩んでいる人でも、その悩み方が強い対人恐怖を伴うもので日常生活に支障が起こっていれば、腋臭や口臭の治療と合わせて自己臭症に準じた心理療法を受けたほうが良い。
自己臭症を社会不安障害(対人恐怖症)の一種とする見方も強くあり、その場合には『恥ずかしい思いをするのではないか・馬鹿にされるのではないか・不潔な人間として軽蔑されるのではないか』といった他者に対する不信感・不安感が自己臭症の原因となっていることがある。その場合には、社会不安障害の問題を軽減するための行動療法やクライエント中心療法を行っている途中で、自己臭症が自然に改善してしまうこともあるが、基本的にはなかなか完治しにくい不安性障害(神経症)としての特徴を持つ
ロジャーズのクライエント中心療法を実施する場合には、『自己受容(self-acceptance)』の促進が自己臭症克服のキーポイントになるが、自己受容とは自分を実際より良く見せようなどと考えずにあるがままの自分の価値を受け容れるということである。自分で自分の自然な存在価値を受け容れて、現在以上の自己変革につなげていくことで、無理のないあるがままの姿と向き合うことができるようになる。自己臭症の原因の一つは『自分の弱い部分・自分の汚い部分』を見られたくないという気持ちがあり、それを見られると自分は完全に嫌われてしまうという思い込みがある。
そのため、飾らない自然な自分のままで他人と向き合ってみて、他人から特別に嫌われることがないと分かれば、自己臭症が社会不安障害と合わせて回復する可能性がある。自分で自分を嫌っている部分や自分のことを否定している部分をありのままに受け容れていくことが『自己受容』であり、カウンセリングにおけるクライエントの『自己照合(自己言及・自己概念化, self reference)』を通して自己受容のプロセスは進展していくことになる。簡単に言えば、自己嫌悪感を克服して普段の自分の姿を好きになることができれば、自己受容の効果によって社会不安障害にまつわる問題の多くが改善の方向に向かうと考えられる。

